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2023.03.06

韓国から学ぶべき、日本での「超」異次元の少子化対策とは

 日本を苦しめている少子化問題は、1980年代あたりから徐々に顕在化してきましたが、いまだに解決の糸口すら見えない状態です。2022年度の出産数は80万人を割ることが確実で、これは厚生労働省の試算よりも10年早く達成してしまったことになります。歴代内閣はこれまだ抜本的な対策をせずに先送りにしてきましたが、やっと政府は重い腰を上げ、「異次元の少子化対策」を打ち出しています。いくつかの自治体でも独自に少子化対策や子育て支援策を打ち出していますが、ダウントレンドに歯止めがかかるのでしょうか。

 

 その日本をはるかに超えて急速に少子化が進行しているのが韓国です。韓国統計庁によると韓国の合計特殊出生率は2021年に0.81(日本の2020年1.33の6割水準)を記録しており、世界200カ国のうち最下位となっています。その後もさらに出生率は減少しており、2022年には世界で初めて0.7台を記録すると予想されています。

 韓国国会立法調査処の発表では、もしも出生率が2013年の1.19のままだとしたら、韓国の人口(5075万人:2014年時点での将来人口推計)は、2056年に4000万人、2100年には2000万人にまで減少します。さらに、2136年には1000万人、2256年には100万人にまで減少します。2021年の出生率をみてもその減少速度は加速しており、日本以上に深刻な問題なのです。

 

 このような惨状を韓国政府も手をこまねいていたわけではありません。「第4次少子・高齢社会基本計画」を2020年12月に策定し、出産奨励金や保育費の支援、児童手当の導入や教育インフラの構築など、日本と同様の施策を継続しています。児童手当など額面では日本以上の金額になっており、日本よりも遥かに手厚い支援策になっています。

 韓国の少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けているとされていますが、韓国の対策は子育て世帯に対する支援が大部分を占めています。韓国の出生率が一向に改善されないのは、これから子供を産もうという世帯や女性の背中を押す政策が手薄であることが指摘されています。

 

 少子化を改善した例として、フランスの事例が紹介されることが多くあります。フランスでは婚外子を認め、結婚を前提としない出産であっても公的サービスを受けられるようにしました。このことが少子化の改善につながったと指摘されていますが、フランスの少子化対策はGDPの3.6%以上を投入するほどの本腰をいれたもので、その施策は以下の様に広範囲にわたっています。

 

 第3子から支給される家族手当、子育て世帯への大幅な所得税減税、いわゆる育休などの就労自由選択補足制度、保育ママに子どもを預ける際の保育方法自由選択補足手当、産科の受診料、検診費、出生前診断、出産費用などの全面無料化

 育休を取る父親も賃金の80%を保障、不妊治療の公費負担、高校までの授業料無料、返済不要の奨学金制度、認定保育ママや学童保育の無料化、事実婚の社会保障への組み込み、子どもを3人養育すると年金が10%加算されるなどなど

 

 日本の子供・子育て支援に対する公的支出は、2017年度のGDP比で1.79%と、OECD平均の2.34%を下回ります。政策対応で出生率を引き上げたフランス比べると半分の水準です。公的支出比率が高い国ほど出生率も高いという相関関係がはっきりしています。

 

 諸外国の実績を踏まえ、日本での異次元の少子化対策として取るべき方向を学ぶことはできないでしょうか。韓国では、これから子供を産もうとしている世帯や女性の背中を押す政策が手薄であることから、日本では、これから子供を産む世帯へのアプローチを充実させていく必要があり、大きく分類して以下の3点に集約できそうです。

 ① 思い切った実弾を投入した少子化対策

  ・子供を産もう、もう一人産もうと思える社会作り

 ② M字曲線の緩和施策

  ・出産後も働きたい女性のハードルをなくすための施策

 ③ 用の安定化(非正規雇用の段階的な縮小)施策

  ・婚姻数を増加させるための対策

 

