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2023.02.20

日本人の質を守るために

 昨今のニュースを見ていると、各所で人手不足の問題に直面していると感じている。その中でも特に、教員不足については解決しなければならないと考える。なぜなら、教員の量が不足してしまうと、社会に出る前の子供たちへの教育が十分にできない状況が生まれ、教育不十分の社会人が日本に蔓延れば、国力低下に繋がる可能性すらあるともいえるからだ。今回はこの教員不足をどのように解決していくべきか、私なりに考察したいと思う。

 

 まず、この場の教員の定義として「小学校・中学校・高等学校の教育施設において、それぞれに対応した教員資格を所持して教育を担当する者」とする。

 

 その上で教員不足とは、実際に学校に配置されている教員数が、各都道府県・指定都市の教育委員会によって学校への配置が決められている教員数(配当数)を満たしておらず、臨時的任用教員等の確保ができないことで欠員が生じることを指す。文部科学省の調査によると67都道府県・指定都市教育委員会の小学校・中学校・高等学校において、2021年の4月時点で2,303人の教員が不足している。理由は様々だと思うが、以下の3項目が主な要因ではないかと考える。

 

 ① 教員退職者数の増加

 ② 教員試験受験者数の減少

 ③ 教員試験合格者の就職率の低下

 

 まず、①の教員退職者数の増加についてだが、これは定年退職をする教員が徐々に増えてきていることが主要因として挙げられる。1978年に団塊ジュニア世代の子どもの増加が重なることで、教員需要が高まった。この約40年前に大量採用された教員が、現在一斉に退職時期に差し掛かっているのである。定年退職以外の理由としては自己都合退職も考えられるが、厚生労働省の発表によると公立学校教員の離職率は例年0.4%程度で推移している状況となっている[1]。すなわち、一度就職した場合の教員が自己都合退職することはそこまで多くはなく定着率自体は比較的高いと言える。定年退職をやむを得ないと考えると、①が教員不足に大きな影響を与えているとは言い難い。そうなると次に、②の教員試験の受験者数か③の試験合格者の就職率を増やすことが有効であると考えられる。

 まず②の教員試験の受験者の状況として、文部科学省が実施をした調査によると過去最高数値であった1979年に比べ、2022年は半減している[2]。理由として、一般社団法人日本若者協議会が実施をしたアンケートによると「長時間労働などの環境面」が94%、「部活顧問や保護者対応など、本業以外の業務が多い」が77%、「待遇(給料)が良くない」が67%と続いている[3]。2番目に多い部活顧問や保護者については、対応した時間分を本業務に充てることができずに先延ばしになることで、1番目の長時間労働につながっている実情もありそうだ。よって、長時間労働になる環境と待遇面の懸念の2つが受験者数を下げている理由と言える。

 つぎに③の教員就職率の問題だが、文部科学省の調査によると、2021年3月の特定大学卒業者が1万1,448人であった中で、3,608人が教員に就職していない実情がある。国が発表している教員の不足人数が2,303人のため、仮に全員が教員に就職していれば、教員不足問題は解決するとも言える。就職しない理由について、東洋経済新聞社のアンケートによると、一般企業の方は残業が少なく給与が高い点に魅力を感じたため教員採用試験を受けていないという回答や、最初から教員志望ではなく何となく大学に入学したという理由が多く挙げられている[4]。

 

 以上を整理すると、教員試験受験者数と合格者の教員就職数は共に減少傾向にあり、理由は低賃金や長時間労働と似ている傾向にある。この2点を払拭できれば、教員不足の問題解決につながる可能性がある。ただ、低賃金については国の資金問題も絡んでくるので即時即妙な解決策というのは考えづらいため、ここでは長時間労働問題をどう解決するかにフォーカスしたい。

 

 長時間労働問題を解決するためには、「長時間労働の実態を正確に把握して改善すること」に加えて「改善したことを学生に発信する機会作ること」が必要であると考える。なぜ発信機会自体も重要なのか学生目線で考えてみた。例えば、就活中の学生が受信する情報として、インターネット上の口コミ等で得る間接的情報と、インターンシップや説明会で得る直接的情報がある。前者は第三者の書き込みも多く、フェイクニュースなどもあり信憑性は低い。一方で、後者は学生自身が企業の職場を見ることや職員と話すことができるので、情報の信憑性が高く、印象付ける上で高い影響力がある。その為、教員においても、直接情報を発信する機会が重要だが、企業と学校では就職希望者と接点を持つ期間に大きな差がある。企業は就活期間中の約1年間だが、学校についていえば、就職希望者は小学校から高校生活中の12年間も教員と接点を持ってきているのだ。よって、期間が長い分、教員から得る直接的情報量は多い。

 

 そこで、先ほどいくつか記載をしたアンケートの結果に基に、私の学生時代を思い返してみる。まず小学校は、中学校に比べると教員が保護者からのクレーム対応に追われていたことや、放課後に保護者達と長時間立ち話をしている様子など印象に残っている。

 また、中学校は体育会の部活に所属をしていたのだが、毎週土日の練習時も顧問の教員が引率してくれていた。平日に代休を取っていた印象が無かったため、休日はあるのか質問をしたことがある。その結果、上手くはぐらかされてしまった。そこに教員という仕事の闇が垣間見え、多忙な印象を受けた。

