2007.10.19
「健康とは何か」 ―労働環境、医療環境劣化の下で、人は如何に生るべきか―
結論を先に言えば、健康は自分で作るもので他から与えられるものではない。健康とは『問題を内蔵しつつ日常生活(仕事をし、食べて、動く)を送り得る状態』を言う。とすると、その相対的健康体の維持向上に人間は無関心では居られない筈である。事実、健康(食べて、動いて、楽しんで、仕事をする)なくしては、地位も、名誉も、金も何の意味も持たず、"ただ生きている骸"に過ぎない。今流行りの言葉で言えば「クオリティ オブ ライフ」価値ある人生を全うしたいのであれば、「健康作りを自分自身で努力」する事が務めである。
最近この事に関係した気になる新聞記事に出会った。「早出残業」、つまり始業前に早出して3時間のサービス残業をするサラリーマンが激増していると言う記事である。朝6時の東京駅、スーツ姿がみるみるふえ、夜間残業を禁止した会社の社員が、規制に掛からない始業前の3時間に残務をこなす。彼等を早朝出勤族曰く「ソトアサ族」と呼ぶ、事は流行語録で済めば良いがそうは行かない。バブル崩壊の後始末で「聖域」であった「人員整理」に手をつけ人員削減を行った結果、人は減ったが業務は残った。積み残した残務を早出で遂行する結果、不規則、不定期の食事(軽食であり栄養価と必要量が問題)となり、適切な運動の不足と過労とストレスでの「健康阻害」となる。これらは総て自然治癒力=免疫力の低下と生活習慣病の誘因であり、ひいては国民総鬱病時代の原因にもなっている。
健康は他から与えられるものではなく、自らが作るものである。しかしその保持保全に努力しても、人生では不慮の事故、悪性の感染症など、個人では如何ともする事ができない健康阻害のアクシデントに見舞われる場合がある。その対策が「医療」であり、対象が「事故疾病」である。我々は「健康保全」と言う「自助努力」と共に、「医療」と言う機能についての「現実」を知っておく必要がある。「医療」とは古来、人間が生きる上で衣食住に匹敵する必須条件である。この健康保全のための「医療」機能が最近崩壊の危機にあり、我々の健康=幸福を脅かす脅威が生じている。
それは医師、看護師外介護士、薬剤師等医療専門家の不足と、偏在が原因で婦人科、小児科、外科などの診療科が閉鎖され、病院倒産―医療崩壊の危機である。「帝国データバンク」のまとめによると、倒産件数は07年全国で28件、04年の32件を超える勢いである。01-07年190件の倒産原因を分析した結果、「診療報酬減少」の「経営不振」と医師看護師不足の「労務倒産」が目立ち「設備過剰」「放漫経営」を上廻っている。明らかに医師看護師不足が患者離れを生み、「売り上げ減少」と言う悪循環を引き起こしている。看護基準の保険点数見直しもこの現象に拍車を掛けている。これは看護師の労働環境改善対策として厚労省がとった政策で、急性期(入院初期一定期間)に一般病棟で患者7人に看護師1人を定員配置する「7対1看護」の実施で、夜勤72時間以下に時間短縮する病院に対して、入院基本料算定を優遇する「新基準」の導入である。この結果「看護師」の「争奪戦」が生じ、「労務倒産」と言う事態が発生した。この現象を「メディカルマネジメントオフィス工藤高代表」が「改定デフレスパイラル」と名付けた。
診療報酬が下がる―医業収入が減る―赤字幅が拡大する―職員の給料が下る―職員の離職が増す―「労務倒産」の悪循環である。
事例を挙げよう深刻さが判るだろう
* 医師人口比日本は2020年に経済協力開発機構(OECD) 30ヶ国中最下位(近藤克則日本福祉大学教授
試算)OECDに寄ると03年の日本の医師数(診療医)は人口1000人当たり2人、OECD平均の2.9人に
及ばず、加盟国中27位であった。
* 東北大学研究チームによる実体調査では医師必要数29万人に対して全国の医療機関が報告した実数は
24万286人で4万人不足、この数字には非常勤医師も含まれており、当直も担当し本来当直医は常勤医
師が当たるべきものである。医師不足は深刻で不健全な実態である。
* 介護士5人に1人離職、平均月給は21万3837円でその4割以上は就業1年未満(財団法人 介護労働
安定センター調査)
* 兵庫県「医師確保緊急対策事業」の医師応募ゼロ。不足が特に目立つ小児科,産科、麻酔科等5診療科
の採用募集だが、07年9月締め切りの応募者はゼロであった。
これらはほんの「氷山の一角」に過ぎない。医師以外の医療専門家の不足も深刻である。
この事実を前にして個々人ができる最善の方途は何か、それは「自助」「自立」「自主」以外の何ものでもない。個人が理解し実践すべき「健康」とは、「病気に罹らない心身共の健康体」をつくる事である。生物の持つ「自然治癒力=免疫力」を如何に維持向上させるか、が大きな課題になる。「癌」も免疫力低下が大きな引き金になる。
相反する行為が「過労」「不規則」「不摂生」である事を自覚すべきである。ことわざにあるように「腹8分目」何ごとにも80%の実行結果が適量であることを示す。食事量だけでなく、労働負荷しかり、運動(例ジョキング、ゴルフ)、株売買(値下げ、値上げ時の手配実行)。個人としての「自己防衛」をシッカリ行うこと。また、会社人事部が「評価処遇」にのみに専念するので無く、従来分掌であった「福利厚生」「安全衛生」を重要なミッションとして再認識し、予防医学の導入実行を進めることが、不可欠な方策である事を結論として擱筆する。