2009.09.22
日本が世界でプレゼンスを示すための「国家理念」とは?
政権交代が実現し、55年体制が長年続いてきた自民党政権に代わって、民主党を中心とした連立政権が誕生した。期待と不安が入り混じった新政権ではあるが、これまで野党として自民党政権及び行政の不備・課題を批判的に追求し続けてきたことを、今後は政権運営で活かしてくれると期待している。
しかし、今回の選挙前から選挙期間、そして選挙後の現在に至るまで、政権運営を国民から負託された政党として掲げるべき「国家理念」が民主党をはじめ各党からも全く見えなかった。それまで政権を担っていた与党が明確に国家理念を打ち出していたかというとそうではなかったが、対立していた民主党が政権与党となっただけに、今までとは違った側面を見せてくれることを期待していた。これでは、今までの政権と同じく対症療法的な施策の実施ばかりとなり、本質的な問題は解決されないのではないか、と不安に感じてしまう。
国家の運営においては、様々な施策や諸活動の根本となる「国家理念」が必要不可欠だと考える。それは、「国家理念」が「日本とはどういう国か」または「日本がどういう国でありたいか」という国家としての存在意義を国内外に示すものあるからだ。特に、国家理念があることは外交上最も有効である。「外交」とは「国家が、ある問題に対して自国の権利を守るために相手国(一国または複数国)に主張を述べ、両者の利益の追求を図りながら交渉すること」である。逆に言えば、外交において自国の権利の主張が最初にあり、その上で主張を突き通すか、主張を譲るか、双方が納得する妥協案を提示するか、によって交渉の結論に至る。この「自国の権利を主張」する前提となるのが、国家としての確固たる考え方、つまり「国家理念」を明確に持っているかどうかにかかってくるのである。
では、日本国として自国の権利を主張し、国益を保持できる外交を実現するためにも、どのような国家理念を示すべきであろうか。それは、日本が他国にないメッセージを強く訴えることができるものである方が、確固たる国家理念を築き上げることができよう。私はそれが、世界の中での唯一の被爆国としての実体験から二度と戦争をしないという誓いを込めた「平和国家日本」という国家理念であることが望ましいと考える。一見「被爆」というネガティブな発想からの国家理念に見えるが、それは逆に日本しか経験していないこととして強いメッセージ性を込めて他国に発信できるだろう。
「平和国家日本」という理念を掲げることによって様々な問題が解決できる。例えば、中国や韓国、北朝鮮などの東アジア諸国との関係が今以上に良好になるだろう。日本がかつて侵略した国だということで、中国、韓国などの隣国の国民は今でも被害者意識が強く、何かあれば戦争加害者としての日本を引き合いに出してくる。それは意図的な部分もあるが、日本が自国の理念を他国に示していないことも大いに関係しているのではないだろうか。同じ敗戦国でありながら隣国を侵略したドイツは、今現在も周囲の国々から侵略国として非難されているだろうか。むしろ、彼らはナチスを否定し、新しいドイツの国家理念を掲げて周囲の諸国との関係を保持している。つまり「平和国家日本」という国家理念を明示して他国に訴えかけ、その理念を行動で示すことによって、他国から誤解なく「日本が平和を追求する国」であると認識されるはずだ。 また、外交上の他国との優位性も確保できる。日本が「平和国家」であるという理念を全面に出し、各国の理解が得られればそれに同調する国も増えてくるだろう。経済的な関係はお互いのメリットが享受されなければすぐに解消されてしまうが、理念に基づく国家間関係は強固なものとなり、理念を転換しない限りずっと継続するはずである。日本の国家理念をベースとして多国間の国際的枠組みを日本発で築き、世界の中で唯一日本が「被爆国」であるということを国際社会の中でポジショニングし、日本が外交をリードすることができるのだ。
さらに、国家理念は日本人のメンタリティにも変化を与えるだろう。それは、日本人としての「心の拠所=アイデンティティー」が明確になる、ということである。中国には自己主張が強い人が多いといわれているが、彼らには国家として自国が世界の中心であるという「中華思想」が根付いており、その思想や文化が世界で最も優れたものであるという自信の根源に確固たる国家理念がある。アメリカ人も建国200年間で築き上げたグローバル世界での地位に自負を持っている。「独立によって獲得した自由、権利、平等」がアメリカという国家の拠所となっており、アメリカ独自の国家理念が確立しているのだろう。確固たる国家理念を持っている国であれば、国家形態や国の規模、軍事力等に関わらず国民のメンタリティに大きく影響しているのである。
我々日本人であれば、「日本はどういう国か?」と問われた時「戦争をしない平和な国」と誇りを持って応えたい。1945年以来65年も自国の領土で戦争が起きていないことを平和の証として持っている国である。それはアメリカの傘に守られてきたことも大きい。しかし、事実として戦争を自ら起こすことをせず、また戦争がない国家として、日本人は日本を誇るべきなのではないだろうか。国際社会の中でプレゼンスを示すためにも、唯一無二の「平和国家日本」として国家理念を明確に打ち出すことに意義があると考える。
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