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2009.02.07

日本における新しいファイナンス形態の普及可能性

 2008年から続くグローバル規模の経済不況は、まだ解決の糸口を見出せておらず、先進国諸国においては、その端を発したアメリカやイギリス、ドイツ、フランスといったEU主要国がゼロ成長あるいはマイナス成長が見込まれている。また、BRICS,VISTAと称される新興国諸国においても成長が鈍化した。産業界においても、金融業はもちろんのこと製造業を中心にして各企業でリストラが相次いで起こっており、今回の世界同時不況に関わるニュースはまだまだ続くだろう。

 この世界同時不況の発端はアメリカの金融危機であり、いわゆる「サブプライムローン問題」や「リーマンショック」は、これまで世界の経済をリードしてきた証券・投資銀行のビジネスモデルが一気に瓦解した出来事であったと言えよう。イギリスのロスチャイルドが銀行の設立にあたって「BANK は BAND(結びつけるもの)だ」という創業の言葉を残しているように、金融機関は、もともとは人々の夢や想い、そして社会のニーズを結びつける役割を担う社会的位置づけであった。ところが、世界各国の金融機関は自らの役割を問いかけることもなく、利潤の追求と規模の拡大に突き進んできた。その結果が今の世界同時不況を引き起こしている。証券・投資銀行が中心的に取り沙汰されているが、金融業界全体として自分たちの役割をもう一度、振り返る必要があるだろう。

 ただその中で、従来の金融サービスとは違った形で実体経済を支え続け、トレンドとなった分野がある。それが「マイクロファイナンス」だ。マイクロファイナンスとは、一般的に「自営業者、低所得世帯、零細企業に対する金融サービス(小口融資、貯蓄、送金、保険等)の提供」と定義され、いわゆる「貧困層に対する小規模金融サービス」のことである。マイクロファイナンスの利用者のほとんどは貧困層で、彼らに対してマイクロファイナンス機関(以後、MFIと称する)が無担保で資金を融資し、生活支援、起業支援を行っている。しかも、貧困層への融資と聞くと一般的には「返済不可能」と思われがちだが、その返済率は95%から99%というから驚きである。この返済率の高さの主な要因は、もともとは五人一組で借入の連帯責任を負う仕組みとされてきた。だが最近では、優良返済者に対してはより好条件の融資にアクセスできる権利を与えるといった「動学的インセンティブ」を取り入れた仕組みや、借り手の無駄遣い抑制、投資内容・資産状況の徹底的チェックといった制度を採用することによって、高い返済率を維持しているという。

 マイクロファイナンスは、1970年代にインドやバングラディシュで始まったが、それを世界中に知らしめたのは、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の功績が大きい。同氏が設立したグラミン銀行は、母国のバングラディシュだけでなく世界数十カ国にまでサービスを広げ、これまでの融資実績は750万件以上、融資総額64億ドル以上にも上っている。グラミン銀行以外にも、インドのBASIX、インドネシアのBRI、ドミニカ共和国のアドペムなどがマイクロファイナンスを展開しているが、現在では世界中で1万以上のMFIが存在している。これらマイクロファイナンスの展開地域は主に発展途上国諸国ではあるが、先進国諸国も貧困層・低所得層の問題は長く社会政策上の課題として大きな位置を占め続けてきたため、1990年代後半以降欧米各国の政権は従来の福祉政策に代わってマイクロファイナンスの手法を採用し、相次いで実施するようになった。

 では同じ先進国の日本においてはどうか。昨今の経済不況や中長期的な景気低迷、貧富差の拡大といった経済的背景や、途上国の人々と同様「より良い生活がしたい」「事業を興したい」と思う多くの人々の想いもあり、マイクロファイナンスのような仕組みは日本においても普及する可能性は大いにある。
 ただ、今のところ政府や行政、各金融機関がマイクロファイナンスを積極的に導入しようとしていない。その理由として、ひとつは、金融緩和がされたとはいえ、MFIの運営形態の多くがNPO・NGOから始まるため、預金機能を持つことはできず資金調達には外部支援に大きく依存するからである。NPO・NGOが将来的に銀行化し市場で地位を獲得することは難しい。二つ目は、日本市場がマイクロファイナンスの投資対象として低く評価されている点である。MFIの資金調達は、これまで公共部門や国内金融機関依存してきたが、ここ数年資本市場を通じた海外投資家からの資金調達が活発化してきている。しかし、日本でのマイクロファイナンスのニーズはまだ明確に見出せておらず、MFIやそこに投資する投資家も少ない。三つ目は、既存の金融機関が情報の非対称性や担保不足、規模の経済性の追求といった理由からマイクロファイナンスのメリットを見出せていない点である。マイクロファイナンスが対象としている貧困層は低所得であるため返済能力が分かりづらい。また担保できる資産も持ち合わせていない場合が多い。そして、そうした貧困層一人当たりに対する金融機関の対応コストを考慮すると、マイクロファイナンスの導入には躊躇してしまっているのである。これらの理由から、日本におけるマイクロファイナンスの普及にはまだまだ課題があると言えよう。

 しかし、マイクロファイナンスからさらに進化し、特に先進国の事情に適したサービス形態が生まれ始めている。それが「ソーシャルレンディング」である。これは、インターネット上で「お金を借りたい人」と「お金を貸したい人」を結びつける個人間の融資紹介サービスである。ソーシャルレンディングは、2005年頃から欧米を中心にして展開され、米国のKivaやProsper、Lending Club、イギリスのZopaやVirgin Moneyなどが有名である。その後世界各地でソーシャルレンディングを立ち上げる企業が続出し、日本ではSBIとProsperがジョイントベンチャーで、Zopaは単独で日本法人を立ち上げ、またmaneoという会社が日本で単独で初めてソーシャルレンディングサービスを昨年10月から開始した。日本におけるソーシャルレンディングの普及可能性も未知数であり賛否両論あるが、巧みな仕組みの導入によって発展の可能性は開けてくるだろう。例えば、このサービス形態は、社会的に地域密着性が薄れたものの何かしらのコミュニティへの帰属願望を持つ個人が多く集まって発展したSNSを活用するものであり、コミュニティがまずあってコミュニケーションの場を設定している。お金の貸し借りに関しても、借り手の借入希望を貸し手が十分に吟味した上で入札するという、貸し倒れリスクを低減させる仕組みを導入している。貸し手にとっては、少額ではあるものの借り手の条件によっては安定した投資対象と考えられるのだ。日本でも貯蓄から投資へと資金を移し替えている人々が多くなってきている。ソーシャルレンディングが、「単なるお金の貸し借りの仕組み」ではなく、「新たな投資市場」としての位置づけを日本社会において確立できれば認知度が高まり普及していくものと考える。

 こうした新しいファイナンス形態は、日本においては、認知度は徐々に高まってきているものの、新たな金融の仕組みとして受け入れられるためには、制度的・社会的・経済的な課題をクリアしなければならないだろう。また、昨年から世間を騒がせてきた金融機関のように、利潤追求や規模拡大に走るMFIが登場する可能性もありうる。しかし、短期的には昨今の経済不況によって、長期的には所得格差の拡大傾向と低成長のトレンドからも、お金を持たざる人がどうやって生きていくか、を考えなければならない時代になってきている。資産や実績がなければ取引が発生しない硬直化した金融業界への投石として、こうした新しいファイナンス形態が貧困層・低所得者層の支援、ひいては新しい金融インフラへの成長していくことが望まれる。

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