2012.03.27
生活習慣病の増加を食い止めろ!
今、日本国民の約半数が「生活習慣病」(糖尿病・高血圧・肥満等)に侵されている。 生活習慣病は、がん・脳血管疾患・心臓病といった、日本人の3大死因を引き起こす要因でもあり、3分の2近くは、これらの疾患を原因として亡くなっている 。また、生活習慣病には、一歩手前の「生活習慣病予備軍」と呼ばれる人々が存在し、実患者の倍にのぼる人々がこれに該当する。 例えば、糖尿病に関して言うと、現在の患者数が 890万人に対し、境界型糖尿病(糖尿病予備軍)を含めると2210万人に及ぶ。(2007年度 厚生労働省「国民健康・栄養調査」)
今や生活習慣病は、誰もが、身近に迫っている危機と認識しておくべき病なのだ。
そして、今、国全体で問題視されているのが、生活習慣病の治療状況についてである。現在の生活習慣病の疑いがある人々の中で、約70%以上が治療を受けていない。前述の糖尿病は、継続的な治療を受けている患者数が237万1,000人(2008年厚生労働省「患者調査」)に留まっており、治療を受けている人数が全体数に比べて圧倒的に少ない。その理由としては、費用がかかることも挙げられているが、生活習慣病でも問題はない(検査結果で異常値が出たとしても自身としては自覚症状がないため放置している)、治療を受けるのが面倒、といった、本人の意識の低さに関わる項目も多く上がっている。しかし、生活習慣病は、治療をせず放置すると、合併症等を引き起こし、日本人の3大死因を引き起こすリスクがあることを忘れてはならない。初期の段階から適切な治療を受け、生活習慣を改善することで、合併症のリスクも抑え、健康な生活を送ることが可能なのだが、そのことに対する国民の意識は、非常に低い。
生活習慣病の要因として、食生活の欧米化、運動不足、飲酒、喫煙、ストレスが強く関連している。その名前の通り、普段の生活習慣が深く影響しており、生活習慣を見直し、改善しなければ、絶対数を減らすことは難しい。患者数の推移を見ると、20歳から徐々に増えはじめ、65歳未満が約半数を占める。(2008年厚生労働省「患者調査))65歳以上の生活習慣病患者も、それ以前の生活習慣が影響して、生活習慣病を発症させてしまうケースが多い。厚生労働省が「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」と題して、生活習慣病、及びその原因となる生活習慣等の課題(食生活、運動、タバコなどの項目)に対して目標値を定め実行を推進している様に、若いうち(20歳前後)から生活習慣病の予防を定着させることによって、現在の発症者、及び、将来の発症者を削減できることが期待できる。しかし、これらの目標を達成するためには、国民全体が意識を高く持ち、取り組む必要があるが、現状は、個人の意識レベルに依存しており 、あまり効果が得られていない。今後、大幅な改善をするためには 、国民全体が「生活習慣病」に対する理解を深め、“健康”に対して意識改革を行うことが必要となる。
そこで考えてみたい。生活習慣病患者が増え始める20歳前後というのは、ちょうど就業のタイミングと合致している。日本では、就業人口の約半数以上が企業に属しており(2009年厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」)、その家族まで含めると、日本国民の大半が、一般企業に関わっていることが推測できる。そのため、一般企業を起点に、就業者、及びその家族に対して「健康意識」を定着させることができれば、国民全体の健康意識の底上げにつながり、日本全体の生活習慣病予防の定着を見込めるはずだ。 企業としても、社内全体で健康管理に取り組むことにより、健康に対する意識は高まり、社員、及び、その家族の健康状態は良化するだろう。そして、社員が健康であることは、安定的・計画的な人員計画や雇用の継続が可能となり、人員に関するリスクが低減する効果が見込める。
すでに“健康”に対する取り組みを始めている企業は存在する。それらの企業では、まず、「健康に関する目標設定及びインセンティブの付与」や「健康の見える化」を通して「健康意識の定着」を図っている。
企業の代表的な健康に対する取り組みとしては、花王の「健康経営」がある。
花王健康保険組合は2007年、「KAO健康2010」の達成と健康づくりの支援ツールとして、健康マイレージを開始した。例えば1日1万歩を達成すると10マイルを付与するなど、それぞれの健康目標に対してインセンティブを与える制度を導入した。これまでは、健康を害していた人にお金を使っていたが、これからは健康な人にお金を使うという考え方である。つまり「治療から予防へ」の転換である。2009年、花王は「花王グループ健康白書」を刊行し、健康課題の「見える化」を図り、2010年には「KAO健康2015」を策定し、健康配慮義務の徹底、生活習慣病における重症化や疾病管理、メンタルヘルスに対する本格的リサーチを開始した。
社員、及びその家族に対する定期健康診断を実施している企業は多い。しかし、その結果から健康状態を正しく把握し、生活習慣の改善などを意識している人は少ない。企業としては、診断結果に対し理解を深める場の提供や、健康診断の結果をもとに、専門スタッフなどのアドバイスを受け、個人に合った予防策(もしくは治療)のプランニング、及び実施を促進し、「健康目標」の設定、及び、目標達成までのアクションを「見える化」し、その推進を継続して支援することにより「意識を定着化」することが考えられる。その目標を達成した社員に対しては、何らかの「インセンティブ」を与えるという仕組みも有益であろう。
企業全体で取り組むことのメリットは、社員一人ひとりが、自身、及び家族の健康に対して、継続的に高い意識を持ち、その意識を根付かせることにある。社員、及び、その家族の“健康”を支援する仕組みの導入により、社員の健康に対する意識を向上させることができれば、生活習慣病患者の減少はもちろん、日本は、健康大国への第一歩を踏み出すことができるのではないだろうか。
世間の健康ブームは高まるばかりだ。しかし、一時の話題性ばかりを追いかけ、実際に、自分自身や、家族の健康状態について、正しく理解し、行動(予防)をしている人々がどの程度いる かは、甚だ疑問だ。しかし、今後は企業を中心とした“健康”に対する働きかけが活発化することにより、国民全体の意識を向上させることにつながるだろう。心身ともに健康な日本人が、国に活力を与えてくれることを期待する。
キヨラ