2009.04.23
新たな仲間との出会いをコミュニケーション力向上のチャンスにしよう
新入社員を迎え、約1か月が経とうとしている。新入社員研修を受講してきた新人たちも、これまでと違う環境に慣れつつあるころだろう。また、徐々に現場との接触機会も増えてきているころではないだろうか。 そもそもビジネスは協業で行われるものである。そして、より大きな成果を、効率的に創出するためには、他者との間でスムーズな情報伝達が不可欠である。 では、なぜ情報を伝達しあう時に目線が自分におかれるのか。この理由はコミュニケーションの構造にある。 私たちが何かを理解してもらいたい・伝えたいと思った時、そのスタートは私たち自身の中にある。自分の中にある情報を、言葉などの記号にして相手に届けるのだが、記号はこれまでの体験の中から自分が最も適切と思っている言葉に置き換えられる。つまり、「相手に伝えよう」と思っていながら、参照 しているのは「自分」である。一方、聴く側が相手の話を理解しようとするときには、相手から発信された様々な情報を自分で取捨選択し、自分で解釈を加えて理解する。聴く側が参照しているのも自分である。つまり、どちらの立場であっても参照しているのは「自分」であり、どうしても自分の目線になりがちになるということである。 ミスコミュニケーションの負のスパイラルの根底には、自分の目線からしかコミュニケーションをとっていないことがあるが、これを防止する方法は「相手の目線」を考慮してコミュニケーションをとることである。極めて当たり前の話である。しかし、この当たり前の話が実は意外に難しい。その理由は2つある。第一に、人は物事を考えれば考えるほど意識が自分に向かっていくこと、もう一つは、相手の目線で考え・伝えるという習慣がついていないためである。 自分の目線からしかコミュニケーションをとっていないということは、実はあらゆるビジネスシーンであり得ることである。商品開発然り、顧客への対応・提案然りである。しかし私たちは自分以外の目線でものを考えるのはどうやら非常に難しい。したがって、折に触れ「自分の目線になっていないか?相手の目線になっているか?」と自問自答し、相手の目線でコミュニケーションをとるということを習慣にするのは必要なことなのである。 泰然自若
ところで、全く 新しいメンバーが一度に入ってくるこの時期に必ず聞こえてくる言葉がある。それは「今年の新人は…」である。この言葉はもう風物詩的で、私の親の世代からずっと言われているらしい。今となってはある意味良い思い出だが、私が新人のときに「今年の新人は…」と言われると反発を感じた。そんな人も少なくないだろう。 この言葉を言われた側が数年後、ビジネスの世界に未だ慣れていない人間に対して「今年の新人は…」と言っていることを考えると、人間の環境適応力を感じる一方で、自分を棚に上げ、今の自分の目線から物事を考え判断する傾向も感じられる。 自分の目線から考え判断することが必ずしも悪いわけではないが、ビジネスにおけるコミュニケーションを考えたときには、「正しく伝わる」ことを阻害する可能性があるため注意が必要である 。
情報をスムーズに伝達するためには、相手がしっかりと理解できるようにする必要がある。これは極めて当然ことであるが、実際のビジネスシーンを考えてみると、正しく情報を伝達できていないケースも多い 。例えば、上司の指示通り部下が動いていないケースや部下の報告に対して適切なアドバイスや指示を出せていないケースなどは意外に身近で起こっている。これはしっかりと情報を伝えていない・理解していないということであり、まさに「ミスコミュニケーション」な状態ということである。
なぜこのようなことが生じるのか?伝える側の表現力の問題や情報整理力の問題、聴く側の理解力の問題などいろいろ考えられるが、伝える側は「相手が正しく理解できるか・どう理解するか」ということを考えずに伝え、聴く側は自分勝手に判断する、このことが根本的な原因なのではないかと考えられる。
実はミスコミュニケーションが単発的に生じる のはそれほど危惧すべきことではない。なぜならば、単発的に生じている場合には、適宜フォローすることで調整可能だからだ。本当に危惧すべきは、ミスコミュニケーションが常態化し、それが負のスパイラルとなって続くことだ。意図が伝わらない責任を相手に帰し、相手の能力や意識に対する不信感を募らせる。不信感はいつしか「どうせ相手は理解できないのだから…」という思いになり、相手に理解してもらう・理解するための時間と労力を削減する方向へと向かわせる。ただでさえ伝わりにくいのに、時間と労力を削減するため、益々、正しく理解してもらう・理解することが困難になっていく。このプロセスの根底に流れているのは、自分の目線からしか伝えようとしない・理解しようとしないことである。
考えれば考えるほど自分に意識が向かっていくとしても、伝えるときには相手の目線になるという習慣がついていれば解消可能である。そう考えると、やはりポイントになるのは相手の目線で考えるという習慣をつけることである。
そのための方法はいくつもある。必ず相手の目線で考えるためのルールをつくり、実践するという方法もある。具体的には、日常の中で相手の目線になるための自分なりのチェックリストを作成したり、文書をつくる時の最初の15分間で「相手」について分析するというルール を自分に課すという方法もあるだろう。 また、新聞や雑誌の記事を使って、別の立場から見ると事実はどう変わるか?ということを検討することも、直接的には相手の目線を考慮することにはならないが、異なる目線で考える習慣をつけることが可能になるので、コミュニケーションの際にも役立つだろう。
他にも、誰かと会話するときに「相手の目線」で話せているかどうか、相手の反応を見たり、相手に尋ねたりすることでチェックする方法もある。 これはもっとも身近でやり易いかもしれないが、反面、付き合いが長い人との場合、少々難しいかもしれない。なぜならば、相手はこちらの状況を理解しており、伝え方に難があっても、これまでの経緯や慣習から、こちらが何を言わんとしているのかを考え、情報を補完することができてしまうためである。
その意味では、実は新入社員と関わるこのタイミングは、絶好の機会である。なぜならば、彼らはこちらの状況どころか、ビジネスの慣習さえもこれから習得してゆく存在である。そんな彼らに対し、自分の目線からの伝え方では理解を得られないからだ。
大仰に書かなくても、誰もが多少は新卒が十分理解できるように伝えることは、無意識にやっているはずである。それをまず新卒に対して意識的に行い、さらにその時の視点・伝達の仕方を上司・同僚達に展開する。こうすることで、相手の目線で考えるという習慣は定着しやすくなる。
「今年の新入社員は…」「うちの会社・上司・先輩は…」という言葉が自分の口から出てきたら、絶好のチャンスである。自分も「自分の目線から」というコミュニケーションのパターンにはまっていることを認識し、自分自身のモードを変えるきっかけにしてみてはいかがであろうか。