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2009.08.25

時価総額で武装したチャイナカンパニーの脅威

『トヨタ自動車、中国企業傘下に』。そんなショッキングな見出しが朝刊のトップを飾るときがくるかもしれない。

 100年に一度の経済危機のなかにあって、中国の勢いが止まらない。中国の発表では(統計数値には常に粉飾の疑問が付きまとっているといわれているが)、この経済不況の中にあっても内需拡大政策による経済拡大効果で、2009年上期のGDPは対前年同期比で8%近い経済成長を続けているとされている。一部にはチャイナバブルだのフェイクだのという話もあるが、世界経済のけん引役は、かつての米国から中国に移り変わった感がある。経済危機の発端である米国は、中国との友好的な関係構築を意識せずにはいられず、オバマ大統領の訪中決定経緯(同盟国である日本を差し置いて訪中日程が先に決まった)にも見られるように、米国が日本よりも中国にすり寄っているという構図がうかがえる。それほどに世界中が、不況から脱出する足がかりとして、中国の経済成長と市場に期待しているのである。

 中国は世界に残された数少ない共産体制の国家である。一党独裁を基本とする政治と計画した経済により国家を支配する共産体制では、経済発展や技術開発などの点で自由主義体制に及ばないことは東欧共産圏のたどった歴史的事実によって証明された。経済発展から取り残された共産国家は、やがて独裁体制の崩壊とその後の混乱を経て民主化につながっていく。そんな中にあって中国がとった道は、共産党の一党独裁体制を堅持しつつ、資本主義や市場経済のエッセンスを巧妙に取り入れることだった。そして“共産圏特化型経済発展”の道を確立し、他の共産圏国とは違った経済成長を遂げている。  自由主義体制の経済面での欠点としては、経済成長に応じて人件費も高騰していくこと、労働組合に代表される労働者の権利が強くなっていくことである。中国にも労働組合が存在するが、『「共産党の指導を受ける」ことが基本』とされており、共産党の意のままであることは想像に難くない。さらに統制経済下であれば、人件費を安価に抑え込むことは自由主義体制より遥かに容易だろう。  こういった良い?点を武器に、経済特区の設置による自由経済の仕組みの導入を積極的に推し進め、上海、深圳、大蓮などの都市を整備し、国外のマネーと企業を呼び込むことで経済発展を実現した。中国の安い人件費による低コスト生産は低価格につながり、あっという間に世界の工場としての地位を確立した。今後の労働力にしても、農村部にまだまだ豊富な人口を抱えており、労働力の確保には事欠かない状態である。

 このような経済政策を背景に、GDPでドイツを抜き、米国、日本に次ぐ世界第3位の地位に登りつめた。中国指導部はいずれ米国を追いぬき世界一の経済大国になることを視野に入れ、都市、産業、エネルギー、軍事、宇宙など、かつてアメリカが覇権国家となるべく行ってきた様々な施策を実践している。

 中国の国家の発展は、安価な人件費による低価格品の大量輸出による外貨獲得と、人口12億ともいわれる豊富な購買力を背景に内需が大きく拡大したからだが、同時に中国系企業も大きな発展を遂げている。2008年末の集計(2009年1月23日付け日経夕刊1面)によると、世界の株式時価総額20傑のうち、中国系企業は3社(ペトロチャイナ:石油化学、チャイナモバイル:携帯通信、中国建設銀行)もランクインしている。しかし日本系企業の名は1社もなく辛うじてトヨタ自動車が23位に顔をだす(時価総額はぺトロチャイナの半分にも満たない)程度である。ちなみに米国系企業は11社。

 時価総額の差はそのまま企業の経済力の差を意味する。中国の携帯電話キャリアであるチャイナモバイルの時価総額は1968億ドルであり、NTTドコモの877億ドルの倍以上だ。これは何を意味するかというと、M&Aでよく使われる株式交換方式を使えば、資金的にいつでもNTTドコモを買収することができるのである。NTT本体が816億ドルなので、その気になれば携帯と固定通信の両方を完全に押さえることができるほどの凄まじさである。チャイナモバイルがNTTドコモを買収しないのは、NTTドコモの持っている移動体通信に関する技術(日本の携帯電話は日本独自の規格で発展したもので、グローバルスタンダードとは異なっているので海外では亜流となっている)に魅力を感じていないからだろう。

