2009.07.15
リニアモーターカーで日本の成長・発展を支える交通インフラが作れるか
2009年7月2日、中央リニア新幹線の東京側の始発駅をめぐり、JR東日本の清野社長が記者会見にて、東海道新幹線品川駅の構内でボーリング調査を始めたことを明らかにした。同調査は、既に6月中旬から実施されており、今年中には、中央リニア新幹線の事業主体であるJR東海に報告する見通しだという。中央リニア新幹線の東京側始発駅は、既存の東海道新幹線との乗り換え可能であることが考慮され、東京駅、品川駅、新横浜駅が以前より候補として挙がっていたが、今回、品川駅での調査着手が明らかになったことで、中央リニア新幹線の東京始発駅は、新幹線品川駅の直下に建設される見通しが強くなった。 もちろん、観光を始めとしたビジネス以外の利用者にとってのベネフィットや、日本が他国に先駆けて新技術を応用したサービスを実現することに意味もあるかもしれない。また、移動するのは人だけではなく、モノが移動することもある。いわゆる物流であり、交通インフラの発展によって得られるベネフィットを考える時には、この物流の観点も重要になる。こうしたビジネス以外の利用者のベネフィットや他国へのアピール、また物流へのベネフィットを考えるのであれば、東海道新幹線や航空路線など既に一定の充実した交通インフラが整っているところよりも、人やモノが高速で移動可能になることで、これからの日本の発展・成長に効果的なルートで積極的に活用すべきである。 ヘッジホッグ
中央リニア新幹線は、2025年の開業を目標に計画が進められており、開業時には首都圏~中京圏を約40分間で結ぶことが想定されている。現在、東海道新幹線が東京駅~名古屋駅を約1時間40分で結んでいる事と比べれば、約1時間もの短縮になる。往復にすれば約2時間の短縮であり、日頃ビジネスで東京~名古屋間を往来しているビジネスマンにとっては、喜ばしいことだろう。とは言え、開業目標は2025年とまだ16年も先の事である。当面は既存の交通機関を頼らざるを得ない日が続く。
だが、既存の交通機関も今のままというわけではないだろう。これまでも、新型車両の開発やダイヤ改正などにより移動時間は短縮されてきており、この先16年の間に現行の技術・サービスが向上し、リニアモーターカーに及ばないまでも、今以上の時間短縮は実現されるだろう。また、技術・サービスの向上は、交通機関に限ったことではない。例えば、IT技術は今後ますます進歩していくであろうし、その技術を活かしたサービスも更に向上し、多様化していくことが十分期待できる。そして、IT技術・サービスの進歩は、前述の東京~名古屋間を往来しているようなビジネスマンが、わざわざ現地に赴かなくてもビジネスできるような環境を整えてくれる可能性を十分に秘めている。既に、インターネットを利用したチャットやTV会議等を活用して出張の削減を進めている企業もある。特に、、TV会議のようなインフラが、同一企業内に閉じたシステムではなく、一般電話のように開かれたインフラとなれば、それだけでも人が移動する必要はなくなるはずだ。つまり、ビジネスの場面で考えると、既存の交通機関がより短時間で人が移動できる技術・サービスが進歩していく一方で、そもそも移動しなくてもビジネスを可能とするIT技術・サービスもまた進歩しているのである。
そう考えると、巨額の費用(総事業費約5.1兆円)を必要とする中央リニア新幹線は、本当に必要なのか、という思いが強くなる。首都圏~中京圏(最終的には首都圏~近畿圏)を結ぶには、今ある交通機関(道路、鉄道、航空)の活用とIT技術の活用で十分で、新たに高速移動を可能とするような交通インフラは不要に思えるのだ。
では、そのルートがどこかと考えると、それは成田空港~羽田空港を結ぶ路線だと考える。成田空港の地理的不便さは今さら説明の必要もなく、離発着数もこれ以上の増発は難しく、既に飽和状態にある。一方、羽田空港は首都圏の中央に位置し、地理的条件に恵まれながらも成田空港開業以降は国内線専用と化している(現在は、ソウル、上海、香港に定期便がある)。しかし、羽田空港は2010年に滑走路が追加されることが確定しており、2010年以降、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港、ロンドンのヒースロー国際空港との間で1日1便ずつの定期直行便を運航することが両国間の間で決定しているなど、徐々にではあるが国際化が進みつつある。そこで、この地理的に離れた成田、羽田の両空港の間に高速で短時間で移動可能とする交通インフラを整備することで、飽和状態にある成田を拡張余地のある羽田が補完する関係と成り、路線数、離発着数で競争力のある国際的なハブ空港を、日本が持つ事ができるはずである。グローバル化が進み、将来的にも今以上に人や物が世界中を駆け巡るようになる時代に、競争力のある国際的なハブ空港を持っているということは、日本の今後の発展・成長にとって非常に大きな意味を持つ。リニアモーターカーの路線を実現するのであれば、是非とも成田空港~羽田空港間で実現してほしい。また、中部国際空港と関西国際空港を結ぶ路線などが実現されれば、日本の国際的なハブ空港の機能は、さらに強化されるはずだ。
交通インフラの発展を考える時、既存の路線ありきの考えや国内の利便性のことばかりを中心に考えがちである。しかし、これからの「交通(=人・モノを運ぶ)」を考える時には、グローバルな視点で「交通(=人・モノを運ぶ)」を捉えることが重要であり、今後の日本の発展・成長を支える礎を作ることになるだろう。