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2009.03.06

ニューエコノミーが労働者に求めるものとは

 雇用環境は厳しさを増している。41年ぶりに失業率の上昇幅が月次で0.5ポイントを記録(2008年11月3.9%、12月4.4%)し、世界的な金融危機の影響が雇用に及んでいることが明確になってきた。失業率は、景気変化のスピードと比べると遅れて顕在化する傾向があるため、輸出、生産、設備投資の歴史的な大幅減を受け、雇用調整はこれから本格化し、失業率はさらに上昇することが見込まれる。この影響を最も受けているのが派遣労働者であり、今後その影響の範囲は正社員まで広がると言われている。
 また、派遣労働者を中心として、どんなに働いても自立した生活を行うために必要な収入さえ稼げない低所得者層・貧困層の増加も雇用環境の厳しさの象徴となっている。企業はグローバル化した市場において更なる競争力の強化を図るために、一層のコスト削減を行い、そのしわ寄せが彼らの賃金にきている。
 一方、バブル崩壊で痛手を受けたものの日本の高所得者層はOECD平均以上の所得を手にしている。日本の所得上位10%の国民所得平均は6万ドルであり、OECD平均の5万4000ドルよりはるかに高い。つまり、OECD加盟国の中でも日本の高所得者層の存在が際立っている。

 この様に、我々が現在置かれている労働環境の中においては、対照的な現象が存在しているが、我々はこれらを如何に捉え、今後行動すべきだろうか。現在の労働環境が創り出された要因を検証し、今後我々が如何に行動していくべきか考えてみたい。

 上記を検証する上で、インターネット、ブロードバンドの飛躍的な拡大を通じた第三次産業革命以前を「オールドエコノミー(工業化時代)」、以後を「ニューエコノミー(新興経済時代)」と分類し、両時代における競争環境や技術革新の違いを確認してみたい。
 オールドエコノミーのもとでは、生産者と売り手は今に比べればかなり楽に生きて行く事ができた。規模の経済性と安定した市場は、過度な競争から大企業を保護してくれた。買い手にとっては、距離の制約や限られた情報の中で製品・サービスの選択をせざるを得ず、地元の小売店は、同じ地域内の他の店やサービスとのみ競争していればよかった。
 技術革新の多くは、基本的な部分よりはむしろ既存技術の改良程度のものであった。例えば、自動車の後部フィンは十分に改善されたが、サスペンションとエンジンの品質は徐々にしか改良されなかった。また、労働組合によって産業別賃金交渉が行われたため、賃金上昇は同じ産業のすべての企業に同じ様に及んだので、企業の競争条件を変えることもなかった。
 一方ニューエコノミーにおいては、買い手にとって生産規模、距離または情報による制約はより少なくなっている。世界中の殆ど至るところから得られる製品とサービスの選択が拡大し、価格と品質についてより良い比較データが入手できるため、より簡単に良いものに切り替えることができるようになった。買い手がより良い取引に簡単に切り替える事ができれば、売り手にとって買い手をひきつけ、維持するのはますます難しくなる。
 生き残るために全ての組織はこれまで以上のコスト削減、付加価値創り、新製品の創造といった、抜本的で絶え間ない改革をし続けなければならない。この激動の結果が、より良い、より速い、そしてより安い製品とサービスを生み出しているのである。

