2009.01.16
社会不安に対する地方自治体主導の施策の推進
昨年から続く急速な景気後退の煽りを受け、多くの企業は業績悪化が進み、いよいよ雇用に手を付けざるを得ないところまできた。報道でも、「派遣切り」という言葉を良く耳にするようになったかと思えば、次には「内定取り消し」、「正社員の削減」と雇用環境は悪化する一方である。この年末年始には、職も住む家も失った多くの元派遣労働者が東京の日比谷公園に集まり、ボランティアの支援を受けるという「年越し派遣村」まで出来た。そうした中、ボランティアの働きかけにより厚労省も重い腰を上げ、年末年始の間に講堂を提供した他、5日以降も都内の元学校施設などを仮の住まいとして提供することとなった。だが、このような厚労省の対応も、ボランティアの働きかけがきっかけで始まった一時的な対応に過ぎず、雇用環境の悪化に対応する策は、まだまだ不十分である。 もし、政府が本気で景気回復や雇用環境の改善を考えるのであれば、新たな雇用が発生する産業や事業を創出するような施策や雇用環境の悪化に備えたセーフティネットの拡充といった仕組みづくりにこそ投資すべきである。およそ定額給付金のような、国にとって一つの財産も残らないような施策に2兆円もの税金を投資していては、何の問題解決にならない。そして、本当に新たな産業や事業を創出するような施策やセーフティネットの拡充といったことを検討するならば、それは政府ではなく地方自治体が主導して検討・実行すべきだと考える。 各地方自治体が、自らが納める地域で起こりうる個別具体的なリスクに備え、起きた問題に対しては迅速に対応できるような組織へと、いち早く変わることを期待したい。そして、政府に対しては、地方自治体が自ら主体的にあらゆる問題に取り組めるよう既存の仕組みの見直しを是非進めてもらいたい。 なぜなら、今の仕組みのままでは、国からの権限の制約や基準の制約が非常に多く、地方自治体が地域の問題解決に適した独自の施策の立案・実行をすることが容易ではない状況が続いているからだ。実は、このような地方分権の流れは90年代以降、政府内でも議論が続けれらており、ついに今春の通常国会において「道州制基本法案」が政府より提出されると目されていた。ところが、昨年末に行われた政府内の集中審議の結果、政府内の慎重派と推進派の意見調整がまとまらず、通常国会への提出は見送られる見通しが高いようである。これは、非常に残念でならない。
ところが、これだけ雇用の問題が深刻さを増してきているにも関わらず、政府によって対策が真剣に検討されているような気配は一向に感じない。政府が検討中の施策というと、年が明けても相変わらず2兆円の「定額給付金」のことばかりだ。政府としては、この定額給付金を誘因として世の中の消費を促し、景気回復への布石としたいところだろうが、思惑通りにはいかないだろう。かつての地域振興券の時と同様に、日々の消費に充てられるなど、給付した額の大半が貯蓄に回るのが関の山だ。2兆円を使っても、気が付けば何も残ってはいない。結局、同じ税金を使うなら、自分たちで使った方が国に無駄使いされるよりはまし、という程度のことでしかない。
その理由の1点目は、問題への対応に迅速さが求められることにある。今起きているこの急速な市況の悪化や雇用環境の悪化に直ちに対応するためには、政府の判断や国会の審議を悠長に待ってはいられない。実際、定額給付金のことを取って見ても、一体いつから検討している話だっただろうか。それにも関わらず、未だに結論に至ってないのである。また、政府主導の全国画一的な施策は決定までに時間がかかるだけでなく、決定後も実行されるまでの間に様々な担当機関との調整を必要とすることが多く、さらに時間を要することも多い。こんなのんびりしたスケジュールでは、必要な時に、必要な施策を講じることなど出来はしない。それに比べると、地方自治体が、自らが治める地域における施策の立案・実行する際に検討すべき事項や調整すべき担当機関は少なく、より迅速な対応が可能となる。次に、2点目の理由としては、景気回復や雇用環境に有効な施策が、全国同じものとは限らない、という点にある。そもそも、地域によって主要な産業や人口構成などが異なっているのだから、将来を見据えた新たな産業の創出や拡充すべきセーフティネットの具体的な内容も、地域によって変わってくるはずである。実際に、現在失業者が大量に発生している自治体の中には、働き手の少ない農業などを斡旋しているところもある。これが高齢者の多い都市部などになれば、医療・福祉関係の産業へ斡旋が考えられる。また、将来的に地場の産業の衰退が予測されるのであれば、その地域の利を活かした新たな産業を興すことを考えるのは重要な施策となるはずだ。 何しろ、地場の産業の衰退は、自治体の税収が減ることを意味している。今後、増加する失業者と減少する税収というダブルパンチを食らって、一気にKO寸前に追い込まれる自治体が出てくるのも時間の問題だろう。地方自治体によって抱えているリスクやそれが起こりうる時期には差があるのだから、やはり各地方自治体が主体となって、地域にあった備えをしておくべきなのだ。
このような時期だからこそ、地方自治体が自らの納める地域に対して、個別具体的に迅速な対応がとれることがどれだけ有効なことか、活力ある国づくりとはどう進めていくべきかを国会などで大いに議論することを、政府に対して、強く望むものである。
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