2009.10.06
部下と生産的な対話をするために
「部下が自分の意見を言わない」、このようなセリフをよく耳にする。特に現場のマネージャークラスが抱えている頭痛の種であり、コンサルティングの現場でもよく遭遇する問題といえる。
例えば、会議などの場で日々感じている問題意識やあるテーマに関する改善策などについてマネージャーが部下に自身の意見を発言するよう求めるが、部下からはほとんど発言を得られないという場などである。そして、そのような状況を繰り返した結果、マネージャーは“部下に意見を求めても仕方がない” “部下には考える力がない”という認識を持つようになる。
しかし本当にそうだろうか。
部下から意見が出ないケースは三つ考えられる。一つ目は発言する意思はあるが、部下が自分の意見や考えを十分に構築・整理出来ていないために発言できないケース、二つ目は部下が自分の意見や考えを持っているにも関わらず発言する意思がないというケース、最後に意思も意見もないというケースである。
以下では、部下側の問題として認識しがちな上記三つのケースにおける上司側の問題について検証する。
まず一つ目について検証してみると、部下が自分の意見を発言しようとして出来ない理由は二つ考えられる。一つは自分の考えを概念的に整理出来ていないことであり、もう一つは考える力そのものが不足しており、自身の考えを構築できないことである。
前者のように、自分の感じている問題を概念的に整理出来ていない部下は多い。コンサルティングの現場で現場社員に行うインタビューなどでも、概念的な質問に答えられる現場社員は非常に少ない。一般的に概念化能力とはより上位層になる程求められる能力であり、現場で業務遂行を行う上ではあまり必要とされないため、概念化能力が十分に開発されていない現場社員は多い。そのため、我々が現場インタビューなどを行う際には、「チームの課題は何ですか?」という概念的な質問ではなく、「あなたの上司は●●という方針に対して日々■■のように進捗を管理して方針を推進されているが、~~という問題は起きていないですか?」というように、現場社員の目線に合わせた問いの設定を行うことが求められる。その実態を考慮することなく、マネージャーは部下に意見を求める際に、マネージャー自身の考えるレイヤーで部下に問いを投げかけてしまい、部下から意見や考えが出ないという状況を作りがちではないだろうか。部下の感じている問題意識や考えを引き出すためには、マネージャーは部下の目線に合わせた問いの設定を行うことが求められる。
次に考える力が開発されていない社員についてである。この場合、マネージャーが振り返らなければならないのはマネージャー自身が部下の思考力を奪っていないかということである。考えるという行為は習慣的なものであり、考える習慣が考える力の源である。その意味でマネージャーが部下に対して日々行っているマネジメントが部下の考える力に強い影響を与えているといえる。例えば、部下の行動を詳細に管理し細かな指示出しによって部下をマネジメントしている場合などは、部下の行動力を高め短期的には成果に繋がりやすい反面、マネージャー自身で考えない人づくりを推進してしまっている可能性が高いといえる。マネージャーは自身が推進している日々のマネジメントを検証し、部下の考える癖付けに繋がるマネジメントを行っているかを検証することが求められる。
また部下から意見が出ない二つ目のケースについて検証してみたい。部下が考えていることを発言しようとしないケースには、二つの理由が考えられる。
一つは部下が自分の意見や考えを発言する意義を感じないというものである。多くの場合、部下は最初から自分の意見を言わないのではなく、部下がマネージャーへ発してきた様々なメッセージに対するマネージャーの対応の積み重ねが現在の状態を作り上げている。部下はマネージャーの本音を見抜くという点においては非常に優れた感受性を持った人々である。本気で部下の意見や考えを聴こうとしていないマネージャー、問題提起を自分への攻撃と認識し防衛的に自身の考えを正当化しようとするマネージャーなど、部下はマネージャーの反応を的確に見極めてしまうものだが、マネージャーは往々にしてこのような部下の感受性を低く見積もって失敗するのが実態ではないだろうか。マネージャーは部下が自分の意見や考えを発言するという行為を弱化させるマネージャー自身の対応を改め、そのような部下の行動を強化するために必要な部下の意見や考えに真摯に向き合うという基本的なスタンスを身につけることが求められる。
次にマネージャーと部下の間で信頼関係が形成されていない、もしくは破綻しているケースが考えられる。基本的な信頼関係が形成されていない場合、部下はマネージャーに本音を語ろうとしない。マネージャーを信頼できないために発言しようとしない部下に自身の意見や考えを発言するよう求めるのは、マネージャーを信頼できない部下に信頼しろと言っていることと同義であり、部下から見れば全く意味のないコミュニケーションといえる。このようなマネージャーが部下の本音を引き出すためには、部下に意見を求めるのではなく、信頼関係を破綻させている自己の言動・行動を検証・改善し部下と信頼関係を築き直すことが求められる。
最後に発言する意思も意見もないというケースについてだが、これは一つ目と二つ目の複合的な理由によって起こると考えられる。
「部下が自分の意見を言わない」と嘆くマネージャーの多くは、管掌組織や部下が変わっても同じような状況に陥ることが多く、変わらぬ“頭痛の種”を持ち続けることになる。そして、これまで多くの部下を抱え、様々な職場で同じような職場環境を作り上げてきてしまったマネージャーは、部下は意見を言わないものという結論に至ってしまいがちとなる。しかし、それは常に自身が作り上げてきたマネジメントの結果でしかないということを理解すべきだ。
「部下が自分の意見を言わない」問題には当然、部下側の問題もあるだろう。しかしある特定の部下だけでなく、マネージャーの管掌する組織全体において意見が出ない、発言が少ないという現状であるなら、まず自身のマネジメントの結果として受け止めるべきではないだろうか。
モンブラン