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2009.07.10

国策もブルーオーシャンを目指せ

 5月29日に可決成立した平成21年度の補正予算(14兆円)には、金融対策や雇用対策など、景気回復に不可欠な定番事項に加え、“低炭素革命(1.6兆円)”“底力発揮・21世紀型インフラ整備(2.6兆円)”“安全・安心確保等(1.7兆円)”と、将来を期待したくなるような キャッチフレーズが躍っている。中でも、“低炭素革命”に係る取り組みの施策が最も早く我々の生活に表れてきている。 今回の低炭素革命の取り組みのうち、我々の生活に直接的に関与するのは、住宅用太陽光補助金、環境対応車の普及・促進、グリーン家電制度(エコポイントの活用)の各策となるであろう。

グリーン家電制度とは、経済産業省所管の財団法人が定める『統一省エネラベル』で4つ星以上に認定された省電力3機種(エアコン・冷蔵庫・地上デジタル放送対応テレビ)を購入すると、購入家電の大きさに応じて定められたポイントをもらうことができ、ポイント1点=1円を目安に商品券や商品に交換できる仕組みだ。現在、家電量販店では、42インチのプラズマTVが15万円程度で購入可能だ。家電量販店が独自に発行するポイントと併せて、エコポイント23000ポイントが返却されることは消費者にとっては大きな意味を持つ。(ただし、2011年7月からの地上デジタル放送完全移行を鑑み、地上デジタル放送の普及を目的に含んでいるため、TV製品は高いポイントが付くよう設定されている)

市場調査会社GfKジャパンによると、政策適用がスタートした5月以降、一部商品(大型冷蔵庫)の販売数には顕著な効果が表れたが、それから1ヶ月を経て徐々に下降線をたどりはじめているという。6月2週時点では、引き続き大型冷蔵庫、液晶テレビは前年販売数を上回ってはいるものの、液晶テレビは5月以前からも順調に前年比を超えた販売数を誇っており、(引き続き地球温暖化対策としては一定の効果を上げているとの見方はあるものの)景気浮上のための経済政策としての顕著な効果は見られない 。今回のエコポイント制度が効果を発揮し続けているのは大型冷蔵庫のみであり、エアコンや小型冷蔵庫の販売数に至っては、前年割れを起こしている。

定量データからポイント発効に充当する財政支出2946億円の効果が殆ど表れていない惨状が明らかになり、内需拡大のターニングポイントとなり得なかったことがわかるし、各方面からも、「スタート前の買い控え、終了後の反動減を考慮すれば、対象品目の販売数量は結局例年並みに落ち着くのでは。」「エコポイントは他のモノを我慢して買わずに家電を買い、購入のタイミングを前倒しにするだけで、長い目では経済効果はあまりない。」といった否定的な意見も出ている。また、最大の受益者であろう家電メーカーも表向きは歓迎しているものの「日本への売り上げの依存度は小さく、テレビ事業へのプラス影響はたいして見込めない(ソニー幹部)」と本音では期待は大きくないようだ。唯一のプラスといえば、エコポイントを宣伝効果に取り入れて賑わう家電量販店のイメージから喚起される“景気底打ち”ムードの醸成ぐらいであろうか。

一方で、エコ消費刺激策として確実に効果が出ているのが太陽光発電装置への補助金制度であるという。これは、太陽光発電装置を設置しようとする人を対象に、発電量1kwにつき7万円の補助金が出るという仕組みだ。国の予算は当初200億円(8.4万件想定)程度であったが、申込が想定を大幅に超える見込みから、さらに補正予算で270億円が追加された。ある家電量販店では、前期ほぼゼロであった太陽光関連の売上高を今期1000億円以上へ伸ばす見込みだという。太陽光発電装置は新規の購入が大半を占め、需要開拓余地が大きいのだ。

