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2012.02.14

シニア市場で日本発の世界モデルを目指す!

 厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、1月30日に長期的な日本の人口動向を予測した「将来推計人口」を公表した。2060年の日本の人口は8674万人と10年比で4132万人(32%)減少すると試算した。また、老年人口(65 歳以上人口)は2,948 万人から 3,464 万人へと516万人(同17.5%)増加することで、5人に2人が高齢者となることが見込まれている。一方、生産年齢人口(15-64歳人口)は 8,173 万人から 4,418 万人へと 3,755 万人(同 45.9%)の減少が見込まれる。既に日本は「超高齢化社会」を迎えており、高齢化の勢いは今後いっそう増すばかりだ。

 一方、世界に目を向けると、これから高齢化の流れにあるのは、日本だけでない。アメリカ、EUといった先進国のみならず、中国、インド、東南アジアなどの新興国においても同様に高齢化が進む。ただし、その中でも日本の高齢化は世界で最も進んでいるため、高齢化社会をどこよりも先に経験することになる。  高齢化社会の到来には、ネガティブな見方がなされることも多い。しかし、世界で最も早く高齢化社会を経験することにより、今後急拡大するシニア市場におけるビジネスチャンスを先取りすることができる、というポジティブな見方もできる。国内でシニア向けビジネスを先進的なものに育てることができれば、もちろん海外展開も期待できる。内需縮小が叫ばれる日本のマーケットにおいて、シニア市場は数少ない成長セグメントであり、いかにして、世界に先駆けた成長モデルを構築できるかが、今後の課題と言える。

 しかし、言うは易く行うは難しである。実際、これまでのシニアビジネスの成功事例と呼べる商品やサービスは、ニッチなものが大半である。メガヒットと呼べるものは、ほとんどない。その背景には、シニア市場特有の理由が3つある。

 1つ目は、「シニア市場は、単一なマーケットではなく、細分化されたマーケットの集合体」という点だ。一口に“シニア”とは言っても、経済格差や健康状態の差が大きい上に、長い年月を経て培ってきた趣味・嗜好へのこだわり、さらに生活パターンや価値観までが多種多様に広がっている。したがって、シニア市場は、50代以下の世代よりも複雑なマーケットといっても過言ではない。しかし、これまでシニア市場でビジネスを手掛けてきた多くの企業は、シニア市場を単一なマーケット(例えば、シニア=生活弱者など)と見なして、マスマーケティングを展開し、多くの失敗を重ねてきた。シニア市場は、一気に網をかけようとしても難しく、きめ細かな対応が必要なセグメントなのだ。

 2つ目は、「明確に“高齢者向け”を謳った商品・サービスは敬遠される」という点だ。なぜならば、高齢者の多くが、自身を高齢者だとは思っていないからだ。内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によると、シニアの約8割が、日常生活に満足しており、不自由も感じていないと言う。この事実を理解していながらも、分かりやすさを求め、 “高齢者”向けを全面に出してしまう企業は未だに多い。シニアのニーズを的確に捉えた商品・サービスであっても、訴求方法が間違っているケースが多いため、なかなかヒットにつながらないのだ。若者をターゲットにした商品・サービスに“若者向け”を謳ったものがないのと同様に、“高齢者向け”というメッセージは効果的ではない。

 3つ目は、「身体的な衰えによる消費意欲の減退」という点だ。いくら心の中では自分のことを若いと思っていたとしても、歳を多く重ねるほど視力、思考力、記憶力は衰える。したがって、シニアにとって買い物という行為は、とても負荷のかかるものであり、長年使い続けている商品以外の購入には、二の足を踏むようになる。例えば、小さく目立たない文字で書かれたパッケージの商品や、操作が複雑な電化製品などは、シニアが購入する際や、使いこなす際のハードルが高い。また、自分には使いこなせない商品やそもそも間違った商品の購入が続くと、そのことを思い悩み、消費に対していっそう消極的になるシニアも多いという。分かりづらい、迷いやすい、間違えやすい、使いづらい、運びづらい商品は、シニアの消費を減退させるという事実は、理解しておく必要がある。

 シニア市場で成功するには、上記3点は、最低限クリアする必要がある。これらをクリアするためには、さらに以下の3点がポイントになってくる。

 1つ目は、「シニアに対する固定観念を捨て去る」という点だ。シニアというと、“生活弱者“、”高額消費者“など、どうしてもイメージ先行で偏った見方をしてしまいがちであり、それが従来の失敗の元凶であった。若者向けのマーケティングでは、多様なニーズがあることを前提に考えることができても、シニアに対しては固定観念が邪魔をしているケースが多く見られる。実際は、若い世代と共通しているニーズもあれば、シニア特有のニーズもあり、さらにシニア間で共通のニーズもあれば、細分化されたニーズがあり、シニア層のニーズは非常に多様である。シニアに対する見方を一度リセットして、ゼロベースでシニアの実態に迫ることが大切である。

 2つ目は、「シニアの行動を直接観察する」という点だ。ゼロベースでシニアを知ると言っても、アンケート調査などの2次情報だけでは、シニアの細かな機微までを理解することは難しい。直接自分の目で実態を確認し、行動を観察しなければ分からないことが多いのだ。シニア自身、長年の経験から深く考えず行動していたり、身体機能の衰えにより、知らないままに遠慮していたり、不満に思っていたり、面倒を避けていたり、と本人も無意識のままに行動していることが多い。したがって、そのような実態は、アンケートなどでは浮き彫りにすることは難しい。実際に、生活に入り込み、シニアの行動を知ることで、シニアは何を必要としているのか、何が不足しているのか、何が嬉しく、何が不満なのか、を知ることが重要である。その積み重ねで、ようやくシニアの心に刺さるものが生み出せるのだ。

 3つ目は、「フォローを欠かさない」という点だ。シニアは、過度な老人扱いはしてほしくないが、必要なサポートはしてほしい、という要望は持っている。若い時と同じ感覚では物理的に対応できない点が多いからだ。その点で、購入時のフォロー、購入後のフォローは、手厚く行い、丁寧にコミュニケーションを取りながら、信頼を得ることが重要である。

 シニア市場で躓く背景と、成功するためのポイントについて述べてきたが、シニアを対象にしたビジネスは、非常に多くの手間と時間がかかることが想像される。しかし、一度信頼を獲得できれば、価格などの理由では他社に乗り換えることのない、長期的なリピートユーザーになることが期待できる。また、これまで述べてきたような特徴は、おそらく日本特有のものではないだろう。細部は違えど、世界のシニア市場においてもおおよそ同様のことが言えるのではないだろうか。
 近年は、デジタルシニアと呼ばれる、ITをうまく使いこなすシニアが年々増えるなど、従来のシニア像からは考えられない行動をするシニアが増えてきている。今後もシニアの実態は、ますます多様化すると同時に、日本のトレンドを追いかけるような形で、海外でも同様の傾向が見られる部分も出てくるだろう。
 「高齢化社会」というワードを聞くと、なんとなくネガティブな印象を受けるが、今後日本が世界に誇る成長分野として大きく期待できる領域であることは間違いない。多くの国内企業がビジネスの力点を新興国にシフトする動きを加速し、国内産業の空洞化が叫ばれる中、国内のシニア市場に対する期待は大きい。ここ数年、多くの国内企業が世界に先駆けた新たなビジネスのモデルを作るという点において、海外企業に先を越され、連戦連敗の状況が続いていた。日本が世界に先駆けて突入した「高齢化社会」を前向きにとらえ、日本発のシニア向けビジネスモデルが数多く生まれることを期待したい。
 

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