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2009.07.06

ターミネーターから学ぶ”世界観”のブランディング

 『ターミネーター4』の興行収入が、公開から5日間で10億円を突破するというロケットスタートを実現した。本国アメリカでは、『ターミネーター4』が初登場2位スタートとなっており、遅れて公開した『トランスフォーマー/リベンジ』が歴代興行収入の記録を塗り替えたことで明暗が大きく分かれた結果となった一方で、日本においては『ターミネーター4』が初登場1位を記録した。『トランスフォーマー/リベンジ』は初登場2位であり、アメリカとは真逆の結果となっている。日本では、『ターミネーター』シリーズの1作目から3作目までを通じて世界興行収入の平均30%を占めている。また、日本国内の興行収入も、初作『ターミネーター1』での10.6億円から、『ターミネーター2』では95億円、『ターミネーター3』では82億円と大きく拡大している。そして今回の4作品目では、予想興行収入で『ターミネーター3』に迫るとも言われている。日本人の”ターミネーター好き”は健在のようだ。

 元々、映画の続編でヒットを連続して出し続けることは非常に困難と言われてきた。1994年におよそ3千万ドルの製作費で3億ドル超の世界興行収入を叩き出した『スピード』も、続編の『スピード2』では、初作の主演キアヌ・リーブスが降板し、1億6千万ドルと興行成績を大きく下げている。また、人気SF映画『マトリックス』シリーズも、2作品目までは好調だったが3作品目で大きく興行成績を落としてしまった。低予算かつ画期的なプロモーションで話題を集め、ヒットを記録した『ブレアウィッチプロジェクト』でも、2作品目はほとんど知られていない。

 しかし一方で、近年はシリーズものの映画がヒットを収める傾向が強まりつつある。『スパイダーマン』や『バットマン』シリーズなどアメリカンコミック系の映画の人気が顕著であり、また、冒頭にあげた『ターミネーター』や、『スターウォーズ』、『ハリーポッター』のように、ひとつの大きなストーリーの中で展開される映画も安定的な人気を得ている。転じて、日本国内では『クローズZERO』や、ドラマの完結編としての映画『ROOKIES-卒業-』などもヒットを飛ばし、”悪メン”ブームなどとも呼ばれている。

 これらの連続ヒット作品に共通する要素はあるのだろうか。

 先にあげた『スピード』の例では、主演のキアヌ・リーブスの不在、舞台が海になったことによるタイトル(『スピード2』)とのミスマッチ感、などが失敗の主な要因としてあげられている。一方で、同様に主役のアーノルド・シュワルツネガーが外れた『ターミネーター4』は好調な成績を収めつつある。これは、映画『ターミネーター』シリーズの中では繰り広げられる世界観が確立され、メインキャストを除いても十分に観客に受け入れられるようになったからだと言えるだろう。また、独特の世界観を作りだした『マトリックス』が尻すぼみに興行収入を落とした一方で、同じように独自の世界観を作りだしている『スターウォーズ』は、1作目が発表された1980年から25年をかけて全6話を完結させ、シリーズ全体を通して得た興行収入は最高記録を保持している。これは、確立された世界観が観客に受け入れられたか、否かに起因する。『マトリックス』は、回を重ねるごとにその世界観が行き過ぎてしまい、ついには観客の理解を引き離してしまったと言える。一方で、『スターウォーズ』は独自の世界観を保持しながらも、極めて人間的な悩みや喜びなど、動き回る役者たちが現実の世界に近い感覚を保ち続けていたことで、観客の理解を得やすかったと言えるだろう。

 そこで、世界観、という言葉をキーワードとして捉えてみてほしい。世界観とは、ここでは作品が表現する世界の姿を指している。『ターミネーター』シリーズで言えば、人類のエゴで作りだされた機械が人類の脅威へと変わる未来が待ち受ける世界が描かれ、その中で未来は変えられるか、変えるために何を為すかが問われている。世界観が確立していない映画では、制作サイドの思惑によってストーリーの中で都合よく世界観が作りかえられてしまうため、観客側は理解が追いつかず、またストーリーの中に入り込めなくなる。皆さんにも、ホラー映画を見ていた筈が途中からアクション映画に変わってしまい、鑑賞後の印象がおぼつかない、という経験がないだろうか。結果として作品としての印象も曖昧になってしまう。一方で、独自の世界観に浸かりすぎてしまって、コアなファンには受け入れられるものの、マス・マーケットに対して受け入れられにくくなってしまった映画も多い。

