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2009.08.12

国の政策にこそイノベーションを!

 8月30日の総選挙に向け、テレビや新聞などメディアの至る所で各党のマニフェストの紹介・比較がされている。争点には「財源」「子育て・教育」「年金・医療」「地域主権」「雇用・経済」などがあり、各党がそれぞれ独自の主張を行い、国民に判断を問うている。

 ビジネスパーソンにとって関心が高いであろう「雇用」分野に関しては、自民・民主の2大政党のマニフェスト内容の違いが分かりやすく、その比較が盛んに行なわれている。雇用分野の政策の個別の争点について、自民・民主は次のような政策を掲げている。(日本経済新聞2009年8月7日朝刊の記事より引用)
◆派遣労働の見直し
 ・自民:日雇い派遣の原則禁止
 ・民主:製造業派遣の原則禁止、2か月以下の雇用契約の労働者派遣を禁止
◆雇用の安全網
 ・自民:3年で100万人の職業訓練を実施
 ・民主:雇用保険を全ての労働者に適用
◆雇用確保
 ・自民:今後3年間で200万人の雇用確保
 ・民主:明記無し
◆最低賃金
 ・自民:明記無し
 ・民主:全国平均時給1,000円を目指す

 上記を見ると、自民の政策には企業への配慮が見受けられる。国内6月の完全失業率が5.4%と雇用環境が悪化する中でも、産業界の要請により進めてきた規制緩和に逆行するような施策を最小限に留め、現状維持に近い政策内容になっている。一方で民主は働き手にやさしい政策を打ち出している。最低賃金を引き上げることでワーキングプアの解消を目指したり、短期の派遣契約を禁止したり、働き手の所得の安定・増加に繋がるための策を懸命に掲げている。一方で、自民の政策よりも派遣労働に対する規制を強化することで所得の安定・増加には寄与すると考えられるものの、雇用の受け皿となっている派遣という労働市場が小さくなり、結果として雇用確保がこれまで以上に難しくなるのでは?、という副作用も懸念される。具体的な政策自体は異なるように見えるが、両党共に「国民の生存権(社会権)を如何にして担保するのか」という目標を目指している点では違いはない。また、目標設定のベースとなる「前提」にも共通点があることも分かる。その前提とは「働かざる者食うべからず」という考え方である。
 両党の労働に関する政策を眺めると、「如何にして雇用(労働)を安定・維持させるか」という考えが根底にある。それはつまり、人間は労働しなければならない、という前提があることに他ならない。異なると言われている自民・民主の労働・雇用政策であるが、前提にあるのは実は同一の考え方であることが分かる。

 「働かざる者食うべからず」という考えは、半ば当然の考え(前提)として受け入れられている。日本国憲法にも「勤労の義務」という形で規定されている。しかし、経済環境が劇的に変化している今こそ、多くの人が疑うことなく受け入れている前提を疑ってみることで、斬新で効果的な新たな政策を考え出すことができるのではないだろうか。つまり「働かなくても食べていける」ことを許容した政策を考えることで、現状の閉塞感を突き破れるのではないだろうか。(ちなみに「勤労の義務」は、憲法の規定では労働権の保障と対応して、一種の「精神的規定」にとどまっている。またこの規定は、立法によって国民への強制労働を許容するものではなく、違反者に対する具体的な罰則を課する性質のものでもない。また、不動産収入などの不労所得や金利生活者の存在を禁止するものでもない。)

 実はこの「働かなくても食べていける」という考えを具現化した社会保障の思想・制度はすでに存在している。この考えは「ベーシック・インカム(Basic Income:以下BI)」という思想・制度であり、最低限所得保障という“全ての個人に基本的な欲求を満たす一定額の所得を給付する”という考えを具体的に示したものである。この制度の概要は次の通りである。(ベーシック・インカム入門 (光文社新書)山森亮 (著)参考)
◆すべての人々に無条件に一定の所得が与えられる制度。
・世帯ではなく個人に交付。
・無条件に交付。
-他の所得の有無を問われない。
-資力を問われない。
-職歴を問われない。
-能力を問われない。
-就労条件を課されない。
◆生活するのに十分な給付水準であれば完全BI、それだけでは生活できず、稼得や他の給付などで補われる必要があるものは部分BIと呼ばれる。

