2009.03.26
中古住宅の価値見直し ~リユース市場の活性化が日本の未来を切り開く!?
最近、若い世代において中古住宅への関心が高まっているという。株式市場の低迷が続き、経済の閉塞感が高まる中で、新築の住宅を購入するよりも、構造のしっかりした中古住宅を購入して自らの好みに合うようにリフォームした方が、より”買い得”であるという堅実な判断が若い世代を中心に根付き始めているようだ。実際、平成19年度に国土交通省が実施した住宅市場動向調査によると、分譲住宅の購入に要した資金の平均は3,944万円、一方で中古住宅の購入に要した資金の平均は2,432万円だという。同調査結果によると、リフォームにかかる費用総額の平均は277万円だというから、リフォーム費用を含めても平均的に1,000万円以上割安になる計算だ。
折しも、政府によって「200年住宅」という言葉をキーワードとした長寿命住宅の推進が図られており、平成21年6月には「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が施行される。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」とは、長期にわたって良好な状態で使用するための措置が施された「長期優良住宅」について、その建築及び維持保全計画を認定する制度の創設を柱とする法律である。この法律では、少子高齢化及び環境問題の深刻化に伴い、「良いものを作り、手入れして長く使う」ことで廃棄物の排出を抑制し環境負荷の低減を図るとともに、国民への住宅購入負荷を軽減することを目指している。
元来、日本の住宅の滅失(自然災害や取り壊しなどによる住宅の消滅)平均築後年数は30年であり、アメリカの55年、イギリスの77年と比べて短いことが指摘されている(出典:国土交通省社会資本整備審議会 住宅宅地分科会(第14回、平成20年1月)参考資料)。そのため、住宅購入時に組んだ30年・40年ローンの支払いを終えた頃には、住宅の資産価値がほとんど残っていないという状況が常態化している。滅失平均築後年数を“住宅の寿命”と捉えると、日本における住宅の平均寿命の短さには2つの要因が考えられる。ひとつは、戦後から高度経済成長期にかけて”量”を重視した住宅の普及が最優先され、居住性・耐久性の低い住宅が多く建築されてきたために、一定年数を経過すると老朽化に耐えられず建て替えざるを得ない点である。いまひとつは、バブル期に形成された土地神話によって後押しされる形となった「いつかはマイホームを」という持家志向の高さが、25年から30年という世代交代周期での住宅の建て替え・売買需要を誘発している点だ。
これに対して、政府は良質な住宅の建築を促進し、長期にわたる国民の住生活の安定と将来世代へのストックとしての継承を図る狙いで長寿命住宅への転換を推進している。こうした政府の動きに呼応するように中古住宅市場が活性化を始めている背景には、前述した割安感だけでなく、現代社会に適応した価値観や生活スタイルの変化も一役買っていそうだ。
これまで、経済の発展に伴い、消費者の生活は「より便利に」「より手軽に」発展することが追求されてきており、使い捨て可能な消費財が安く提供されてきた。しかしながら、環境意識の高まりと、技術進歩や企業努力による耐久消費財の廉価実現が、使い捨てではない財の利用を促進している。例えば、環境意識の高まりは再利用可能な電池や省エネ家電の普及を促進し、廉価実現は使い捨てカメラからデジタルカメラの個人所有へと姿を変えている。また、環境意識の高まりと相俟って、経済の失速は中古品を扱うリユースビジネスに計らずも貢献している。株式市場の低迷の中にあって、ブックオフなどのリユースビジネスが底堅く推移しているのは、中古品を買うことの割安感と、自らの所有するゲーム・CD・書籍等を換金できることの利便性が、不況時における消費者の生活防衛意識にマッチしているからに他ならないだろう。インターネットによる中古品のオークションも、買い手・売り手双方にとってメリットのある取引形態として定着してきている。
