2009.09.01
スケジュール管理ができないのは「甘え」が原因?
平年より梅雨明けが遅れ、農作物の生育に影響がでる程の日照不足とのニュースも目にするように、夏を実感させられる猛暑日も今年は数えるほどだ。しかし、気づけば8月ももう終わり、2009年も残すところわずか4ヶ月余りである。ふと振り返ってみれば、「念頭に立てた今年の目標になかなか着手できていない」、「一度は着手したものの、三日坊主となったままだ」という人も少なくないだろう。習い事や、読書、健康維持やダイエットのための運動など自分がやりたいと思ったことでも、日々生活している中では時間に追われ心理的にも余裕がなく「明日から、来週から、やればいい」といった「甘え」から続けられないことは確かによくある。強制力がない中で、自分自身をモチベートし続けながら時間を捻出し、何かしらのアクティビティを続けるには「甘え」を排し、自律する力は必要だ。この手の「甘え」は人間誰しも持っているものだが、殊、仕事においてはこの「甘え」がコントロールできない場合、業務をスケジュール通りに遂行し、周囲の人と連携を取る上でもトラブルの源となる。 担当として、課された業務が納期内に円滑に進められない場合には、いくつかの原因が考えられる。一つには、その業務を遂行する上で求められる知識や技能が不足している場合である。実際、部下の将来的な成長を見越して、少し背伸びをした業務を与えられている場合もある。しかし、その場合は、随時上司や業務の関係者とコミュニケーションを取り、必要な情報やサポートを得ながら業務が進められると判断された範囲内でのタスクアサインが為されていることが多く、未完遂のリスクを想定すればそもそも当該業務の遂行が困難なメンバーにタスクが分配されているケースは少ない。 他方、考えられる原因は、担当する業務を遂行する能力は有しているにも関わらず、手が回りきらず、業務が滞る場合である。多くのビジネスパーソンが抱える業務には一定の繁閑が付き物で、ある種のピークはなんとか乗り切らなければならないこともある。だが、定常的に業務が遅延し、その業務の質も期待レベルに達しないことが続けば当然マネージャーとすれば見過ごすわけにいかない。そこで、業務の進捗状況や進め方の確認を細かくするようなマネジメントスタイルが取られることが多いが、このような業務のプロセス管理や指導でも業務が立ち行かない場合、マネージャーもお手上げ状態に陥ることになる。「この種の業務をこの量でこなせないことはないはずだ」という判断があればなおさら、問題は部下個人のタスク・スケジュール管理能力に帰結することになる。つまり、「甘え」のコントロールができないが故のタスク・スケジュール管理不足をどう指導して改善につなげるかが課題となる。マネージャーがこのような認識に立った場合、甘えを排して、業務に取り組むスタンスを改めるように「厳しく」「細かく」「何度も」指導がなされる場面にコンサルティングを行う中で遭遇することが多々ある。タスクの対応が後手に回る部下に対して、「やり始め」の遅れが生じる甘えを排し、途中で緩まず「やりきる」ために甘えを生じさせないようにするためには、スタンス面での指摘が有効に機能する面もある。だが、このようなアプローチで複数のタスクの管理・指導を行うと部下には、「タスクをやったのか、どこまで進んでいるのか」といった追求を受けているという認識が生じ、業務に対するやらされ感や指摘ばかりする上司との接触を避けたいという心理を増長させ、さらに業務の遂行や上司とのコミュニケーション自体が滞るといった悪循環に入ってしまう場合も多い。 では、タスク・スケジュール管理の問題にどのように対処することが有効なのだろうか。やるべきことが、約束通りにできない理由を「甘え」に求めることも一理あるが、その問題の原因を部下が「業務の進め方の技術」を備えていないことと捉えてみれば別のアプローチが見えてくる。タスク・スケジュール管理がスムーズにいかない部下の業務の進め方をよく観察してみると、納期の順に忠実にタスクに着手し、常にデッドラインに追われて余裕がない状態で業務を進めていることが多い。