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2012.03.02

適切な情報流通を実現するための心構え

「日○新聞は経済界の東○ポなんですよ!」 ※東○ポとは、「飛ばし(裏付けを取らずに不確かな情報や憶測に基づいて書かれた記事)」で有名な日本の夕刊スポーツ紙であり、「●●の東○ポ」という表現は、不確かな情報を発信するマスコミ等を揶揄する時に利用する表現。  これは10年ほど前になるが、学生時代に卒論作成のためインタビューさせていただいた、一部上場財閥系企業のIR室長のコメントである。この発言はIRという職業柄、多くのマスコミに対して会社の考えや情報を発信する責任者として活躍されてきたご経験から出てきた発言であろう。インタビューの場でこの発言が出たのは、「外部に対してこちらの真意を正しく伝えるのは非常に難しい」ということを伝える場面で仰った発言だったと記憶しているが、当時学生であった筆者は、「多くの人が読んでいる日○新聞にも、多くの不確かな情報(意見・推測・恣意的な解釈)が載っている」ということに一種の衝撃を受けた。  試しに、日○新聞を含む新聞各紙を眺めてみると、明らかに記者の推測や想定で書いたと思われる記事や、記者の主張を裏付けするために、本来は別の趣旨で語ったと思われるインタビューを断片的に利用している記事と思われるものが少なくない。確かに、「いや~、先日マスコミからインタビューを受けたんだけど、こっちの意図とは全く異なる編集をされたので、その訂正に大忙しだよ~」と仰る企業関係者の声もよく耳にする。 「そういうことを言っているのではない!」  月に一度、テレビ朝日系列で放送されている『朝まで生テレビ』では、よくこのような発言が聞かれる。この番組は、毎回社会的に賛否の分かれる1つのテーマを設定し、そのテーマに関係する当事者・評論家・有識者などをゲストに集め討論を行う番組である。司会の田原総一朗氏の個性も相まって議論が白熱することも多い番組だが、議論になっていないことも多いように感じる。それは、相手の質問に対する返答がまったく異なる内容になっていたり、もはや相手への説明や反論ではなく、ただ一個人の感情を吐露しているような場面を時折見かけるからだ。上記の発言は、もはや議論になっておらず、相互の発言がかみ合わない場面によく聞かれるフレーズである。  冒頭にご紹介した2つのエピソードは共に、情報の発信者と受信者との間で、適切な情報のやり取りがされなかったことを表現しているものである。このようなことは、ビジネスの現場でもよくあることでは ないだろうか。「上司が新人の部下に仕事を頼んだが、出来上がってきた成果物が依頼したものとは全く異なるものだった」「営業現場と本社の間で業務効率化について議論をするが、まったく話がかみ合わずに議論にならなかった」等。このような話は枚挙に暇がなく、多くの会社で実際に起きていることだろう。  では、何故情報の発信者と受信者の間で適切な情報のやりとりがなされないのであろうか。その最大の理由は、「それぞれの前提が異なる」ということだ。ここでの前提とは、「やりとりする情報を理解・活用する際の、前置きとなる条件」と定義する。つまり、上述の「上司が部下に仕事を頼んだ場合」の前提とは、「仕事の目的・納期・形式・実施手法等」になる。上司は【パワーポイントで整理された結論のみの資料をその日の夕方までに作成してもらい、それを使って部長への説明を翌日の朝一にすること】を前提としていたが、部下は【エクセルを用いて詳細な分析を行い、多くのグラフを付した資料を3日後までに作成し、それを用いて4日後のグループMTGで上司からメンバーに発表すること】が前提だったりする場合である。この例は極端ではあるが、前提の要素が一つでも異なれば、結局、情報がうまくやりとりされなかったことには変わりはなく、仕事に支障をきたすことになる。  ビジネスの現場において、情報が適切にやりとりをされないという事態は、極めて大きなリスクになりうる。会社に限らず、複数の人の集合体である組織では、一つの目的を達成するために多くの人が協働することになるが、そのためには適切な情報のやりとりが必要になる。もし情報が適切にやりとりされなければ、多くのやり直しやミスが発生し、組織が機能しない状態に陥るからである。  では、冒頭のエピソードで紹介したように、新聞・テレビといった情報のプロのマスコミが介在すると、何故情報のやり取りは適切に行えないことが多いのだろうか。その原因を探ることで、ビジネスの現場で情報の適切なやりとりを推進するための教訓や、反面教師とすべき点が見出せるのではないか。  