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2007.10.25

日本のサブカルチャー 世界を行く

 ニューズウィーク日本版の「世界が尊敬する日本人100」という特集に目がとまった。TIME誌の「世界で最も影響力のある100人」を思わせるようなタイトルから、ビジネスの世界で成功している人やメジャーなスポーツで活躍している人、あるいはクラシック音楽や純文学などのハイカルチャーの分野で世界から注目を集めている人が紹介されているものと思いながらページをめくったのだが、特集の趣旨は全く違うものだった。
 そこで紹介されている100人の日本人は、氷の彫刻師、アラビア文字の書道家、浪曲師、ゲーム音楽の作曲家、アクリル画のアーティスト、野球のグローブデザイナー、人形作家、生ハム職人、武術家など、どちらかといえばマイナーな世界の小さな成功者ばかりだ。
 最初は、少々肩すかしを食ったような気になったのだが、記事を読み進むにつれて、この特集は、これからの日本人が、世界で活躍していく姿を的確にとらえているのかもしれないと、大変興味深く思えてきた。

 紹介されている100人の中には、研究者やスポーツ選手なども含まれているが、大半は、サブカルチャーの担い手であり、その分野は実に多種多様だ。また、ミス・ユニバースで優勝した森理世さんや、アニメ映画監督の押井守さんのような有名人も含まれているが、ほとんどの人は、けっして知名度が高いとはいえない。しかしながら、メジャーではないものの、皆、日本人特有の勤勉さを活かして、ひとつの道で職人芸のような世界をつくりあげており、それぞれの分野で才能を輝かせ、海外で確かな尊敬を勝ち取っている。
 成功への道程には画一的なレールもなく、ハイカルチャー特有の古いシステムに縛られている様子もない。芥川賞やアカデミー賞をとらなければならないといった客観的な基準にも縛られていない。そんな彼らや彼女たちの自由でいきいきとした姿は、成功とは即ちビジネスの世界や、メジャーな分野でチャンピオンになることなのだと考えてきた人々の目には、どのように映るのだろうか。

 日本人は、失われた10年を経て勝ち組と負け組とに分かれてきたと言われている。そのような現象は日常的に見聞きする世情からも確かに感じ取ることができるのだが、この二極化の構造も、結局のところ保守的なメジャーの尺度によるものではなかっただろうか。しかしながら、二極化が進む一方で、メジャーの尺度と無関係なところで、着実に才能を開花させ、自分の腕ひとつで逞しく世界の尊敬を集める人達がいた。ハイカルチャーであろうが、サブカルチャーであろうが、文化は豊かさを謳歌する土壌の中からしか生まれない。いかに二極化が進もうとも、日本は豊かであり、日本人のチャレンジ精神は旺盛だったのだ。

 一方、サブカルチャーでありながら、マンガのように、もはやマイナーとはいえないような変貌を遂げている分野もある。気がつけば、日本のテレビドラマも、その多くがマンガというコンテンツに頼っている。周知の通り、マンガは膨大なコンテンツを世界中に発信する巨大な輸出産業と化しており、ハリウッドにおいても、映画制作のコンテンツとして無視できない存在となっている。
 また、数年前に、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションで注目を浴びた村上隆さんのような例もある。マンガ、アニメ、フィギュアなど、日本のオタクが支えてきたサブカルチャー的な表現様式を世界に通用するアートへと高めた活動は記憶に新しい。
 1830年代に、葛飾北斎の北斎漫画がヨーロッパに渡り、フランスの印象派の画家達に多大な影響を与えたといわれるが、その血脈は間違いなく、今の日本人の中にも受け継がれている。考えてみれば、葛飾北斎も、当時はメジャーの価値基準とは相容れない世界の住人であり、江戸文の爛熟期に生まれたオタクの元祖ともいえる存在だった。

 カルチュアルスタディーズの研究者は、ハイカルチャーと比較して、娯楽を目的とするマイナーな趣味的文化をサブカルチャーと定義した。しかしながら今日では、マイナーもメジャーも、当事者にとっては関係がないのかもしれない。趣味的文化を共通の土台としながらも、マイナーな分野で世界の尊敬を集める者もいれば、メジャーな存在感を獲得する者もいる。大切なのは、当事者達の達成感だけだ。その感覚こそが文化の爛熟を意味している。
 日本はまさに戦後60年の太平の世を経て、平成文化の爛熟期を謳歌する時代にある。その様相は、町人文化が多様を極めた江戸後期、化政文化の世相に酷似している。第二、第三の北斎が生まれる土壌は整った。かつてユダヤ人が、世界の金融界を席巻してきたように、やがて日本人は、文化や芸術の分野で世界を席巻して行くのかもしれない。

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