 『ターミネーター』シリーズは、3作品目の評判が前2作品に比較して芳しくなかった。この要因には、1,2作品目の監督を手掛けたジェームズ・キャメロンから監督が交代してしまったことや、前作との年齢の計算が合わないなどの基本的な設定ミスがあること、ジョン・コナーを演じる俳優が交代してしまったことなど、様々な理由が挙げられる。これらも全て、これまで作品が作り上げてきた世界観を崩す要因になり得る。そして、2作品目で評判を落として3作品目の興行成績に響いた『マトリックス』シリーズを鑑みると、こうした世界観の瓦解は、次の作品のヒットのボトルネックになると考えられた。しかし、現実には『ターミネーター4』は、『マトリックス』の続編とは異なり初登場1位、日本国内の過去1年間で最もオープニング成績を稼ぎ出している。離れ始めていた筈の観客の心を、『ターミネーター』の世界観へ再び呼び寄せた要因は何だったのだろうか。特に興業成績の好調な日本においては、『ターミネーター』の世界観の再ブランディングに向けて様々な施策が組まれてきた。

 ひとつには、プロモーションによる”世界観への誘導”があげられる。
日本国内では3か月の長期にわたる『ターミネーター展』が開催され、過去の作品から最新作に至るまでの、実際に撮影で使用された衣装や撮影用小物、ロボットが展示されていた。また、折しも2008年からテレビドラマ『ターミネーター:サラ・コナー・クロニクルズ』が放映されたことなど、『ターミネーター4』公開前からメディアで、『ターミネーター』という言葉を目にする機会が数多く設定され、記憶を呼び起し、新たな興味関心を引きつけてきた。

 次に、シリーズを通じて共通するメッセージを伝え続けることで、”世界観の強化"を図ってきた。
『ターミネーター』シリーズでは、人間とロボットとの共存を基本テーマに据えた中で、一連のキャッチコピーは、1作目の「未来の為に生き残れ」、2作目の「運命ではない」、3作目の「恐れるな。未来は変えられる」と変化してきた。すべてが未来に向かって生きるための示唆であり、自分の運命は所与のものではなく自分で切り開くものであることをメッセージし続けている。その中で、今回の第4作目のコピーは「どこで誰が、未来を変えたのか?」。これまで変えられると言いながら変わらなかった『ターミネーター』の世界の中の未来が、どこで変わったのか、否応なしに興味を引き付けられ、世界観の中に引き込まれる。

 確立された世界観は、顧客に対する強烈なメッセージとして届けられる。その世界観を受容し、魅力を感じた人々が作品の顧客となりうる。この世界観のブランディングは、何も映画などのノンフィクション世界に限ったことではない。例えばディズニーランドは「夢と魔法の国」というキャッチコピーを掲げ、その世界観を壊さないための徹底したキャスト教育を行っている。こうした企業努力で世界観を確立することによって多くの人々を長期的に惹きつけ、ディズニーランドのファンを生み出し続けている。また、森ビルにおいては、「Vertical Garden City(立体緑園都市)」というコンセプトを掲げ、自社の都市づくりに活かすことで、森ビルが創造した都市という作品に対して共通した世界観を与えている。

 企業のマーケティング活動において、顧客との密接な関係を構築し、自社の商品のファンを作りだすことは永遠のテーマだろう。その中で、”世界観”の構築とブランディングという観点で自社を振り返り、顧客に対して一貫性のあるメッセージとして発信されるような共通の世界観が確立されているか、その世界観は顧客にとって魅力的なものであるか、見直してみることも有効ではないだろうか。
 

馥郁梅香

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