2009.06.25
苦境に陥った新聞社の売上向上施策とは?
インターネットの普及に伴い、新聞社の苦境が伝えられて久しい。実際に日本国内の新聞発行部数を見ると、1998年には53,669,866部であったものが、2008年には51,491,409部まで、約200万部も減ってきている。この11年間で国内の世帯数は約4,600万世帯から約5,200万世帯まで増えてきていることを考慮すると、一世帯当たりの部数は1.16から0.98まで減ってきている(共に新聞協会経営業務部調べ)。 また、新聞社の総売上を見ると、より新聞社の苦境がよりハッキリと見てとれる。1997年度には新聞業で合計25,293億円あった総売上は、2007年度には22,182億円へと急激に下がっている。更に内訳を見て見ると、苦境の要因が更に明確になる。新聞業の総売上を販売収入・広告収入・その他収入に分け、1997年度と2007年度の数値は以下の様になる。(全て新聞協会経営業務部調べ) では、新聞社が苦境に陥った要因である新聞広告の状況についてもう少し詳しく見てみたい。1998年から2008年のデータを見ると、新聞広告費は下がってきているものの国内の広告自体は減少するどころか増えてきている。1998年には57,711億円であった日本国内の総広告費は、2008年度には66,926億円と増えている(新聞広告費は同一期間に11,787億円から8,276億円と減少している)。広告の媒体として、新聞よりもインターネットなど2000年代に登場した新たな広告媒体に流れてしまっていることが伺える。 このような苦境に見舞われている日本の新聞社が、売上を拡大するにはどうすればよいのだろうか。それには次の3つが考えられる。 ①の同一コンテンツの再加工とは、同じ記者による同じ記事を、複数の媒体に載せることである。具体的には通常の日刊紙・夕刊紙に掲載した記事を、若い読者向けのダブロイド紙や地方紙、webページ等に再び掲載することである。つまりは、新聞社内に多くの刊行物を用意することで読者を増やし、結果として販売収入の増加を企図するということである。また読者の増加、販売収入の増加は、広告主への格好のPRとなり、広告収入の増加も期待できる。しかし、この取り組みを行う上で留意する点が一つある。それは新聞社内に、常に「自社の新聞との競争」を促し続けることである。新たな刊行物を設けることは、既存の刊行物とのカニバリゼーションが危惧される。いくら既存刊行物とは異なるターゲットを狙うといっても、新聞社の社員からすれば同一市場に類似した刊行物を導入させることを心理的に受け入れることは難しい。したがって、新聞社が新たな刊行物等を作成しようとすれば、通常、社員は既存の刊行物から読者が流出することを恐れ、新たな刊行物の発行にネガティブな反応を示すことになる。新たな刊行物を生み出すことより、カニバリゼーションの影響以上に新たな読者層を拡大させる。このことが新聞社の売上向上に結び付くことを全社に徹底することが必要になる。 ②のアジア市場への展開とは、国内からアジア各国に新聞を含む刊行物を展開することである。日本や欧米では新聞発行部数は現状維持、または漸減であるが、アジアでは直近の5年で約5,000万部も伸びている。中国では共産党の機関紙は読者離れが進んでいるが、ゴシップを売り物にする他紙は発行部数を伸ばしている。経済成長の著しいインドでは2008年だけで新聞購読者数が1,150万人も増加した。またインドネシアでは中流階級の拡大に伴い、新聞を2紙以上購読する人が増えていると言う。このように、アジアの多くの国では、これからも新聞を購読する人が増えることが想定される。このような成長市場に対して、日本の新聞社が現地で新たな新聞や雑誌を発行することで広告収入・販売収入を増加させることは可能であるはずだ。日本や欧米諸国の最新ニュースを現地向けに編集し直したり(クーリエ・ジャポンのような形式)、国内雑誌を現地向けに翻訳したり(TIME日本語版のような形式)できるのではないだろうか。 そして③の新たな収益源の獲得。販売収入と広告収入に次ぐ第3の収益源を生み出すと言うことである。このことに国内外の多くの新聞社が取り組んでいる。web上での一部の記事を有料化する等がこれに該当するが、大きな成功を得た企業はまだ見当たらない。ではどのような方法が考えられるか。それは新聞社の原点である「情報ビジネス」に再帰することがある。今も昔も、新聞社は情報を売ることでビジネスを行ってきた。インターネットの浸透により、ニュース等の情報は無料で得られるようになってきた。無料になるばかりが、人々は多くの情報に囲まれ、情報の海に溺れることすらある。 苦境に陥っている新聞社には、自社の販売収入や広告収入を確保するために起こる「押し紙」問題等、解決しなければならない問題がまだまだある。「押し紙」とは、新聞配達業務などを請け負う販売店に対して新聞社が販売した新聞の内、実際には販売されずに処分せざるを得ない売れ残りの新聞のことを指す。この売れ残りの新聞は、実際かなりの割合で発生していると言われている。しかし、一般的に新聞社と販売店の力関係は新聞社>販売店であるため、代理店は廃棄分をも含んだ金額を新聞社に支払わねばならない状況がほとんどである。そのため、新聞社が実売量よりも多くの部数を販売店に押しつけるほど販売店の「押し紙」は増え、経営は厳しくなる。 ホームタウン
・販売収入:1997年度12,903億円/2007年度12,434億円(1997年度比約3.6%減)
・広告収入:1997年度9,127億円/2007年度6,657億円(1997年度比約27.1%減)
・その他収入:1997年度3,264億円/2007年度3,080億円(1997年度比約5.6%減)
これらの数値から、新聞社にとっては販売収入減よりも、広告収入の減少の影響が大きいことが分かる。
①同一コンテンツの再加工(販売収入・広告収入の増加)
②アジア市場への展開(販売収入・広告収入の増加)
③新たな収益源の獲得(その他の収入の増加)
このような環境では、以前の様に「情報を早く正確に欲しい」というニーズよりも、「自分に取って必要な情報を必要な時に必要なだけ欲しい」というニーズが増えてきているはずである。これは各種メールマガジンやAmazonの書籍紹介システムが盛況であることからも見てとれる。このニーズに適合するサービス、具体的には個人向けにカスタマイズされた新聞の編集・発行や、メールやポッドキャストによる情報提供などを行い、個々人の異なった情報ニーズに応えることで、新たな収益源となる「情報加工収入」を得られることになるのではないか。例えば、取引先のニュースや社内動向等の情報は、法人にとってはコストをかけてでも入手する価値があるはずだ。
新聞社は、販売収入とともに発行部数に紐付く広告収入を確保する為に、そして長い間この「押し紙」が機能していたが故に、問題を指摘されながらも「押し紙」を継続している状況である。このような「押し紙」問題だが、そもそも「押し紙」は「新聞業における特定の不公正な取引方法」で公正取引委員会に明確に禁止されているため、これ以上続けた場合には販売店からの訴訟問題に発展する可能性がある。一方で「押し紙」止めた場合も、発行部数の水増しということで広告クライアントからの訴訟問題に発展する可能性もある。新聞社は、このような業界が抱える構造的な問題にも、迅速な対応が求められる。
世間の情報を求めるニーズは無くなることはない。外部環境と共に、自ら変革し、様々な問題を克服することのできる新聞社こそが、新たな成長を実現することができるのだろう。