その業務の内容がルーティン化され、時間さえかければタスクが順に終わっていく場合であれば、〆切順の進め方でも問題がないが、業務の中には多かれ少なかれ、応用や考える作業が要求されるものもある。そのような場合は、どのようなタスクにどのような順番で取り組み、タスクに応じた然るべき時間を捻出するというタスク対応自体のプランニングが要求される。 時間管理というと、緊急度と重要度のマトリックスを思いつかれる方も多いだろうが、実際の業務の状況でこのフレームワークを活用するのは意外と難しい。一つには、重要度と緊急度という軸において自分が有しているタスクをどう評価するかの優先順位付けの難しさがある。また、業務においては突発の事態に対応するタスクも多く、毎回毎回このマトリックスで整理をすることは現実的に困難で、仮に整理したとしても突発事項は全て重要かつ緊急のセグメントに分類されることになり、さらにこのセグメントでの優先順位付けが必要になってしまう。この重要度と緊急度のマトリックスは、そもそも後回しになりがちな「重要度が高く、緊急度が低いこと」を明確にするためのものであり、半期や1年単位など大きなくくりでのタスクを洗い出すのには有効だが、細かなタスクプランニングの場面には適さない。 日常的な業務遂行の場面において個人のタスクを整理するには、より自己判断でプロットがしやすい評価軸を用いることが有効だろう。例えば、「業務を完遂するのに必要な時間の大小」と「業務遂行において考え試行錯誤する時間の必要性の大小(自己が業務の進め方を把握しているかいないか)」軸で業務を整理してみる。そして、自己がコントロールしやすい業務から着実に処理をすることで、アンコントーラブルになりがちな業務をこなす時間を確実に確保することができるようにするのだ。つまり、「A:業務を完遂するのに必要な時間は少なく×業務遂行において考え試行錯誤する時間も少ない」タスクは、可能な限り発生した時点で対応して完遂してしまうように習慣づける。「B:業務を完遂するのに必要な時間が多いが×業務遂行において考え試行錯誤する時間は少ない」タスクについては、どこかで集中して取り組める時間を確保しておくことで対処をできるようにする。「C:業務を完遂するのに必要な時間は少ないが×業務遂行において考え試行錯誤する時間は多い」と想定されるタスクに関しては、予め事前に考える時間を取ってタスクに本格的に取り組む前の準備をしておくことで、段階的に業務の質を高めるようにし、やっつけ仕事になる状態を防ぐことができる。「D:業務を完遂するのに必要な時間が多く×業務遂行において考え試行錯誤する時間も多い」タスクに関しては、BとCへの対応の合わせ技で、段階的な準備をしながら、かつ集中して取り組む時間を確保することで成果の質を担保し、未完遂のリスクを低減することができるのである。 このように整理をしていくことで、タスクとどのような関わり方をするかをまず考える習慣をつけることが「業務の進め方の技術」を高めるには有効だ。タスクの進め方を考える時間自体がもったいないと思われる向きもあるかもしれないが、業務で成果を出すには、ある程度落ち着いてタスクに向き合う必要がある。その落ち着きの醸成には、自己が業務をコントロールし、掌握をしているという意識が不可欠である。そのためには、まず今有しているタスク群にどのように関わっていけばいいのかというプランニングを部下と共有し、認識を合わせることが本質的な業務管理につながる。上司と部下でこのような議論をすることで、部下の業務遂行レベルを上司が知る機会にもなり、部下自身にとっても自己の業務遂行レベルの向上を認識することも可能になる。また、業務の質やスピードなどの精度向上の達成感を感じさせることで、部下の向上意欲を高めることもできるだろう。 タスク・スケジュール管理のみならず部下マネジメントにおいては正論や上司の見解を押し通しても、なかなか状況が改善されないことが多い。忸怩たる思いが解消されない時は、マネージャー自身が無意識にしてしまっている問いの設定自体を見直すことで状況を打開するヒントが見えてくることも多いはずである。
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