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2009.08.18

無料化施策の落とし穴

2005年、環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性のワンガリ・マータイ氏が京都議定書関連行事のために日本を訪問した時、「もったいない」という考え方に触れて以来、環境問題を考える世界共通語として 『MOTTAINAI』を広めているという。
消費削減(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)、尊敬(リスペクト)の概念を一語で表現していることが、その理由だという事はご存知の方も多いはずだ。
ところが、この『MOTTAINAI文化』を後退させるような動きがある。それは衆院選で政党が掲げる無料化施策だ。高速道路や子供の医療費の無料化施策は、防衛的消費を余儀なくされている生活者心理を刺激した対策なのだろうが、政党のマニフェストを見る限り無料化そのものが目的化しているように映る。

現実的に考えると、この手の無料化施策はフリーライダー現象(タダ乗り)による問題を引き起こす。今の日本経済の状況を前提に考えれば多くの生活者が「どうせタダなら、とりあえずもらっておく、使わなくては損だ」と、フリーライダー化する。フリーライダー現象の原理は、共有財産が無料で使える状況で起こるものとして認識しておくと良い。
例えば、おいしい水・きれいな空気・肥沃な大地などの自然環境資源は人類共有の財産である。全てがタダだとしたら、できるだけ沢山自分のものにしようという力が働き、どうせタダなのだから、少しでも多くを自分のもにしようとするため、結果的に共有の財産が荒廃してゆく。
この考え方に従えば、子供の医療費の無料化は、子供に何かあればすぐに病院へ行かせる家庭が増え、病院での待ち時間の長時間化を起こす事が懸念される。共働き世帯で本当に治療を必要とする人は子供に付き添う事ができければ通院を抑制し、親の時間に余裕のある家庭が子供につきそい病院を利用するといった不公平さが生まれる。
高速道路も同じ事が起こる。高速道路利用の必要性の無い車が増える事が予想され、渋滞と事故のリスクが増え、結果的に高速道路そのものの利用価値(より早く目的地に移動すること)を下げる事になるだろう。
共有の財産を持続的に利用できるようにするためには、利用者の認識をあらためることと同時に、そのために必要な仕組みを作りださねばならない。
つまり、無料化施策を導入する際には、フリーライダーの発生を想定した歯止めをかける仕組みが必要になる。
ところが、無料化が目的化してしまうと、フリーライダー現象への歯止めは後回しになる。先に触れた政党のマニフェストに掲げられた目的が無料化になっているならば、必ず後でこの問題が発生する。国民受けの良い政策を前面に打ち出し、問題は事後処理というのも選挙戦術としてはわからないでもない。
では、どのような対策が考えられるのか?高速道路の無料化で考えるのであれば、海外の事例が参考になる。基本的には課税対策となるのだが、環境税の徴収が有効な施策になっているケースがある。高速道路利用において、環境負荷の高さに応じた課金を行う仕組みを、シンガポールやイギリスでは既に導入している。
渋滞が見込まれる地域では環境負荷が高いため、それに応じて、共有財産の利用と保護を目的に課金する仕組みだ。ここで見るべきポイントは「共有財産の利用と保護」という観念を導入していることだ。
日本でも、無料化によるフリーライダー現象を抑制する仕組みに「共有財産の利用と保護」という観念を入れることが非常に重要である。
これは道路に限らず、子供の医療費でも同じ考え方を適用できるはずだ。「共有の財産」は、病院施設である。そうであれば、国公立病院と地域医療施設及び自宅とのネットワーク型診療の具体化など、そのために必要な仕組みについて、「共有財産の利用と保護」の観点から十分な検討が求められる。これまでのことからわかるように、安易な共有財産の無料化施策は、共有財産そのものを失うばかりか、返って余計なコストを発生させてしまう悲劇を生みだす。
やはりタダより高いものはないのである。

何事も安いに越したことはない。高速道路利用料金が1000円なら、車で帰省しようと考える。オオゼキの食料品が安ければ隣町でも自転車で行く。ヤマダ電機が地域の小売店とポイント交換可能にすれば、地元でお金を落として、更にヤマダ電機で安く買おうと思う。
「同じモノを手に入れられるのであれば、より安い場所で」と突き動かされるのが今の消費行動の典型だと言えよう。低価格を打ち出す企業はそこに商機を見出している。

これは80年代の消費とは真逆の行動である。80年代は、消費そのものを楽しむ事が豊かな生き方であると信じて疑わなかった時代であった。現在は無駄を抑えるスマート消費が豊かな生き方となった。スマート消費が本質的な価値観であれば、日本人が本来持っていた「もったいない文化」が進化したとみる事もできる。その一方で、「もったいない文化」は財の消費余力を奪われた事が背景に台頭してきた面も否めない。そう考えると、スマート消費が日本の消費文化として根付いているかどうかはまだ疑問も残るのだが、真に豊かな生き方としての『MOTTAINAI文化』が根付く事を願いたい。


 

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