例えば、ワークライフバランスで先進的な取り組みを導入して多くのマスコミで取り上げられている企業が、一部の社員にとっては確かにワークライフバランスが取れているという側面がありながら、それ以外の社員にとってはその取り組みによってこれまで以上にワークライフバランスが取れていない事実があったとしても、そのことが記事になることはほとんどない。  また、読売ジャイアンツ終身名誉監督であり、「ミスタープロ野球」と称された長嶋茂雄氏の批判記事は、氏が監督時代に優勝を逃した時でもほとんど目にすることはなかった。  これはつまり、発信者の場合は【「自分が伝えたいこと」あるいは「受信者が欲しがると想像できること」を伝えることに傾倒しがち】、一方で受信者の場合は【「自分が欲しいこと」あるいは「受信者が知りたいこと」に絞って受信することに傾倒しがち】ということを意味しているのではないだろうか。言い換えると、マスコミは「大衆受けし、注目度が上がるような記事・ニュース等の情報を優先的に収集したり、発信者としてもそういった情報をのみ発信しがち」という事情があるということである。ワークライフバランスの例であれば、「このような施策を導入することでワークライフバランスが推進できる」という記事にしたい記者にとっては、「一方でバランスを崩した社員もいる」という事実は「自分にとっては都合が悪い情報」に当たる。長嶋氏の例であれば、国内に多くのファンを抱える氏を記事にする場合、ポジティブな記事の方がネガティブな記事よりも多くの人に受け入れられることで、結果としてビジネスになりやすい。つまりは「受信者がほしがること」を記事にする方が発信者であるマスコミや大多数の受信者にとって都合が良い、ということになるだろう。情報をビジネスにしているため、このような傾向がでるのは仕方のないことなのかもしれない。  このようなマスコミの事情から、ビジネスの現場において、発信者・受信者の間で情報を適切に流通させるために参考にすべき教訓はなんだろうか。それは下記の2点に集約できると考える。 ①発信者は「受信者は自分の都合がよいように情報を解釈し、活用しがち」であることを理解する ②受信者は「発信者は自分にとって都合のよい情報を優先的に発信しがち」であることを理解する この教訓を踏まえて、ビジネスの場で誤解のない情報のやりとりを実現するための心構えを記すと、発信者・受信者それぞれ、次のような内容になるだろう。 【発信者:自ら発信する情報の除外要件(●●ではない、▲▲の場合は当てはまらない等)もセットにして伝える】 自ら発信する情報が誤解無く伝わるようにするためには、「受信者の都合のよい解釈」を防ぐことが必要であり、そのためには、都合よく解釈されそうなポイントについて、論理的に伝えること、つまり情報の逆・対偶・裏等を伝えることが有効になる。つまり、この情報はこのような意味ではない、この場合はこの情報が使えない、といったように、都合よく解釈しかねない部分を予めつぶしておくということである。  上司が部下に仕事を依頼する場面を例にすると、「説明しやすい資料にまとめて」というのではなく、「エクセルやワードでは説明しづらいのでNG」「パワーポイントを利用して。ただし文字サイズは12以下はNG」といったようなことだ。 【受信者:同一の事象の異なる意見があるかどうかを確認し、必要であればその意見を収集する】 一つの事象に対しては、異なる視点(立場)で物事を見てこそ、その事象の形がはっきりとするし、仮に発信者が何らかの事情で削ぎ落していた内容にも気付くことができる。自分なりに視点を変えて、発信者がそのような情報を発した意図や背景を把握するということだ。発信者に質問をしたり、発信者の立場や状況を確認することも効果がある。また、ある発信者の情報の信憑性が疑わしい場合、同じテーマだが異なる意見の情報を集め、比較してみることで自らに有用な情報を得ることができる。  ある事実に対するニュースについて有識者の見解が割れている場合も、一方の見解をそのまま取り込むのではなく、対立する複数の見解の差異や前提の違いを確認することも、ある事実に対して正しく理解することに繋がる。  この2つを意識するだけで、ビジネスの現場で情報が適切に伝わるようになるのではないだろうか。もちろん、他人同士が情報をやりとりする際には、少なからず認識違いや齟齬がでてしまうこと完全に回避することは難しい。この認識違いや齟齬があることを「前提」として情報をやりとりするのが、実はビジネスにおいては「ちょうどよい」のかもしれない。
 

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