「使い捨て」から、「長く使うこと」に財の価値を追及しはじめた経済において、「長く使うこと」は「長く所有すること」とイコールではない。財の視点から捉えれば、時々によって所有者を変えながらも財としての寿命を長く保つことによって、環境にも消費者の財布にも優しい経済が実現しつつあるのだ。その視点で考えると、近年のレンタルビジネスも同じ土台に立つビジネスであると考えることが出来る。カーシェアリングのように、個人の視点で見れば「資産を所有しない」「使いたい時だけ使う」という利便性を実現しながら、財の視点では耐用年数の期間を最大限活用することで財のそのものの消滅‐生産サイクルを最大まで長期化することが可能だ。
それでは、住宅市場を振り返ってみた場合、日本において「住宅の長寿命化」は根付き、浸透するだろうか。
長寿命化が実現して中古住宅市場の流通が欧米並みに普及すれば、持家志向によって25~30年の周期で「家を買いたい」という需要が従来通り発生した場合でも、中古の住宅が購入当時と同じ価格もしくはそれに近い価格で売却でき、賃貸に近い感覚で容易に住み替えが利くようになる。もちろん、ずっと同じ住居に住み続け、自分の子供・孫の世代まで資産を継承していくことも可能だ。賃貸住宅の市場においても、住宅の長寿命化が実現すれば新築から建て替えまでのサイクルが長期化することになり、オーナーの建て替え負担軽減が実現される。中長期的には、長寿命化は日本の不動産価格にも影響を与えていくだろう。また、生活スタイルの変化に対応するため、100年以上の耐久性を持つ骨格部分と、生活スタイルの変化に応じて可変的な内装・間取りを実現するSI(スケルトン・インフィル)住宅も研究・開発されている。しかしながら、日本に長寿命住宅が根付くためにはいくつかの課題があると考えられる。
ひとつには、長寿命化を実現するためには、日本の風土・気候が弊害になると考えられる点だ。日本は地震大国であり、かつ湿潤の気候環境を持つ。100年、200年と耐えられる住宅を建築するためには、耐震強度が高く、結露を防ぐ高気密性を備える必要がある。欧米諸国の住宅とは気候環境が異なるため、欧米の長寿命住宅をそのまま日本へ転用することはできない。今後建築される住宅は、「安く、大量」に供給されてきた過去の住宅とは異なり、日本の気候環境に適した建材と工法を用いて建築される必要がある。また、現存する住宅に対しては、耐震設備や断熱性・換気性能を高めるためのメンテナンスが必要不可欠となる。中古住宅に対する消費者意識を改善し流通の活発化を図るためにも、建物の骨格構造を有効利用しながら、外・内装のリフレッシュを行うなどの取り組みも必要になるだろう。
二つめには、中古住宅を購入する際に、住宅ローン減税が受けられないなど、新築であれば受けられるはずのメリットを享受できない場合がある。住宅ローン減税の適用には、建築から一定の年数以内であること、もしくは一定の耐震基準を満たすことが条件として求められる。「一定の年数」とは耐火建築物であれば築25年以内、木造であれば築20年以内を指す。また、「一定の耐震基準」とは、新耐震基準を満たすことが建築士によって証明されていることを指す。中古住宅市場の活性化を対象としているのだから、年数条件をクリアすることは出来ない。従って、必然的に中古の住宅が如何に新耐震基準を満たしているかが重要になる。今後建築されるような、長期優良住宅の普及の促進に関する法律に規定される「200年住宅」については住宅ローン減税を優遇する措置が既に税制改正案に盛り込まれている。重要なのは、現存する住宅を専門家である建築士の目でしっかりと評価し、中古住宅市場に取り込める仕組みを構築することである。
住宅は、一般消費財と違って価格が高く生涯の購入頻度も低いことから、「200年住宅」の普及は長い道のりとなるだろう。だからこそ、それぞれの課題をクリアして現存の住宅を如何に「長寿命住宅」へ変えていくか、が重要になる。政府による取り組みは、新規住宅の「200年住宅」化を推進するだけではなく、現存住宅に対するリペア・メンテナンスを促進していくものでなければならない。
日本には「もったいない」という、世界に誇るべき美しい言葉がある。「もったいない」を実践せずに財の普及と利便性だけを追い求めた時代を反省しつつ、新たな時代の潮流として定着し始めている中古品の市場流通が日本の未来を明るく照らす一遍の光となることを期待したい。
馥郁梅香