 BIの考え方には、産業革命以降の仕事に対する位置付けの変化が関係している。イギリスで産業革命が起きてから、人間の働く目的は「生きるため、食べるため」だけでなく、「より生活を楽しむため、文化的にするため」ということが加わった。それにより「余暇」という考えが生まれた。この余暇が生まれたからこそ、スポーツやギャンブルといったエンタテインメント産業が発達していった。今日、農業技術の発達により、日本や先進国では飢饉によって国民全体が飢えてしまうような事はなくなったと言えるだろう。したがって、あれもしたい、これもやりたいという贅沢さえ言わなければ、食べるための必要最低限の暮らしは実現できているはずだ。
 そうであれば、お金はかかるが人生を豊かにしたい、文化的な生活を楽しみたい、と考える人がより積極的に働き、最低限の生活で良いと考える人は仕事をしなくても良いという考えが生まれてきてもおかしくはない。もちろん、絶対やらなければいけないような仕事の給料は、必然的に現状よりも高くなるはずである。
またBIの財源にもこの考えが適用される。文化的な生活にかかる消費には多額の税金がかけられ、それがBIの財源に回される。仮に一人当たりに毎月8万円がBIとして支給され、その金額で生きていくこと、食べていくことが保障されるなら、よりお金のかかる文化的な生活を営みたい人は働き、そうでないのであれば働かないという選択が可能になる。
 これがBIという考えが生まれた背景だと考えられる。

上記のような特徴を持つBIが社会に与えるメリット・デメリットにはどのようなものが考えられるだろうか。完全BIを想定すると次の様なものがある。
◆メリット
①『生存権(社会権)』が一律に保障されるので、社会保障、特にセーフティネットをBIに集約・一元化ができ、事務コストを大幅に削減できる。
②生活保護申請等に必要な個人情報の細かな管理の必要性が減るので、情報管理にかかる行政コスト・人的コストを大幅に削減できる。
③生きるためだけに働かなければならない人が減り、過労死や精神的な疾患の原因となる長時間労働等の職場の問題が減る。
◆デメリット
①多くの人がやりたがらないが誰かがしなければならない仕事の『労働量』が不十分になる可能性がある。
②『労働』に関するモラルハザードが発生し、BIに依存する国民の比率が高くなることで社会を維持するために必要な労働力総量が不足する。
③ギャンブル等にBIを使い、自ら生活の基盤を毀損する計画性のない国民が一定比率で出る可能性がある。

 上記のメリット・デメリットを見ると、現在の労働・雇用政策の問題として指摘されている大部分を克服することができることが分かる。「如何にして雇用(労働)を安定・維持させるか」というテーマ自体が議論する必要もなくなり、更にメンタル疾患や過労死という労働問題も併せて解決可能になる。もちろんデメリット部分をつぶし込むための対応や、そもそもの財源の確保(仮に1億2千万人の国民に毎月8万円を支給するためには、年間で約115兆円が必要になる)が欠かせないが、自民・民主双方の政策よりも、より効果的な政策がBIの導入により可能になるのではないだろうか。

 BIを導入することは、一見すると大きな政府、社会主義を連想するかもしれない。しかしBIの実態をよく見ると、労働・雇用に関する政策は驚くほどシンプルになることで、非常に小さな政府を実現できるし、国民や企業は政府介入によるわずらわしさから脱し、自由を手にすることができる。むしろ、労働力搾取論や新市場批判論で指摘される資本主義の欠点を克服する、新たな資本主義に移行するとも言える。既存の前提を捨て去り新たな発想をすることが、イノベーション(新たな考え方・サービス・商品等)を生むのである。

 多くの企業の中では、常に新たなビジネスチャンスを模索するために、イノベーションを生むために努力をしている。是非、国の政策を立案する際にも今までの前提を取りはらい、新たな発想によるイノベーションを起こして欲しいものだ。今月30日に行なわれる総選挙では、「新たな政策イノベーションを生み出せるか否か」、という観点で政党・候補者を選択し、投票してみても面白いのではないだろうか。

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