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2007.09.10

新しい社会潮流「ワークライフバランス」は、何を問いかけようとしているのか

 厚生労働省は、「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」を立ち上げ、来年度を目処に育児・介護休業法の改正案をまとめることを決定した。特に育児休業制度をより柔軟に利用できるようにすることが主なねらいのようだ。
 育児休業は、出産後原則1年間(保育所に預けられないなどの事情があれば最長1年半)は、休むことができる制度となっている。しかし、期間内に繰り上げて育児休業を終わらせると、休業期間が残っていても再度取ることができない。但し、育児を受け持つ配偶者が亡くなるなどの「特別な事情」がある場合は、この限りではない。
 厚生労働省は、この「特別な事情」の条件を大幅に緩和し育児休業制度の柔軟性を高めるようで、原則1年間の育児休業期間は変えずに、その間に個人的な理由で繰り返し育児休業をとれるようにする。この「育児休業の再取得」は、いまでも企業が認めれば可能であるが、厚生労働省の調べによると、実際には9割以上の企業が「一人の子供につき1回」と制限しているという。

 しかし、最近の企業の動きを見ていると様々な改善が目立つ。例えば、育児休業の取得可能期間を1年半から「三歳になるまで」に延ばす例も出てきた。その背景には、2005年 4月には次世代育成支援対策推進法が施行されたことがある。この法律は、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ、育成される環境の整備を行う「次世代育成支援対策」を進めるため、国や地方公共団体による取組だけでなく、301人以上の労働者を雇用する事業主は、平成16年度末までに「一般事業主行動計画」を策定し、平成17年4月1日以降、速やかに届け出なければならないとしている。先の企業の例にもこういった背景があるが、その主な狙いには、優秀な女性従業員を囲い込むためだろう。他社よりも魅力的な制度を備え、仕事と生活の調和、すなわち「ワークライフバランス」を企業が真剣に模索し始めたといえる。

 「ワークライフバランス」は、90年代にアメリカで企業戦略のひとつとして導入がはじまり、ヨーロッパでも家庭政策として注目された。これらの基本的な考え方は、私生活も楽しめる働き方でなければ優秀な人材は集まらない、家庭生活を大事にできる生き方でなければ少子化も解決しないというのがその根底にある。日本でも、政府が今年中にワークライフバランスに関する憲章と行動指針を策定することを決めている。いよいよ、日本も「ワークライフバランス」を軸にした価値観を無視できない時代になってきた。

 なぜ、急速に「ワークライフバランス」への関心が高まったのか。幾つかの問題を上げることができる。ひとつには少子化社会の問題があげられる。少子化社会(昨年度の出生率1.32人)の未来では、企業の労働力確保のために、これまで以上に女性の活躍が期待される。もうひとつは、非正社員の増加と正社員の過重労働という問題も無視できない。時間が欲しければ不安定で低賃金の非正社員でいるしかなく、生活の安定をもとめれば正社員となって長時間労働を受け入れるというものだ。先日の日経の記事によると、東京・大阪の大都市圏では、正社員男性の30%以上が週60時間以上働いており、全国の未就学児がいる父親の約14%が23時を過ぎての帰宅する、という結果が出ていた。興味深いのは家庭も大事にする男性の方が、労働生産性が高いという結果だった。これは、「ワークライフバランス」を積極的に取っている男性の方が労働生産性が高く、企業にとってもプラスになっている事を示している。
 「ワークライフバランス」の考え方の浸透と生産性の上げ方について、多くの企業の実態は、国内外の先進事例に学びながらの試行錯誤段階だが、日本の場合は、米国の例が参考になるだろう。米国では1980年代、女性社会進出・女性管理職の増加に加えて技術革新による産業構造の変化により、優秀な女性への需要が高まった。そこで企業は女性の採用・活用や子供の保育など主に働く母親を対象とした「ワーク・ファミリー・バランス」への取組を始めた。その具体的施策として、当初は保育に関する情報提供といった保育サポートが中心だったが、90年代に入ると独身や子供のいない女性、あるいは男性社員についての仕事と生活の調和に関するニーズに対応できないという問題に突き当たる。そこで企業は、介護への援助、企業内カウンセリング、授業料援助、ワーク・ライフ・セミナーなど、働く母親をケアするという狭い枠を越えて、従業員全体の私生活に配慮した制度やプログラムへの取組、つまり「ワークライフバランス」への取組を始めた。また、90年代初期の米国は不況の真只中でもあったため、企業は大がかりなリストラを行った結果、従業員の忠誠心が失われ、モラルは下がり、生産性と業績も落ち込む企業も目立った。リストラ後の残った社員のモラルと生産性を高めることも、「ワークライフバランス」への積極的な取組の原動力となっていた。

 以上の例を見ても、日本は先進例として米国に学ぶべきだろう。中でもフォード財団の研究は参考になる。同財団の研究のアプローチは、「どのように仕事のやり方を変えれば期待する効果が出せ、同時に私生活を充実させることができるか」を基本コンセプトにおいており、まずは、仕事の再設計から考えられている。フォード財団の研究チームは「ワークライフバランス」を有効に機能させるため、仕事の再設計をチーム、個人、管理職及び経営トップの全てが次の3段階のプログラムを実行していくことが必要だとしている。

(1) 仕事と理想的な社員像についての既存の価値観・規範を見直すこと
(2) 習慣的な仕事のやり方を見直すこと
(3) 仕事の効率と効果を向上させ、同時に仕事と私生活の共存をサポートすること

 この3段階のポイントは、意識や習慣を変えるという最も難しい課題を示している。つまり企業の価値観を変えていく事に他ならない。日本企業でこれを成功させるためにはトップマネジメントの強いリーダーシップと、粘り強い働きかけが絶対条件になる。

 「ワークライフバランス」の問題は、新しい日本の生活価値観の台頭による企業の戦略的対応を求められている。しかし、単にその対応策を思考するだけでは物足りない。優秀なヒトに長く活躍してもらうためには、「社員にとって幸せな生活の送り方とは何か」を根本から問い直し、「そのために、会社と社員の関係はどうあるべきか」、その基本となる考え方=基本思想を創りあげる必要がある。この基本思想がしっかりとしている企業にこそ、ヒトは関心を示すことだろう。
 私たち自身も、国まかせや企業頼みではなく、自ら最適な「ワークライフバランス」を考えなくてはならない。個々に考え行動する時代になったのだといえよう。

アーリーバード

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