2008.12.16
ゴミの山は宝の山、「資源を持たない国日本」から脱却せよ
2008年11月30日の日本経済新聞の記事で、「経済産業省と環境省は、これまで携帯電話通信事業者の自主回収に任せていた使用済みの携帯電話等、小型家電の回収を、2009年中にも義務化する方針を打ち出した。」との記事が掲載された。使用済み製品の回収とリサイクルを義務付ける「資源有効利用促進法」の対象品目に、小型家電の追加を検討しようというのだ。金やインジウムといったレアメタルを多く含む小型家電は「都市鉱山」と呼ばれており、都会に埋もれている資源をもっと有効活用すべきという意見は多い。特に携帯電話・PHSは、2007年12月末現在の総務省の統計では人口普及率が82.4%と高く、また買換のサイクルが約2年半と自動車や大型家電に比べて短いことからも、再利用すべき資源として注目が高まっている。資源を持たない日本がどのようにして将来の資源不足に対応するのか?今「都市鉱山」に熱い視線が注がれている。
「都市鉱山」とは、パソコンや携帯電話など電子機器の廃棄物に、多くのレアメタルが含まれることから、そうした廃棄物の山を鉱山に見立てて造られた言葉である。では都市鉱山の規模はどれほどのものか?独立行政法人の物質・材料研究機構によると、日本の都市鉱山と各国の資源埋蔵量(他国の都市鉱山は除く)を比較した結果、日本は金・銀・インジウム(液晶パネルに使われるレアメタル)で世界最大の資源国となり、銅、白金、タンタルでは3位以内にランクされている。これらのレアメタルの多くが、価格高騰によって多くの製造業の収益に影響を及ぼした。ものによっては10倍以上に跳ね上がったものもある。資源の高騰には2つの理由が考えられる。一つは、需給の問題である。需要の面では高度なエレクトロニクス製品の需要増加に伴い、その原材料となるレアメタルの需要も増加する。また供給面でいうと、生産国が高い生産シェアを背景に強気の価格交渉を迫ってくることで、価格を高騰させている。もう一つは価格形成プロセスの問題である。レアメタルは一部のものを除き相対取引の形態をとる。取引所を通さないため価格形成プロセスが不透明であり、かつ生産量が少ないために、投機マネーの流入による価格変動が大きい。これらのものが、自動車やエレクトロニクス製品といった日本の先端産業の根幹を支えていることは憂えるべき事態である。また最悪の場合、レアメタルが一切日本に供給されなくなるケースも考えられる。実際、複数のレアメタルにおいて世界生産シェア8割超を占める中国は、需給のひずみを背景に強気の価格交渉を迫っており、供給停止までちらつかせている。このような背景から供給リスクの高い輸入ばかりに頼るのではなく、リサイクルを通じて日本の主要産業を守ろうと「都市鉱山」の活用が注目されているのである。 それでは、日本は都市鉱山をどれほど活用できているのだろうか?残念ながらレアメタルの回収状況を見る限り危機感を持った対応はとれていない。携帯電話を例にみてみると、社団法人電気通信事業者協会の調査では2001年以降、携帯電話・PHSの回収台数は減少傾向にあり、6年間で年間回収台数は半分以下となっている。リサイクルの入り口となる消費者からの回収が上手くいっていないのだ。その原因は何であろうか?社団法人電気通信事業者協会が実施した携帯電話・PHSのリサイクルに関するアンケートの結果から問題点が浮き上がってくる。以下は、アンケート結果である。
・2007年4月~2008年3月の一年間において、買換・解約時に端末を処分した人は29.6% ・上記の割合は過去4年減少し続けている ・処分した人のうち店頭で引き取ってもらった人は67.2% ・処分した人のうちゴミとして処分した人は14.5% ・携帯電話・PHSのリサイクル方法の認知度は53.8% ・