INSEAD(フランスの欧州経営大学院)教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュは著書『ブルーオーシャン戦略』の中で、前述の太陽光発電装置のように今はまだ殆ど存在していない市場、つまり競争が存在しない未知の市場空間のことを指して“ブルーオーシャン”と呼んだ。ブルーオーシャンでは新たにニーズを掘り起こすため、利益の伸びが大きくスピードも速い。一方、対極にある“レッドオーシャン”は既知の市場空間のことを指し、各々はライバルをしのいで既存のマーケットの中で多くを奪い取ろうとしており、製品のコモディティ化が進み、競争が激しく、利益や成長の見通しは厳しい。エコポイント制度の対象商品となっている冷蔵庫・エアコン・テレビといった家電は、すでに各家庭に一台以上浸透しており、基本的に買い替え需要以上に売ることはできない、まさにレッドオーシャンだ。限られたパイのなかでより多くのシェアを獲得しようとするレッドオーシャンは、ある者が利益を取れば別の者が損をしているというゼロ・サムゲームに過ぎない。

環境対応車の普及・促進の取り組みも、広義では自動車業界というレッドオーシャン領域での取り組みであると言える。現に、エコカー減税導入後も、総販売台数の前年同月割れは止まらず、古い車(13年超)からの買い替え補助金交付といった施策を矢継ぎ早に繰り出し、ようやく総販売台数に底打ち感が出てきたに留まっている。数日前、6月の車名別新車販売ランキングで、トヨタ自動車のハイブリッド車プリウスが2万2292台と、軽自動車を含む総合ランキングで初めてトップとなったことが紙面を賑わせたが、既存の買い替えサイクルの中で軽自動車や小排気量車に取って代わっただけであり、自動車業界全体の景気浮上を指すとは限らない。

今回の補正予算14兆円をはじめ、国家予算85兆円は国民一人一人の血税から捻出されている。税金の無駄遣いは糾弾されて久しいが、無駄でなかった財源投資がどれぐらいの効果を上げているのかを論じられることは稀である。当然、無駄は排除されてしかるべきであるが、その先に求められるのは投資効果の最大化であり、「無駄はありませんでしたが1.1倍の効果でした」といった結果を国民は求めていないであろう。投資はレバレッジがかかればかかるほど良いとされる。そのためにも、何にどのような財源 を投入すれば、最も効果が表れるのか、投資効果が限定的なレッドオーシャン市場への投資ばかりではなく、ブルーオーシャン 市場(例えば、東京湾岸エリアの海路・運河を通勤経路として活用し、世界的にも悪名高い首都圏の満員電車や交通渋滞を緩和する、などという策があれば筆者にはとても魅力的に映る)にもより多くの投資を振り向けるべきだ。国策にもブルーオーシャン の視点 を是非とも取り入れて検討して頂きたい。

7月5日静岡県知事選挙の結果からも、いよいよ政権交代が現実味を帯びてきた。「静岡ショック」に続き、都議選でも与党連合が敗れることになれば、自民党が追い込まれるのは確実な情勢だ。民主党が次期衆院選で掲げるマニフェストの財源案では、税金の無駄遣いの根絶など歳出削減で9.1兆円、埋蔵金の活用や租税特別措置見直しなど歳入増で11.4兆円の計20.5兆円を捻出するとしているが、その浮いたお金を活用してどのような価値を生み出すのか、あるいは、一般会計財源をどの様に活かして国家運営を最大化するのか、といった肝心な点が明確になっていない。政党は政権交代のために存在するのでは無く、最善の国家運営を行うために存在するはずだ。昨今の日本の政治は、どうもその辺りが釈然としない。次期政権の担い手には、対立政党たたきのあげあし取りに注力するのでは無く、国家衰勢を見据え、その先を自らが指し示す政策提言を是非とも期待したい。オバマ政権における“グリーンニューディール政策”のような、ブルーオーシャンを想起させるわかりやすい政策が、今の日本にも求められているのだ 。

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