2009.02.23
営業組織の “ヒト”至上主義に歯止めをかけろ!
最近、ある営業組織のマネジメント改革を推進するプロジェクトに関わる機会を得た。そのプロジェクトを通して多くの営業マネージャーにお会いし、営業マネジメントの実態についてお聞きする中で、つくづく感じることがある。それは営業組織が“ヒト”至上主義で成り立っているということだ。
ここでいう“ヒト”至上主義とは、その組織における会議などの議論や意思決定の場において、内容そのものではなく発言・意見した“ヒト(人)”が判断の最重要ファクターとなっているということを意味している。
“ヒト”至上主義が蔓延している組織を最もわかりやすく象徴しているのは会議の場である。あなたの組織で行われている会議を思い浮かべてほしい。もし会議プロセスで以下のような特徴が見受けられる場合、“ヒト”至上主義に陥っていると捉えた方がいいだろう。
・会議が権威者と会議参加者との一問一答形式で進む
・賛成意見しか出ない、否定的な意見を言うには抑圧的な雰囲気を感じる
・会議で物事を決めるための判断基準が不明確である
・十分な議論がされないまま、一部の権威者が全てを判断している
上記のような特徴を引き起こす “ヒト”至上主義の主なデメリットは、検討すべき“コト(内容)”自体の細部に目がいかず、権威者の発言で議論が終了したり、権威者の発言に対する反対意見の発言が抑圧されやすく、誤りが正されにくいことなどが挙げられる。しかし最も大きな問題は、“ヒト”至上主義の組織では社内政治が蔓延しやすいということである。“ヒト”至上主義のもとでは“誰が”ということに部下の意識が集中するため、部下は健全にモノを考えることができなくなる・単純思考が強まるなどの問題を抱えやすい。そして部下は権威者の考えや発言をますます受け入れやすくなり、やがてイエスマンが組織内に増えていく。そういった中では部下は取り組んでいるコンテント(内容)ではなくプロセス(誰がどのようにして決めているか…等)に目が行くようになり、社内政治に意識・無意識的に敏感になっていくものである。
しかし“ヒト”至上主義は必ずしも悪ではない。“ヒト”至上主義は、権威者の技能や知識が周囲よりも格段に優れており、権威者の判断が明らかに正しいといえる状況下では効果的に機能する。また企業の成長期にみられるように、業績向上のために取り組むべきタスクが明確であり実行力こそ組織の成功要因であるといえる場合などは、“ヒト”至上主義が効果的に機能することもあるだろう。“ヒト”至上主義の組織では権威者の意見・考えに対する異論が少なく、実行しやすいという特徴があるためだ。しかし、このような限られた組織状況ではない限り、“ヒト”至上主義が効果的に機能するのは難しい。
営業組織は社内政治というパワーゲームに支配されやすいが、その根本には上記で示した"ヒト“至上主義があり、営業組織を生産的な組織に改善していくためには”ヒト“至上主義にメスを入れることが必要だと考える。
では、なぜ営業組織では“ヒト”至上主義が強くなりやすいのだろうか。
営業組織では一般的に成果が明確で互いに比較がしやすいことから、業績によって営業同士が互いにレッテリング(人の多様性を無視して、単純なパターンで人を評価し認識すること)を行い、序列化しやすい傾向があるためと考える。さらに営業組織にはその傾向に拍車をかける仕掛けが組織内に数多く存在しているのが通常である。
例えば、ある営業組織では営業会議の場で毎月各営業所の成果を順番に発表していく。そして、目標を達成できていない営業マネージャーに対しては、権威者および目標を達成できている営業マネージャーがフィードバックを与え、いかに目標未達マネージャーがやるべきことに取り組めていないかを認識させようとする。このような場は業績による“ヒト”のレッテリングを強化する。
また、ある営業会議では事例共有という場で、「○○さんのおかげで」「○○部長の考えを実行して」といった“ヒト”に関する形容詞が多用され、何を共有したいのか、他の人にどう役立ててほしいのか、全くわからない場面が頻繁に見受けられる。このような"権威者“をさらに権威づけることを促進していることも、”ヒト“のレッテリングを強化するものと考えられる。
では、このような“ヒト”至上主義にメスを入れていくためには、どうすればよいのだろうか。
“ヒト”至上主義を根本的に解決するためには、組織内に“コト”主義を取り入れることが不可欠である。ここでいう“コト”主義とは、“ヒト”ではなく物事の内容( “コト” )が判断の最重要ファクターになるということを意味している。
“コト”主義を取り入れるためには、判断するための仕組みやルールを整備し、組織内から属人的な要素を潰し込むアプローチが必要である。例えば、会議や意思決定の場において、何かを判断する場合には判断基準を明確にし、判断すべき事案を要素別に分けて評価するなどによって、検討すべき事案の“コト”(内容)で意思決定することができる。営業会議の場を思い浮かべてほしい。今月の重点商品をどうしていくかといった事を検討する場合、よくあるのは権威者がたまたま直近で訪問した顧客先で聞いた話から、その事例を強調して重点商品が意思決定されてしまうというものだ。この状況を“コト”主義に変えていくためには、重点商品の良し悪しを決める要素を複数設定し、各要素別に会議に参加している営業マネージャーが点数をつけて総合点で決めるなどが考えられる。
そのほかにも、営業組織ではダイレクトコミュニケーションを重視する傾向が強いことから、多くのことが書面に残されることなく口頭でやり取りされるという特徴が見受けられる。そのため、顧客情報や様々な社内の事例が“ヒト”に張り付いてしまっており、その“ヒト”を通さないと情報が取れないようになっている。こういった属人化している顧客情報を誰でも活用できるようにデータベース化するなど “ヒト”から引き剥がして組織情報に変えていくことによって、“誰が”ではなく“何を・何が””を主語にしたディスカッションを行える土壌づくりができるようになる。
上記のように、“コト”主義を取り入れるためには属人的な要素を排除する仕組みやルールを整備することが有効である。しかし、営業組織はこのような仕組みやルールを強化するだけでは不十分なことが多い。営業組織の大きな問題点は、仕組みやルールが軽視されやすいということである。皮肉な話ではあるが、営業組織で上記のような仕組みやルールを徹底して“コト”主義を推進していくためには、現在、“ヒト”主義の中で絶大な影響力を持つ“ヒト”の協力が欠かせない。この影響力のある“ヒト”が営業組織に仕組みやルールを徹底するよう強く働きかけることが営業組織に“コト”主義を定着させる有効なアプローチとなる。しかし通常影響力のあるヒトは、“ヒト”主義の中枢にいて本人にとって居心地のよい組織環境になっていることから、ただ協力を依頼するだけでは難しいだろう。営業企画部のような営業戦略の実現に向けて営業組織全体の問題発見・解決を行う部署に現場で強い影響力をもつ人材(営業組織のトップにも影響力を発揮できる人材)を異動させ、様々な仕組みやルールを推進する・定着させるミッションを背負わせることなどが必要となる。
営業組織内に“コト”主義を注入することによって、営業組織における“ヒト”至上主義に歯止めをかけ、パワーゲームによって疲弊する現場の営業社員が少しでも減ることを願ってやまない。
モンブラン