 

 教員がこのような姿を学生に見せてしまうことが希望者現象につながる問題であると考える。よって、解決するためにも、長時間労働の実態を把握して改善したうえで発信することが重要になってくる。では、長時間労働の実態を把握し改善するためには何をすればいいのか。まず、教員業務を明確化するために、以下のように3つに区分して考えてみる。

 

・学習指導:授業実施、授業準備、試験採点と評価 等

・学習外指導:生徒環境対応(家庭訪問、保護者面談、生徒個別面談) 等

・課外活動:部活動 等

 

 ここから更に「教員が実施すべき業務(=付加価値業務)」か「教員が実施しなくても問題がない業務(=非付加価値業務)」に切り分けることで、教員の付加価値を活かしながら業務量を減らし環境改善につながる対策が考えられる。なお、ここでは付加価値業務の判断基準として「生徒の教育に直接影響を与えられる業務」であることを考えてみたい。

 

 まず、アンケート回答にあった保護者や部活動等の業務外労働を例にしてみる。

 保護者の対応については、教員が生徒への理解を上げることや、個別最適な対応をするためにも、保護者から得られる情報や指摘は重要であるので、教員が実施をするべき付加価値業務だと考えられる。

 一方で郊外活動に該当する部活動については、実施義務がない中で生徒が個人的に取り組んでいる活動であり、安全管理等の基準が明確化出来るのであれば、教員でなくても問題はない可能性も高い。実際に、国が中学校の部活動に対して取り組みを進めている。背景として、国は部活動に対して、必ず教員が担う必要のない業務であることと位置づけ、2023年度から2025年度末までの3年間をめどに、公立中学校の休日の部活動から段階的に地域移行していくことを発表している。上手くいけば平日の部活動も地域移行をするとの内容である。

 これを国が発表をしていることからも、教員が必ず対応するべき付加価値業務ではないと言えるのではないか。また、今回は国の取り組みのため公立中学校のみが対象となっているが、上手く浸透していくことができれば、私立の中学校や高等学校でも取り組むこともできる。今回の移行先として、国としては地域のスポーツクラブや民間企業を想定しているが、個人(保護者やOBOG)も対応可能にして対象を増やすことができれば、より教員の稼動を確保できる可能性が高まる。

 

 前述の保護者の対応や部活動は、先ほど区分した教員業務のうち「学習外指導」と「郊外活動」だが、では残りの「学習指導」についてはどうであろうか。実際、「学習指導」は教員の実労働の半分以上を占めている。さらに細かく見てみると、経済産業省が発表している学習指導の内訳としては「授業:40% 授業準備:30% 採点・評価:30%」としている。大きく「学習指導」といっても、その中で付加価値があるか否かでさらに整理することができそうだ。というのも、授業は生徒を指導する立場として、資格を持っている教員が行うべきではあると思う。しかし、授業準備と採点・評価については、方向性や取り組み方などを教員と認識を行うことが出来れば、他者でも対応可能ではないだろうか。

 他者が行うデメリットとしては、教員と対応者の間で、資料準備や評価の方向性がずれてしまうと質の低下を招いてしまう可能性があげられるため、教員自身で対応した方が質を維持しやすいとは思う。しかし、実情として教員が業務過多で授業準備が間に合わず、その状態で授業に臨むケースが90%と多い状況となっている[5]。ならば、授業を終わってから数時間かけて授業準備や評価に取り掛かるのではなく、授業中に他者が数時間かけて授業準備をし、教員が授業を終了したタイミングで連携を取って確認が出来れば、教員の負担を減らせる可能性も十分にでてくるのではないか。

 

 このように役割分担を徹底することで、長時間労働を解消でき、教員採用試験の受験者数向上に貢献が出来る可能性が見えてくる。

 今回はネガティブな理由を解消することで教員不足問題を解決することについて考察してみた。他にもポジティブな印象を増やす施策についても併せて必要にはなってくると思うが、こちらの考察については別の機会に譲ろうと思う。今回考察をした取り組みが進めば、教員にとっての付加価値業務に集中して取り組むことができ、懸念として挙げられているいじめの増加や学力低下などの問題も未然に防ぐ可能性が高まる。企業のBPRの考え方を応用して、教員の業務を付加価値業務/非付加価値業務で再整理すること、そして非付加価値業務については外部機関と連携することを可能性として挙げさせてもらった。私個人としては、今後の日本が教員不足問題に対して注力して取り組んでもらうことを切に願う。

 

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[1] 「新規学卒者の離職状況 – 厚生労働省」参照

[2] 「公立学校教員採用選考試験の実施状況 – 文部科学省」参照

[3] 「教員志望者減少に関する教員志望の学生向けアンケート結果 – 一般社団法人日本若者協議会」参照

[4] 「「教員として働きたくない」が約6割、ペーパーティーチャーの実態と本音 – 東洋経済新聞オンライン」参照

[5] 「教員の仕事と意識に関する調査(HATOプロジェクト) – 北海道教育大学、愛知教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学合同調査」参照

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