上記アンケート結果から、携帯電話の回収率が改善しない原因を掘り下げてみる。 ・携帯電話の買換・解約時、約70%の消費者は端末を処分せずに手元で保有し続ける。なお、買換・解約後も保有し続ける理由の主な回答は、写真やメールを思い出として残したい、カメラや目覚ましといった通信以外の機能が有効活用できる、どう処分していいか分からない、となっている。 ・何らかの処分をした人のうち、7人に1人は携帯電話をゴミとして出している。ゴミとして出したものは、ゴミ回収時に気付かない限り、ほとんどの場合埋立処理となる。 ・携帯電話のリサイクル方法を約半分の人は認知していない。また自治体からの周知活動は各自治体に対応が委ねられているが、ほとんどの地域で行われていない。 上記の結果を見ると、携帯電話の回収率が向上しない問題の本質は2点あると考えられる。一つ目は使用済みの携帯電話から新しい携帯電話にコンテンツ等のデータ移行ができないこと。もう一つは携帯電話をリサイクルする方法とリサイクルの必要性について、消費者への周知がなされていないことだ。問題の本質を踏まえ、回収の義務化に向けてリサイクルに関わる自治体、事業者、消費者は何をすべきか考えてみる。
まず自治体の役割としては、住民への周知徹底である。自治体の言い分として、「循環型社会形成推進基本法の規定による『拡大生産者責任』の原則に則り、基本的にはメーカーが回収すべきである」という考え方は間違ってはいない。しかし地域の環境を担う自治体だからこそ、住民への呼びかけをもっと積極的に行うべきだ。住民への周知が徹底されれば、ごみの回収量の削減や、住民からの問い合わせ件数の削減など自治体にもメリットはあるはずだ。 事業者は、主に2つに分けられる。メーカー側と販売側である。まずメーカーに期待することは、使用済みの携帯電話に保存されている着メロや画像データを新機種に移行できるような仕掛けをつくることだ。とはいえ、著作権を考えると、端末間のコンテンツデータの移行は現実的に難しいだろう。極端な話、一人の者がダウンロードし、それを複数で共有するという不届き者が必ず現れるからだ。ではそれを技術でカバーはできないのであろうか?例えば、機種変更時に本人確認を行ったうえで同一の携帯番号ならばデータを移行できるようにしたり、コンテンツデータを保存するチップのようなものを付属し、機種交換する際にチップごと移行できるようにすることも可能ではなかろうか。消費者が解約後も端末を手元に保有する大きな原因は、保存データを思い出として残しておきたいことである。保存データの移行が可能であれば、手元に置いておく一番の原因が解消できる。一方、販売側に求めることは、リサイクルの意義を消費者に伝えることである。端末の買換・解約のほとんどは携帯ショップで行う。店員と消費者が顔を合わせており、リサイクルの意義を伝えるタイミングとしては最適の状況である。3年前、ドコモは端末回収に協力すればノベルティを渡すというキャンペーンを行っていた。しかし上記アンケートを見てもリサイクルの認知度が低いことから、回収キャンペーンの目的を伝えきれていなかったのではないだろうか。最近の資源高騰もあり、リサイクルへの意識は3年前よりも高まっている。あらためてリサイクルの意義や社会貢献について説明を行えば、現状の回収率は改善されるのではなかろうか。またメーカーと販売双方に言えることだが、回収インフラ整備にぜひとも取り組んでほしい。コンビニやスーパーといった消費者が頻繁に足を運ぶ場所に回収BOXの設置を促すなどの対応が必要だ。現在ドコモがコンビニエンスストアと提携し回収BOXを設置する取組が行われているが、関東50店舗のみとまだまだ拡大の余地は大きい。レアメタルの不足で携帯電話が高騰して困るのは、メーカー・販売会社自身のはずである。将来への投資と考えれば、多少コストがかかっても回収インフラの整備に取り組むメリットはあるはずだ。 消費者は、資源不足とリサイクルの重要性への理解を深め、協力する姿勢を持たねばならない。これまで記述してきた対応策は消費者の自主的な行動がなければ意味をなさない。今後も回収率の改善が進まないようだと、リースやレンタルといった契約形態にすることで、強制的に回収するといった話が出てくる可能性もあるだろう。これは有効なアイデアではあるが、制度変更の際に混乱を伴うことが考えられる。そうなる前に、消費者がリサイクルに参加することで日本産業に貢献できるということを深く認識し、自ら行動に移してほしい。
都市鉱山という宝の山があったとしても、リサイクルされなければただのゴミの山である。資源を持たない国から資源大国へ、ゴミを宝に変えるには消費者一人ひとりの心がけと行動にかかっている。もし使用済みの携帯をお持ちならば、近くの携帯電話ショップや家電量販店へ足を運んでほしい。もうすぐ年末、大掃除の際には、家に眠っている資源を掘り起こしてはいかがだろうか。
携帯電話・PHSのリサイクルについて、自治体からのお知らせを見聞きしたことがある人は7.8%
ライト