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2009.09.28

加速する「余剰」の流れを止めるには?

  財務省が今月発表した7~9月期の法人企業景気予測調査によると、景況判断指数(BSI)は、7.1ポイントとなり、前期(4~6月)に比べ、21.5ポイント上昇した。政府の月例経済報告でも、「景気底打ち」は既に宣言されている。一方で、一層の悪化が懸念されているのが「雇用情勢」だ。内閣府の外郭団体「経済企画協会」が今月まとめた民間約40社の予測平均でも、失業率は7~9月期が5.7%、10~12月期には5.8%と高まり、来年1~3月には5.9%まで上昇すると見られている。中には年内に6%を超えるのでは?という予測さえあり「失業率の悪化は簡単には止まらない」との見方が大筋のようだ。

   しかし、実態は数値化された失業率を遙かに超えて深刻である。現時点では、政府の支払う「助成金制度」によって失業の顕在化が抑えられているからだ。この助成金制度とは、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用する労働者を一時的に「休業、教育訓練又は出向」をさせた場合に、「休業、教育訓練又は出向に係る手当若しくは賃金等」の一部が助成される制度である。これは、正式には中小企業に対しては、「中小企業雇用緊急雇用安定助成金」、大企業には「雇用調整助成金」という名称で支給されるものだが、「休業」に伴うこれらの申請は、今年7月に過去最高を記録している。厚生労働省が発表した助成金の利用申請状況によると、大企業・中小企業からの申請を併せて、対象労働者は243万人を突破している。これは、完全失業者にも匹敵する数値だ。仮に、これらの対象労働者が「失業者」として顕在化すれば、失業率は10%近くになるだろう。

  そもそも失業が発生する要因には、大きく3つあると考えられている。一つは、「①需要不足失業」である。これは、景気後退期に労働需要(雇用の受け皿)が減少することより生じる失業である。もうひとつは、「②構造的失業」である。これは、企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる失業である。そして、「③摩擦的失業」だ。これは、企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間がかかることによって起こる失業である。

   言うまでもなく、潜在的な社内失業者も含め、今回失業者が激増した根本要因は、①需要不足失業にあり、特に輸出を中心とする需要の落ち込みによって、製造業における急激な生産調整が必要になったことが大きい。地域別に助成金の申請状況を見ても「中部・東北地方」など、自動車関連産業や製造業が集中している地域からの申請が多く、製造業における雇用維持の厳しさが窺える。しかし、景気が回復基調にある現段階において、未だに潜在的な社内失業者・完全失業者が増え続けている主な要因は、企業の求める労働力需要の総量が落ち込んだことにあるわけではなく、「ものづくり」主体のメーカー各社が再び、生産地を海外へ移し出しているからだ。価格競争が激化するなか、企業は国からの重い負担を強いられ、生産拠点の海外移転を加速化せざるを得ない状態に陥っているのである。現在、日本における人件費、法人税、地代、電気・ガスなどのエネルギーコストは、諸外国と比較しても高水準にある。そのことが日本の企業に、労働力を海外に求めざるを得ない状況を作りだし、国内の雇用が回復しないという事態を深刻化させているのだ。
既にアメリカでは、電子機器に留まらず、家具など広範囲な産業が海外へと移転した結果、「設備の生産能力」「人材の品質管理能力」等が大きく損なわれ、企業の海外競争力までも失われてしまった前例がある。日本においても、生産拠点の海外移転がこのまま加速化し続ければ、商品を作ろうにも、生産どころか試作品すら作れない、といった事態が常態的になるだろう。

   前述した通り、助成金支給の対象労働者は243万人。また、これに近い完全失業者が存在する。今後、これらの人々が、職に就けない状態が続けば、当然景気がこれ以上、上向くことは期待し得ない。従って、政府には、日本の企業に対して国内で製造することのメリットを更に強力にPRし、「余剰」と言われる人材を日本国内で活かすことを後押しすることが求められる。雇用のすそ野が広いのは、やはり「ものづくり」だ。企業の製造意欲を日本国内から海外にシフトするのを防ぐためには、政府はまず製造拠点を日本に置く企業を、経済的に支えることである。
現在、日本の製造業に携わる労働者の時間当たりの労働費用の水準は、アメリカを100とし米ドル換算した場合で平均85ドルだ。一方、香港では24ドル、台湾では27ドル、また韓国では62ドルとなっており、3割~7割以上、依然として日本の人件費は高い。(独立行政法人労働政策研究・研修調べ)さらに、重くのしかかる事業主負担は、これらの賃金に課せられる社会保障費だ。例えば、韓国の医療保険料率は、5.08%と、日本と比較すると低率である。人件費が高値であれば、これらの差が、最終的な利益額に与える影響は決して小さくない。政府は、こういった現状に対して、最低でも主要な海外製造拠点と同等に戦える水準まで企業を経済的に支えなければ、国内での生産意欲を取り戻すことは出来ないとみた方が良いだろう。
また、新政権では、「製造現場への労働者派遣業を原則禁止する」としており、長期的な視点で見た際の経営の柔軟性も損なわれる可能性がある。「製造業への派遣」を再び規制するのであれば、同時に製造業を支援するための優遇策を講じるべきだ。価格競争が激化する中、仮に労働力の全てを、国内の正規社員で補おうとすれば、日本の企業の国際競争力は、間違いなく低下するだろう。
加えて、日本の法人所得課税は、諸外国の中で最も高い40.69%である。(2009年1月現在財務省HPより)政府は、中国の法人所得課税25%、韓国24.2%と比較して、大幅に乖離のある状況を改善し、ここでも、これらのコスト差を諸外国と比較して企業側に不利に感じさせないよう、施策を講じる必要がある。

  もし、製造業の雇用が今後国内で守られないとすれば、日本は今後、製造業に代わる確実に雇用機会を創出できる産業分野を確立するしかない。現在需要が見込まれている産業分野は、医療・福祉、介護等である。しかし、これらの分野に現在の失業者が何の障壁もなく参入できるだろうか。当然だが、それらの分野において働く意思と能力を現在の失業者が持ち合わせているとは限らない。政府の主導の下、教育訓練のみに留まらない、何らかのバックアップ体制は絶対的に必要である。
また、新たな産業分野を確立し、労働力の再配分を本格的に行おうとするのであれば、恐らく日本は、雇用政策の枠組みを超えた改革が必要になってくるだろう。特に、1990年代以降、国内から海外への雇用需要シフトが顕著になった際、国内市場において海外の低賃金労働と競合する未熟練労働者への需要が低下した半面、知的産業に従事する労働者への雇用需要が大きく増加したという事実がある。このことからも、就業する前段階、とりわけ現在の日本の義務教育を根本的に見直し、日本全体の知的レベルを更に底上げする必要があるだろう。
  現在の日本には、国内の人的リソースどのように活用していくのか、俯瞰的に見て指揮する機能が求められているのだ。
  
 
 

                       マカロン

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