2015.03.18
ワンマン創業者から経営を引き継ぐ者の宿命とは
年始に入り、マスコミを賑わせている大塚家具の経営主導権をめぐる争いは、皆さんも多く目に触れる話題ではないだろうか。同族経営という特徴からいわゆる“お家騒動”としてマスコミに揶揄されて騒がれている話題である。近年、同族経営に関わる“お家騒動”というと、大王製紙の井川意高(もとたか)前会長が子会社から巨額の資金を借り入れカジノで散財した事件や、大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョナ)副社長の「ナッツ・リターン」事件などが記憶に新しい。これらの事件はいわゆる同族経営の弊害としてすぐに思い浮かばれる「無能な後継者」が起こした騒動と言えるが、今回の大塚家具の件は、これらの「無能な後継者」が起こした騒動とは毛色が異なっており、同族経営であるが故に起きた“お家騒動”として捉えるとその重要なポイントを見誤ると考える。なぜならば、今回の騒動は同族経営であるが故に起きがちな事象ではあるものの、ワンマン創業者から経営を引き継ぐ際の新旧の企業戦略の考え方の違いが原因となっている騒動であり、同族経営であるないに関わらず、トップ交代の際に常に発生し得る問題と捉えることができるからである。今回のコラムでは、ワンマン創業者から経営を引き継ぐ後継者が注意するべきポイントについて、大塚家具騒動から学べることを確認していきたい。
まず、今回の騒動の概要について触れる。
どちらの経営方針が正しく会社を中長期的に導いていくことができるか、ということについて一概に答えを提示することは難しいが、このやりとりの中から、創業者から経営を引き継ぐ者が改めて検討しなければいけない競争戦略上のポイントとして大きく以下の2つが見えてくる。
①自社の既定路線が今後の市場において競争力を十分に発揮できるのか
特に、ワンマン創業者から経営を引き継ぐ場合、創業者に対する求心力に基づく②が戦略のベースになっていることが多く、久美子氏の様に、ポジショニング戦略を転換するアプローチを取る場合においても、引き継いだケイパビリティ(特に、人材)への配慮と精緻な対応が必要になると考える。
ここで、②を検討する上で、同じく同族経営ながらも現在成長を続けており、今回大塚家具が参考にできる企業事例としてユニ・チャームを挙げる事が出来る。
日本は企業数で見ると約95%がファミリービジネスの企業であり、そのような企業の中でも大きな組織になると、今回の大塚家具のケースのように、ワンマンで推し進めてきた創業者の社内体制を、後継者は社員との関係構築や理解醸成が不十分なまま引継がなければいけない宿命を背負うケースも多いのではないかと推察される。今回、「ワンマン創業者から経営を引き継ぐ者の宿命とは」というタイトルを掲げさせていただいたが、結論としては、自社のポジショニングとケイパビリティに関して、求心力のあった創業者が作りあげた既定路線を如何に将来的な安定成長に導き直すかに腐心しなければいけない、ということであり、例え大きなポジショニングの転換が必要であっても、創業から育まれてきた人や組織や風土を踏まえて、地道に変革を成し遂げなければいけない宿命を持つ、ということである。
●参考URL ハッピーホーム
今回の騒動は、大塚家具の経営権をめぐった騒動であり、父親である大塚勝久(かつひさ)会長と娘である大塚久美子(くみこ)社長がそれぞれ異なった経営方針を掲げ、社長解任騒動としてマスコミを巻き込んでお互いの主義主張を繰り広げている騒動である。参考までに、二人の経歴や主張についても簡単に整理したい。経歴を見てみると、勝久氏はタンス職人であった父親のもと家業を手伝いながら1969年に独立し、「株式会社大塚家具センター」を創業した。ご本人自身、一流の家具バイヤーであり、ワンマン経営で大塚家具を大きくしてきた立志伝中の人である。一方、久美子氏は、一橋大学卒業後、大手銀行勤務や自身で立ち上げたコンサルティング会社の経営などを通じて、2009年に大塚家具の社長に就任した人で、経歴からは有能な後継者ではないかと推察できる。そのような経歴の違いがある二人の主張の違いを整理すると、勝久氏は創業当時から作り上げた、来店した顧客にしっかりと販売員が付くコンシェルジュ式の接客体制を敷き、高価格帯の商品を扱う「問題解決・提案」型のビジネスモデルを今後も続け、既定路線のまま事業推進すべきだという主張を行っている。それに対して久美子氏は、ニトリやIKEAが低価格攻勢をかけている家具市場において、「まとめ買い」から「単品買い」に移行している顧客需要の流れも踏まえ、高級路線のみで推し進めるのではなく、カジュアルで気軽に利用できる中価格帯でのリポジショニングをしていくべきとして、経営方針を掲げている。
