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2009.03.03

「思い込み」が阻む人材の成長

 早いもので、すでに3月を迎え、約1か月後には新入社員の姿を見かけることになる。多くの企業においては、集合研修を受けたのち、新入社員たちの育成は現場によるものへと移っていくが、現場からは「言われたことしかやらない」「積極性がない」「社会人としての基本ができない」といった嘆きの声が聞こえることも少なくない。その一方で、新入社員側からはこの会社に入ったことへの後悔の声や、上司・先輩に対する不満の声が聞こえてきたりする。良くある話である。そして気がつくと3年以内に3割の人間が退職し、残った人間の多くが「他責」の社員になっていく。そしていつしか思考停止を習慣化する。
なぜこんなことになっていくのか?面接が失敗している可能性ももちろんあるだろう。限られた時間・限られた情報量の中で判断をするのだからリクスはある。しかし、もう一つ現場での上司・先輩による関わり方(指導の仕方)の問題もあるのではないか。

 以前、クオリティの高い成果を創出できる優秀な上司・先輩がいながらも「人材が育たない組織」と、「人材が育つ組織」を比較分析したことがある。その中で明らかになったのは、部下の問題も大きいが、それ以上に大きかったのが上司・先輩の指導の在り方であった。
人材が育たない組織にあった部下・後輩に対する指導の傾向は以下のとおりである。
 ・部下・後輩に対して、過度の先入観を持って指導を行っている
 ・部下・後輩の弱みにばかり焦点を当て指導している
 ・指導時に、部下・後輩が理解できるような伝え方をしていない

 クオリティの高い成果を創出できる優秀な上司・先輩は決して、部下をつぶそうと思っていないことは、彼ら自身多忙な中でも個別ミーティングで具体的に指導を行い、部下ができるであろうと想定される範囲の業務を与えている行動からも分かった。彼らのインタビュー結果からも「(部下が)自信をつけたら少しは変わるかもしれないと考えて役割分担を決めている」「感情をコントロールし、頭ごなしにしかりつけることはしない」といったコメントがあった。しかし、彼らの部下に話を聞くと「自分は信用されていない」「結局こちらの意見は通らない」「価値観を押し付けてくるだけ」といった批判的なコメントから、「どうせ自分にはできない」「彼らは自分ができることを示したいだけだ」といったコメントまで飛び出していた。
なぜこのような認識違いが起きているのか?それは、我々だれもがもつ「思いこみ」が影響していると考えられる。

 上司・先輩については、3つの思い込みがあった。まず、忙しいながらも一定以上の時間を割いて指導している自分たちの行動を部下が理解できないはずはない(理解できるはずだ)、という「思い込み」である。もう一つが、人材育成とは弱点を改善することであるという「思いこみ」である。人を育成するには「強みを伸ばす」方法と「弱みを改善する」方法があるが、人が育たない組織の上司・先輩の中には「弱みを改善する=指導」という固定観念があると考えられる。そして最後が、言葉を伝えれば相手が理解したと考える「思い込み」である。
 部下の側にある「思い込み」は、自分は他者の気持ち・考えを正しく理解できるという思い込みで、具体的には、上司・先輩が自分のことを好きなのか嫌いなのか、育てようとしているのか・否かについて、上司・先輩の自分に対する言動を見ていれば分かるという「思い込み」である。
 こういった思い込みは誰でも持っている。ということは、どの組織にでも当てはまることであろう。これは人材が育っている組織でも例外ではないはずだ。ではなぜ、上手く人材が育っていたのであろうか。それは、彼らは人間が持つ思い込みの存在を意識し、まずは指導する側とされる側の関係性を良好なものへと変えることで、人材育成の結果を出していたのである。人材が育っている組織の上司・先輩は、折に触れ指導される側である部下との関係をチューニングし続けていた。それにより、部下は指導をする上司・先輩の思いを汲み取り、自ら考え、積極的に行動していた。まさに成功の循環モデルがうまく回っていたのである。

 指導する側とされる側のどちらであろうとも、自分自身の中にある思い込みに気付かなければ、相互のかかわりが負のスパイラルを持つことは容易に想像できる。その結果、人材は育たず組織力は低下する。
 ではこの負のスパイラルを断ち切るためにはどうしたらいいのであろうか?
 まず指導する側の、上司・先輩については自分自身も「思い込み」に縛られる可能性があることをしっかりと認識することである。この「思い込み」の存在を認識する方法は、自分は本当に人を育てようとしているのか?、どのように育てようとしているのか?、それは不確実性の高いビジネスの世界において相手にとって本当にベターなのか?を、これまでの指導経験も踏まえて整理することである。さらに、自分一人で考えるのはもちろんのこと、他の社員と人材育成についての議論をしてみることである。そして、自分がしようとしている・してきた指導が「是」と判断できるのであれば、それを自分が振り返ることができるように記録しておき、いよいよ指導に入る。
 指導のフェーズで最初にすべきは、育成すべき部下の人間性を理解することである。どういったことが好きで・どういった生き方をしてきたのか、そして、この先どうなっていたいのかを否定も肯定もせずに、ただ理解することである。そして、ビジネスを行っていく上で強みとなること・弱みとなることの両方を探し、実際の業務に重大な影響のあるような弱みはもちろんだが、同時に強みとなることをどう伸ばすかを考えることである。部下に対しては、自分の人間性を伝え、部下の強みと弱みの両方を客観的に伝え、どちらを指導するべきかを部下とともに考えていく。そして、わざわざ時間を取らずとも、折にふれて気付いた点をフィードバックし続けることである。フィードバックは、最初はプラスのフィードバックから行い、頻度もこまめに行った方がいいだろう。
 最後に、指導している時に部下がどういう心理状態になっているのかをしっかりと観ておき、自分の指導が伝わっていない思われるときには、すぐにフォローすることも忘れてはいけない。
 ただし、甘やかすということとは一線を画す必要があることも忘れてはならない。厳しい指導をしたからと言って、必ず辞めるわけではない。ほとんどの場合、指導の厳しさから辞めてしまうのではなく、信頼関係が築けていないから厳しさに耐えられず辞めてしまうのである。
 指導される側は、自分は読心術ができるなどとは思わないことである。相手が何を考えているのかは誰にもわからない。成長は自分のためである。大切なのは、相手が自分をどう思っているかではなく、自分が成長するために相手から何を学ぶかということである。そのためには、自分がどのようにチャレンジし、周囲にかかわっていくかの方が大切である。仮に上司・先輩の指導方法が自分に合っていなかったとしても、他責になってはいけない。他責とは、自分の人生の決定権を他者に委ねていることに他ならない。もちろん現実的には、ビジネスは自分だけでやっているわけではないから、自分だけではどうしようもないことも多い。しかし、そこで環境や周囲の人のせいにしても自らの成長は望めない。ビジネスは他者を巻き込んで成り立つことがほとんどである。どう働きかけるのかを考え続けることこそ成長につながるのである。相手の意図が分からないとき・迷った時には率直に他者に意図を尋ねる、それこそ、指導される側に求められる姿勢である。

 人間には思い込みがある。これは物事を効率的・的確に判断できるようにするために備わっている脳の機能に起因するものであるが、好ましくない結果をもたらすことも少なくない。新入社員を迎えることを一つの契機に、自分の中に備わっている「思い込み」が人材育成を阻んでいないかどうか検討し、人材育成へのスタンスを見直してみてはいかがであろうか。


 

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