① 思い切った実弾を投入した子供を増やそう施策

 小手先の育児手当や教育費の補填ではなく、抜本的な援助が必要です。現在は夫婦共働きで子供がいない世帯の方が裕福に暮らせることになります。育児による時間や行動の制限がなく、教育費の負担がない分、自分たちに使えるお金が増えることになり、結婚する前と同じように旅行に行ったりデートをしたりと、二人だけの時間を楽しむことができます。また、将来に向けて計画的に貯蓄することもでき、老後に向けた資産運用に取り組む夫婦も見られます。時間の自由があるので、結婚前と同じようにキャリアアップに励むこともできます。子供を持つことが女性の自由を奪い、経済的にも困窮するようでは、子供を増やそうというマインドも起きにくいでしょう。このような現実への対策として、託児施設、保育施設の充実は必須のもので、さらに子育て世帯には所得税を段階的に減免するような施策はいかがでしょうか。「N分N乗」と言われるフランスの施策の変形ですが、例えば子供一人当たり所得税の1/3を減免する。子供2名で2/3、子供3人で所得税は全額免除します。これにより子育て世帯の可処分所得は大幅に増えます。また、子供が1/2成人した年、完全成人した年には1000万円規模の功労金の支給や年金に加算するなども有効です。このように徹底して実弾を用意して“子供を産み育てることは得になる”という仕組みを構築することがポイントです。

 なお、これらのバラマキ系の施策には財源論の提示がセットになります。ここでは多くを語ることができませんが、今後20年以上にわたって人口が減っていくことを勘案すると、人口1億2千万人を前提に検討されているインフラ政策はすべて見直し、その予算を充当する方法が考えられます。また、相続の際に個人が生きている際に使えなかったお金のいくばくかを未来の子供のために活用させていただくなどの考えもできるでしょう。

 

② M字曲線の緩和施策

 M字曲線とは、女性の労働力(率)が20代後半から30代前半にかけて一度落ち込み、再度上昇するような「M字」曲線を描く様のことで、20代で就職した女性が、20代後半から30代前半に結婚・出産を迎え離職し、子育てが一段落した後に再就職するために、特定の年齢階級において労働力(率)が低下するという傾向を現わしています。ここでの問題は、結婚や出産のタイミングに離職が伴うことで、男女雇用機会均等という観点が指摘されています。

  実は、このM字曲線問題は少しずつ緩和され始めています。国の様々な施策に加え、企業側も人事制度や福利厚生制度の改定などを図り、段階的に離職を伴わない仕組みが構築されつつあります。このような施策が大企業から中小企業にまで展開されてくれば、女性の社会進出や活躍の機会が出産でリセットされてしまうことはなくなり、キャリア意識の高い女性の出産へのハードルは段階的に下がってくるでしょう。

 

③ 雇用の安定化(非正規雇用の段階的な縮小)

 結婚することが出産の条件だとすると、婚姻数を増やすことは少子化の解決の一つの重要な指標になります。現在は、婚姻数が大幅に減り、未婚化率があがっていますが、その大きな原因は非正規社員の増加による雇用や賃金の不安定さにあります。賃金がなかなか上がらないということも問題ですが、これは正社員の話であり非正規社員は対象に入っていません。日本の非正規化率は現在では56%(男性22%)になっています。2017年のデータですが、30~34歳時点での正社員の59%に配偶者がいますが、非正規社員での割合は22.3%に留まってしまいます。

 雇用や給与が安定しない非正規社員は、女性による結婚対象としては選びにくく、また結婚したとしても教育費などを負担できないなどの理由で、子供を持つことを控えるようになります。男女問わず安定した雇用を確保することを目的として、企業の非正規社員比率の上限設定や、非正規社員の年収を大幅に引き上げるなどの施策が必要です。

 

 以上が「超次元の少子化対策」です。少子化対策は、すでに子供をもうけている世帯への支援だけでは意味がなく、これから結婚しようという世帯、また結婚しているが子供のいない世帯に効き目のある施策をセットにしないと解決には至らないでしょう。企業の非正規社員比率や給与の引き上げはコストの増加を招くことになり、企業競争力を下げてしまう懸念がありますが、人口が8000万人以下になれば、消費者の購買行動が収益の柱となるB2Cの企業の売上ポテンシャルは、30%以上も下がってしまいます。これらを抑止して、ポテンシャルを現在と同様レベルまで回復させるためには、コスト増を受け入れるだけの腹のくくり方が必要なのです。

 

 少子化の怖いところは、出生率が改善されたとしても人口が増加に転じるのは20年以上先だということです。それまでは、死者数が出産数を上回るので、人口は漸減的に減っていきます。異次元の少子化対策によって2024年度の出産数が増加したとしても、人口が増え始めるのはどんなに早くても2043年以降なのです。人口がGDPに寄与する最も有効な先行指標だとすると、これからの日本は衰退の一途をたどることははっきりしています。

 異次元の少子化対策は有効に作用するのか。これは20年先をみた壮大な社会実験ですが、必ず成功させなければならない実験なのです。

 

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