 この様に、オールドエコノミーとニューエコノミーでは、競争環境や技術革新の内容そのものが圧倒的に違うのである。その結果、労働者はその違いから生じる変化を受容しなければならない。その中でも、特に変化の大きいものとして「求められる労働者像と収入格差」「労働を通じたリスク」「キャリアに対する考え方」の3つが上げられる。
 「求められる労働者像と収入格差」については、より良い製品・サービスを提供する競争が激しくなればなるほど、それを実現することができる洞察力とアイディアを持つ人々への需要が増している。もちろんその様な人々への需要は供給より速く増えるので、彼らの所得は押し上げられる。
 一方で、オートメーション化や、世界中の低賃金で働く労働者によって、より速く、安くできるようになる単純作業を行っている人々(派遣労働者など)の賃金は押し下げられる。結果として、収入格差は着実に拡大していく。
 「労働を通じたリスク」においても、以前のそれとは大きく異なる。ニューエコノミーは買い手同様に売り手に対しても、ビジネスの選択肢を広げ、莫大なビジネスチャンスを提供する。
 しかし、それは一方で売り手が、グローバリゼーションの中における不確実性を受け入れることになり、全ての労働者は所得が激しく落ち込むリスクにさらされるということでもある。つまり、最下層に近い人々が一定レベル以上の生活をするために以前より沢山働かなければならなくなったということと、最上層に近い人々にとって、沢山働かないことで失う金額がより大きくなったということを表している。
 最後に、「キャリアに対する考え方」においては、企業と消費者・投資家の経済的関係がそれに対して大きな影響を及ぼしている。つまり、消費者や投資家は、全ての面でより大きな柔軟性をもたらしてくれる技術、最近では、インターネット、eコマースなどをうまく活用し、容易により有利なものに取引を変更することが出来るようになっている。ということは、より良く、速く、安くするためにサプライチェーンの中にいるものは誰でも交換可能になる事を意味する。こうしたもろもろの圧力の下で、企業は一時的な都合で互いに結びついただけの人々の集積に過ぎなくなりつつある。つまり、一つの企業内において中長期的に自身のキャリア形成を考える事が現実的ではなくなってきたのだ。
 我々は自分のキャリアの方向付けに関する責任を全て引き受けなければならず、その責任を他の誰にも託すことは出来ない。

 では我々はニューエコノミーの中で如何に考え、行動していくべきか。留意すべきことは3つある。

 一つ目は、企業と労働者をWIN-WINの関係で捉え直すことである。オールドエコノミーの時代、企業は労働者に対して従順な労働を望み、その見返りに家族の様に労働者の安定した生活を担保した。しかし、ニューエコノミーにおいて、先に述べたように、企業は一時的な都合で結びついただけの人々の集積に過ぎなくなり、我々が安定した生活を守る上で企業に属する事の意味合いは低下している。この様な環境の中で企業、労働者共に生き残って行くためには、労働者は企業が競争環境に打ち勝っていくために自らが提供できる付加価値が何かを明確にし、提供し続ける。一方、企業は労働者に対して市場価値を高める仕事や場を提供し続け、互いに付加価値を高め合って行くのである。
 二つ目は、ニューエコノミーが我々に要求するものや、提供するものが何かを的確に捉え、自身の戦略を明確に持つことである。具体的には、先に上げた3つの変化を踏まえ、自身のビジョン(情熱)、強み・弱み(能力)、世の中の期待(ニーズ)をシビアに分析し、自身の進むべき方向性、目標や目的、それを達成する手段を明確にすることである。留意点の一つ目で触れた様に、オールドエコノミーにおいて企業が提供してくれた安定した生活を、ニューエコノミーにおいては自己責任で担保しなければならなくなった。つまり、我々一人ひとりが「企業」と同様にビジョン・戦略を持ち、明確な目的意識のもと労働に対峙して初めて、安定した生活を手に入れることが可能になる。
 三つ目は、明確な目標や目的を達成する手段として、自身のキャリア開発の機会をより鳥瞰的に捉えることである。労働者として市場価値を高める観点から考えれば、自社内だけではなく、外にも目を向け、自身のキャリア開発に最も適した場所を見つけることである。いわば、ローテーションの範囲を企業内から企業間に広げることである。目標を達成するための機会は企業内にのみ存在しているわけではない。自社内にその機会が無ければ積極的に企業間ローテーションを検討してみることだ。

 今後、ニューエコノミーは進展することはあれ、後退する事は考えにくい。ニューエコノミーをこれまで以上に受け入れ、上手く付き合って行くために、今一度、企業と(労働者としての)自分自身の関係、自分自身の戦略、キャリア開発の観点から現状を振り返ってみてはいかがであろうか。

ジェミニ


 

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