(=外部環境における自社のポジショニングに関する戦略)
②創業者から引き継いだ組織風土や文化、既存の人材や組織体制は今後競争力を十分に発揮できると言えるのか
(=自社のケイパビリティ(企業固有の組織能力)に関する戦略)
筆者の所感では、今回大きな騒動に発展してしまった主な原因として、久美子氏サイドが②についての検討が不十分であったからではないかと考える。実際①については、中期経営計画の中で、「住」に対する需要変化などの今後の家具市場についての外部環境要因についての整理を受け、明確な主張がなされていた。一方で、勝久氏自身も会見の中で「久美子氏が社長のままでは優秀な社員が退社してしまう。社員を育てたのはお客さまだ。子供は5人いるが、1700人の社員も子供だ。」と語っていることからも、久美子氏の経営方針では現場の社員の雇用を守ることができない、と考えていることがわかり、②について納得感を醸成できていないことが見て取れる。
ユニ・チャームの高原豪久(たかひさ)社長も、創業者として年商2000億円規模まで成長させた先代である父・慶一郎(けいいちろう)氏から2001年39歳で経営を受け継ぐ際に、当時社内に蔓延していた「『社長に付いていけば大丈夫』という風潮」に問題を感じ、「おれは普通の人。おやじと同じ土俵で張り合わない。」と考え、「創業者がひとりで引っ張ってきたユニ・チャームを、社員全員が主体的に自分で考え、自分で行動する組織に変革しよう」と決意をして取り組みを進めてきた。
そのような豪久氏が今日のユニ・チャームの成長を生み出した経営のポイントとして「3現主義」と「凡事徹底」というものがある。「3現主義」とは、人から入ってくる「二次情報」ではなく、自分の耳目で集めた「3現(=現場、現物、現時点)」の「一次情報」にこそ優位性を発揮するためのポイントがある、という考えであり、「凡事徹底」とは、すべてのことを疎かにせず、ひたすら徹底的に考え、ひたすら徹底的に実行する、という考えである。この二つの考え方を会社全体に浸透させることで、先代から引き継いだ会社を大きく成長に導いてきた。具体的に言うとユニ・チャームでは、現場の社員個々人が「これを着実に実行すれば、高い目標も達成できる」と納得するまで、じっくり時間を掛けて計画を練る。「3現主義」に基づいて後継者(をはじめとする経営層)が現場と精緻なコミュニケーションを心掛け「凡事徹底」をしている。その結果、現場が経営方針を納得し、現場ならではの意見や情報を発信するいわゆる「(経営力×現場力の)共振の経営」を実現し、今日の大きな成長につなげている。
久美子氏も、ポジショニング戦略の方針変換に併せて社内体制を変革していく上では、実際の顧客の購買現場や社員の労働現場を注意深く見て、積極的に関係者と対話することで、②の方向性を徹底的に考え明確にし、その内容を社内に周知徹底して実現していくことが重要である。それは、大塚家具のようにワンマン経営によって作られた風土・社内体制であればなおさら言えることではないだろうか。
2015年3月27日の大塚家具株主総会において、一旦どちらが経営者になるかの結論が出ることと思うが、顧客にうまく受け入れられるのか、経営は果たしてうまくいくのか、今後の大塚家具の動静について注意深く見守っていきたい。
大塚家具中期経営計画(http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-27/h27-2-25.pdf)
●参考文献
高原豪久著 『ユニ・チャーム共振の経営~「経営力×現場力」で世界を目指す』