2009.07.03
iPhoneが日本の携帯市場にもたらすものとは?
iPhoneの新機種「iPhone 3GS」が、2009年6月19日にアメリカ、カナダ、イギリスなどで、26日に日本、オーストラリア、アイルランドなどで発売された。「iPhone 3GS」では、通信速度と操作性が従来の機種である「iPhone 3G」と比べて約2倍改善し、バッテリー寿命もより長くなった。さらに、高品質な300万画素のオートフォーカスカメラやビデオ録画機能、声によって音楽を一時停止させたりシャッフル機能をオンにしたりすることができるハンズフリーボイスコントロール、ユーザがどの方向に向かっているかを示し進行方向を変えると表示も回転するデジタルコンパスなどが搭載された。 製造元のApple社は、「iPhone 3GS」の全世界での販売台数が販売開始の6月19日から3日間で100万台を突破したと発表した。これは、従来の機種である「iPhone 3G」に続く記録ある。ニンテンドウの「Wii」でさえ累計100万台売りあげるまでに5日かかったことを考えると、「iPhone 3G」及び「iPhone 3GS」の連続記録は快挙であると言っても過言ではないだろう。しかも、この経済状況下での快挙であることを考えると、ただただ驚かされるばかりである。
そもそも、iPhoneは携帯電話のカテゴリーの中ではスマートフォンに位置づけられる。スマートフォンとは、携帯電話と携帯情報端末(PDA)を融合させた高機能携帯電話のことであり、基本的な携帯電話機能のほかに、本格的なネットワーク機能やスケジュール・アドレス管理機能、多彩なマルチメディア機能を搭載している。北米ではスマートフォンの普及率は高く、4台に1台がスマートフォンである。また、米国の調査会社によると、2009年1月から3月までの全世界での携帯電話販売台数は2億6910万台で、前年同期から8.6%と減少しているものの、スマートフォンに限っては3640万台と前年同期から12.7%増加している。これにはもちろんiPhoneが大きく貢献している(iPhoneは前年同期よりも200万台以上も売上台数を伸ばしている)。
なぜ、iPhoneは全世界でここまで売れているのだろうか。iPhoneが全世界で売れている理由は大きくは2つあると考えられる。1つ目は、これまでの携帯電話と一線を画す特長や機能を実現しているからである。iPodで培った洗練されたデザインを踏襲し持っているだけでユーザをわくわくさせる点、これまでの携帯電話では類を見ない大画面タッチパネルによって快適に操作が出来る点、3軸加速度センサー(筐体の姿勢を感知するセンサー)によって画面の表示を縦と横に自動で切り替えることができる点など、従来の携帯電話にはない特長や機能をiPhoneは有している。2つ目は、iPodで培ったブランド力である。携帯音楽プレイヤーであるiPodは世界中で既に浸透しており、iPhoneはそのブランド力を活用して販売を拡大することができる。つまり、iPhoneは既存のブランドを活用したブランドエクステンションという位置づけである。
このように、iPhoneは全世界で爆発的に売れているが、日本においては様子が異なる。
それは、日本では他の国ほど簡単には売れていないことである。前機種の「iPhone 3G」は2008年7月11日からの販売開始3日間で7万台を超えたが、その後は失速し、販売開始から約2カ月後には携帯電話販売ランキングで10位未満となった。その結果、2008年末までには累計20~30万台しか販売されていないと予測されている。なお、この数字は「ヒットした」と言われている携帯電話だと、約1カ月で達成している数字である。その後、携帯端末価格を大幅に下げるキャンペーンを行うことで販売台数を拡大したが、それでも2009年6月末時点では累計70万~80万台程度しか販売されていないと予測されている。ドコモのN503iやP504i等の「ヒットした」と言われている携帯電話は100万台以上販売されているため、iPhoneはまだ「ヒットした」とまでは言えない。
では、なぜ世界で売れているiPhoneが日本では簡単には売れないのだろうか?最大の理由は、日本の携帯電話ユーザが必要としている機能を欠いているからである。具体的には、携帯専用サイトを見ることができない、アドレス交換などで主流になっている赤外線通信機能がない、おサイフケータイ機能がない、等が挙げられる。つまり、iPhoneに機種変更することで、今まで使用していた携帯電話と同じ使い方が出来なくなってしまうのである。これだとメインで使用する携帯電話としての需要はあまり期待できない。事実、ある調査会社によると、日本でiPhoneを購入した人のうち約70%は2台目の携帯として購入している、というデータが得られている。もう一つの大きな理由として、iPhoneの売りである操作性や音楽プレイヤー等の機能性が、日本の他の携帯電話に比べて優位性にはならないことが挙げられる。日本人が持っている携帯電話の殆どは、iPhoneが持っている多くの特長や機能を既に備えている。例えば、内蔵カメラの性能をみると、最新機種である「iPhone 3GS」が300万画素であるのに対して、日本の最新機種の殆どが500万画素を上回っており、中には800万画素以上のカメラを内蔵している携帯電話も存在する。
以上より、iPhoneは日本では簡単には売れないことが分かった。しかし、携帯端末価格を大幅に下げることで売れていることも事実である。ある程度売れることで、今までの携帯電話ではなかったサービスが新たに行われ始めている。例えば、産経新聞では、iPhone上で当日の新聞がそのまま読めるサービスを行ったり、カタログ事業を行っている千趣会では、iPhoneを利用した衣料品通信販売(アップルのソフト販売サイト「アップストア」からカタログをダウンロードし、そのカタログを見ながら欲しい商品を携帯電話から注文することができるサービス)が行われている。
iPhoneの新機種が販売されたこと、端末価格を大幅に下げるキャンペーンは2009年9月末まで実施されることを考えると、日本でのiPhoneの累計販売台数が100万台を超え、「ヒットした」と言われるようになるのはほぼ間違いないだろう。そうすると、日本に「iPhoneマーケット」という新たな市場が出来上がる。その市場をターゲットに、各社がさまざまなサービスを提供してくると、今まで考えもつかなかったことが携帯電話で行われるようになり、それが日本の携帯電話にはなくてはならない機能やサービスになりうる可能性も十分考えられる。例えば、携帯電話に自分の好みの匂いをダウンロードし、いつでもその匂いを嗅ぐことができるサービスがあれば面白いのではないかと思う。日本でiPhoneを唯一販売するソフトバンクモバイルは、この「なくてはならない機能やサービス」を作ることで新たなユーザや新たな収入源を創出しようと目論んでいるのではないだろうか。例えば、新たな収入源としては、先の例だと匂いの元をダウンロードするための匂い提供料や、自分の好みの匂いを作ってもらうブレンド料などが考えられる。
もしかすると、近い将来、全ての新聞や雑誌がiPhone上で読めるようになり、通勤ラッシュの電車の中でビジネスマンが新聞を広げて読んでいる光景が見られなくなるかもしれない。また、携帯電話がアロマキャンドルに取って代わるかもしれない。iPhoneはどのような新たな機能やサービスを日本の携帯電話市場に残していくのだろうか。今後に注目したい。
サイドバンド