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2009.09.09

新興市場が本来の役割を取り戻すために

2004年以降、マザーズなどの新興市場への新規上場件数が減少傾向にある。特に2007年以降、年間の新規上場企業数は、2007年が105件、2008年が41件、2009年が9件(7月末現在)と急減している。新興市場は、「次世代を担う高い成長可能性を有した企業に、直接金融による早期の資金調達の途を確保し、企業の一層の飛躍を促すこと」を目的として、2000年前後に各証券取引所によって設立された。そのため、上場時に求められる上場株式数や株主数などの市場性条件、利益額など上場時点の収益額条件が東証2部よりも緩和され、ベンチャー企業が成長段階の早い時期から資金を調達できるようになっており、IT系やバイオ医療といった先進技術を保有するベンチャー企業の成長に貢献してきた。また、未上場企業が上場することで、それらの企業に出資していたベンチャーキャピタルが大きな利益を得る事となり、その利益を元手にさらに有望な未上場企業へ出資するという、ベンチャー企業に資金が供給される好循環を生み出していた。

その新興市場において新規上場件数が急減していることは、秀逸な技術やサービスを持つベンチャー企業の成長機会を損ねていることであり、日本産業の将来にとって不安を感じる。

なぜ、このような事態に陥ったのか。それは、過剰な個人投資家保護の視点のもと、金融庁や証券取引所が上場審査を厳格化してきたことが問題の原因と考える。日本の新興市場は、2004年の不動産会社の不祥事や、2006年にIT関連企業の粉飾決算が相次いで投資家が不利益を被ったことを背景に、市場の健全化に向けた取組みとして、個人投資家保護に偏ったルールを定めてきた。例えば、ジャスダックは2004年に上場審査体制を、従来の証券会社が審査・申請する間接審査から、証券会社の審査・申請をふまえて取引所が直接企業の審査を行う直接審査へと変更した。また2007年には上場審査を行う証券会社に審査すべき項目の増加と基準の厳格化を義務付け、対応が不十分な証券会社には過怠金を科すようになった。このように、上場審査が厳しくなった結果、これまでなら上場できたはずの企業が上場できなくなり、新規上場企業の減少を招くことになった。これらの施策は、個人投資家に不利益が被ることがないように、安全性が確認されない企業は上場させないというものだ。しかしそれは、投資は自己責任のもとリスクをとってリターンを得るという投資本来の姿、また新興市場本来の役割である「次世代を担う高い成長可能性を有した企業に、直接金融による早期の資金調達の途を確保する」ことに逆行しているものである。

もちろん、20089月のリーマンショックによる景気の悪化と株式市場の低迷が、新規上場件数の減少に影響を及ぼしていることも間違いないだろう。しかし一方で、2003年のデフレ不景気の際には、日経平均が7000円台をつけるという状況ながら、新興市場への新規上場数が100件を超えていたという事実を考えると、やはり、上場審査の厳格化が原因の1つと言って良い。

 それでは新興市場を活性化し、ベンチャー企業が育成される仕組みをつくるためには何が必要か。アメリカの新興市場NASDAQとイギリスの新興市場AIMを参考に考えてみたい。

 NASDAQの特徴は、上場時の条件を緩くする代わりに、上場後は一定の株価を下回ると上場廃止になる厳しい基準を設けている点にある。成長性が見込める企業へは上場による資金調達を可能にする一方、上場後に市場(投資家)の信認を失い、株価が一定水準以下になると、市場から退場しなければならないという、チャレンジと市場原理主義が重んじられるアメリカらしい考えだ。そのため、NASDAQでは新規上場件数よりも、上場廃止件数の方が上回る事もあるくらいで、この新陳代謝を良くするルールが、多くのベンチャー企業にチャンスを与え、興隆する活力の源泉となっているのである。またアメリカでは上場廃止になった株式の受け皿となるピンクシートという制度があり、上場廃止後も未上場株として換金流通可能な場を設けて投資家を保護している。また、企業に対しては、上場廃止後も機関投資家等の安定株主を確保できることから再上場へ向けたチャレンジがしやすいという配慮がなされている。

 次にイギリスのAIMの特徴は、上場可否の判断をNomadNominated Advisorの略で、日本でいう主幹事証券のような存在)が担い、Nomadが対象企業の

事業計画の確度と成長性が高いと判断すれば、過去の実績を考慮せずに上場を認めている点にある。そのため、AIMでは、成長性が見込まれる設立後半年程の創業間もない小さな企業が数多く上場している。現在、3000社近くが上場しており、アメリカのNASDAQを抜き世界一上場企業数が多い新興市場となっている。

 2つの事例を見ると、日本のように投資家のリスクを考慮して上場審査の前段階でふるいにかけるのではなく、企業成長の視点から多くの企業に上場の門戸を開いている。これを可能とする前提は3つあると考えており、1つ目は投資判断を行うに十分な情報を企業が開示していること、2つ目は投資家が公開されている情報を容易に取得できること、3つ目は投資家が自己責任の原則に基づいて投資をしていることだ。すると、AIMのように設立間もない企業が多く上場したとしても、正しく開示された情報をもとに投資家が企業の成長性や安定性を自身で評価し、自己責任のもとリスクをとって成長企業へ投資することができる。そしてNASDAQのように投資家からの評価が低い(=株価が大きく下落した)企業は市場から淘汰されるようになる。この新陳代謝の良さが、本来の役割を果たせる市場をつくりあげるのだ。

 上記3つの前提に対し、今の日本はどのような状況になっているのか。1つ目の情報開示については、2008年のJSOXの導入によって、公開される財務諸表や企業情報の信憑性は高まっており、米英と比較しても遜色ないレベルで開示がなされている。2つ目の情報取得についても、ネットが普及した今では、有価証券報告書や決算短信、企業理念など、投資判断に必要な情報は容易に取得することが可能となった。3つ目の自己責任はどうか。株式売買の窓口となる証券会社では取引時にリスクの説明や自己責任の原則を説明し、また個人の資産内容や年収、投資方針等をふまえ、過剰な投資については注意喚起を行うようルール化されている。つまり数年前のように情報不足から投資家に不利益が生じることは考えにくい状況が整備されており、先述のように入り口の段階から厳格な審査を行う過剰な保護政策は必要なくなっているということだ。

 これまで投資家保護のもと厳格化されてきたルールは、そろそろ見直されてもいい時期だ。上場審査基準項目を定めてすべての企業を一律にチェックするのではなく、証券会社に上場可否の裁量を与え、取引所は企業が上場した以降も継続的に正しい情報開示が行われているかを監視すればいい。そして公開される情報をもとに企業を投資家に評価させ、株価が一定水準を下回る企業は市場から撤退するよう、ルールをあらためるべきだ。そうすることで、投資家、ベンチャー企業育成の双方の視点から健全な市場がつくりあげられる。

 新興市場は、成長の安定期に入っていない企業も多いため、実際にリスクは高い。それでも投資家は大きな成長性に魅力を感じ、リスクをとって自己責任で投資する(企業の成長を応援する)のが正しい姿である。金融庁や東証は、新興市場が本来の役割を果たせるよう、過剰な個人投資家保護がベンチャー企業の成長を阻むということを認識したうえで、市場の健全化に取組むべきだ。


 

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