 しかし日本には技術的に魅力的な企業がたくさんある。トヨタやホンダが持っているハイブリッド技術、シャープの太陽電池、三洋電機やパナソニックのバッテリー技術、東芝の原子力発電、富士重工や三菱重工の軍事技術などなど、早々に追いつけない技術力をもった、世界的に有名な企業が豊富なのである。  こういった企業は様々な技術とノウハウ、生産技術を持っているだけでなく、何より多くの主要特許を押さえている。それらは温暖化ガス抑制に大きく効き目のある技術であり、軍事転用ができるものも多い。特に技術面ではこれから世界に追い付かなくてはならない中国と中国系企業は、これら魅力的技術を持っている企業を丸ごと買ってしまう誘惑に駆られることだろう。

 過去にGMが自社の危機対策のため、保有していた富士重工の株式を売却したことがあった。トヨタ自動車が買い取ったからよかったものの、もし中国系の企業が買い取っていたら、今ごろは富士重工の軍事産業の技術は、すべて中国に渡っていたのである。富士重工が作るカーボン複合材の主翼は、ボーイングの旅客機や戦闘機などにも採用されている。 経済危機で日本主要企業の株価が軒並み下がっている現在、日本の企業は中国企業から見てお買い得であり、買収支配の脅威にさらされているといっていい。上場企業である以上、TOBや水面下での買占めなどによって買収されることは、現実的に起こりうることなのである。

 では、この隣国の脅威とどのように対峙していけばよいのだろうか?8月30日に投開票を迎える衆議院選の各党のマニュフェストには、残念ながら中国との外交、経済面での協力を記載した党は一党もなかった。米国との協調や協力、日米安保による軍事的協力関係など、米国との関係のみに目が向いており、中国とどう付き合っていくかに関する方針は見られないのは残念でならない。米国はおろか、世界中の国家が中国の市場の力を利用して、経済危機から脱却を狙っているというのに、日本の政党には中国とどう付き合っていくか、その視点が欠けている。日本がこれからも経済発展を続けるためには、米国とはこれまでどおりの付き合いを続け、中国とも均等につきあっていかなければならない。 しかしその反面、中国の脅威から日本の企業を守らなくてはならない。中国が自らの世界覇権を確立するために、経済大国である日本を実質上の傘下に置きたいと考えても不思議ではない。軍事的支配を目指して日本侵攻を行えば米国が黙っていないだろうが、株式面からの支配であれば深く静かに進行することができ、気がついた時にはもう遅いという状態も十分にありうる。

 橋本内閣のときに自由化された金融ビッグバンを再度見直し、外国人投資家の持ち株比率の上限制限を加えることや、グループ企業により持合いの容認、政府のホワイトナイト基金の設立、また国内のホワイトナイトに対する税制優遇など、日本の企業を仕組みとして守るような政策を検討すべきだ。買収を防ぐには、企業が上場廃止をすればよいのだが、それら防衛策を各企業の判断や努力に任せるのではなく、政府がセーフティーネットを張って、法律的に外国企業による買収が困難な状態するようなバックアップが必要だろう。

 資源のない日本が今後も発展していくためには、誰にも真似のできない技術を開発し、徹底して磨きつづけなくてはならない。しかしその結果、技術欲しさに企業を丸ごと買収してしまうという行為にさらされ続けることになる。買収された後は、必要な技術と特許だけ奪われ抜け殻のようにされてしまうだろう。 間もなく総選挙だ。日本の力の源泉である優秀な企業と技術を守るために、国際的な視野にたって日本と日本の技術を考える先をみた政治を期待したい。

マンデー

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