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2007.09.05

『セールス』水面下の戦い-クレーマー対策あれこれ

 関根真一氏の「となりのクレーマー」中央公論新社版がベストセラーになっている。永らくの窓口第一線の経験から、クレーム対応の「コツ」「ツボ」を判りやすく描き、サラリーマンには生きた「教訓」と「手本」になるだろう。
 ただ注意しなければならないのは、この本に出てくるケースを「成功例」としていつでも通用する事として「鵜呑み」にしないことである。このクレーマー(イチャモンをつける問題者)に対しての対応を、担当者も顧客様相談室も最善とは思っていないはずであり、これで大成功だと誤認したら次は大失敗に終わる。
 もしこれらのケースを教材にして社員教育をしたとすると、「成功例」として「お手本」にする事になるだろう。しかし、残念ながら「成功例」は同一条件、同一状況、同一人物でないと成立しないことが多く、次に来るケースは全く異なった展開になることもある。実はケースは画一ではないのである。だからクレーマーに対する対策や対応は「失敗例」として捕らえた方が的確であり無難である。「失敗」は成功の「母」、それはあらゆる場面での変化に即応する「知恵」になる。
 「となりのクレーマー」に登場する販売担当者、窓口担当者、レジ担当者、顧客様相談スタッフなどの「当事者」も内心"冷や汗タラタラ"が正直な所だろう。

 クレームは「宝の山」と言われる。それはCS(顧客満足度)の追求が企業の「使命」であり、"顧客は常に満足することはない"、に由来している。サラリーマンが日常経験している「クレ―ム」を簡単に表現すると、 『対応が悪い』、『態度が悪い』、『聞きたいことを理解しようとしない』等にはじまり、日常生活では、『子供の躾が悪い』、『となりのテレビがうるさい』、『違う日にゴミを出すのは何とかしろ』等、石川五右衛門ではないが「世に苦情の種は尽きまじ」なのである。
 この体験が実は「人」への経験となり、「人」と「人の感情、情緒」を知るものであり、企業の商品開発を顧客視点から見直した時、それを「宝の山」としてとらえる事を可能にする。勿論、これらをプラスの出来事として自覚するか否かで、「宝」か「ゴミ」かの別れ道になる事は言うまでもない。

 ここで「クレームクレーマー」の理解を深める為に、「クレーム=問題案件」と「クレーマー=苦情提起者」を分けて考える。その理由は「クレーム=問題案件」は通常単一課題に纏められるからで、原因も責任の帰属(売り手買い手の何れか)も明瞭に出来るが、この「クレーム=問題案件」が同じでも、「クレーマー=苦情提起者」はその「人」によって苦情の程度や内容が違い、それぞれ対応方法は異なるからである。
 これは「クレーム」を対象として解決の手段方法や心得を「教材」としてクレーム対策マニュアルを作っても、「クレーマー」によっては大きく変り、役に立たないことが多いからである。「クレームは単一案件」、しかし「クレーマー」は人と立場と事情で千差万別であり、その「人」の「固有ケース」として理解し対処することが肝要である。「となりのクレーマー」もその事例として読むことが必要である。

 更に「クレームとクレーマー」を理解するのに役立つ論説がある。それはマーケティングのセオリーでいう、「理性消費」と「感性消費」である。
 「理性消費」とは品物を品質、機能、価格など、「良し悪し」で購入する購買を言う。この場合の品物は「生産材」が多く、クレームはメーカーや流通業に寄せられ、個人からよりは購入企業からのクレームが多い。また、クレームの理由は、品質、機能、価格、納期など、具体的で白黒がつき易く、クレーム処理も「個人」より「組織部門」で対応する特徴がある。
 これに対して「感性消費」は購買者が消費財のユーザー(生活者)であり、購買動機も「良し悪し」よりも,好き嫌いに偏る。クレームは小売業、サービス業に寄せられることが多く、生活者個々人の趣味、嗜好等の違いから、品物の評価、苦情も千差万別である。
 「となりのクレーマー」のケースも、パート、病院のクレーマーであった。顧客(クレーマー)が何故こんな事を言うのか、何故感情的になるのか、その深層心理を探り、分析し、理解した上で個々人に「即応」した対応をとる努力と苦心の軌跡が描かれている。要するに「クレーム」を単一案件として固定化し、その原因を究明し対策を立て、手順に従って処理することも重要だが、一方で「クレーム」は単一でも、苦情をつける「クレーマー」はその立場や気持ちでクレーム(苦情特に難癖)が異なり,予定外、想定外のその場対応が要求されることを理解しておく必要がある(クレーマーの数だけ異なったクレームが存在するのである)。

 「クレーマー」についての対策や対応の要訣を考えてみる。その「決め手」のキーワードは2つある。1つはif(もしも)、でもう1つは"ヒヤリ・ハット"である。

 ifとは、立場を変えて自分がもし「買い手」だったら?どうなるか、を考える事である。「買い手」の立場だったら見事に「クレーマー」に変身するかもしれない。自分が「クレーマー」に対して説明納得させようと必死になっている言葉が、立場をかえると白じらしい、空虚な響きに変る。納得出来なくなるのである。理由は買い手の立場では、品物に対する「期待」が大きく、興味と関心(宣伝文句とプレゼン)によって欲しくなって買った。しかし、当初の期待欲求とのギャップが、不満足感や不具合感としてハネ返ってくる。「クレーマー」を相手にする時には、マニュアル通りではなく、もしも"クレーマーの立場に立ったら、どう言うか、どう思うか、どうすれば納得できるかを考えることで、臨機応変に対応出来できるようになり、折衝が苦痛にならない。クレーム、クレーマー処理の要訣は「相手の立場」「相手の気持ち」に立つ事である。
 もう1つは"ヒヤリ・ハット"システムの応用がある。"ヒヤリ・ハット"システムは今や産業分野から公共分野にかけて、応用導入されている「事故防止」「予防保全」の管理手法である。元々はキャプテンレポートとして、航空機事故の防止の為の統計手法であった。簡単に説明すれば、取るに足らぬような「些細なミス」が、ある程度集積すると「中程度のアクシデント」が発生し、中程度のアクシデントが集積すると「大事故」が発生するという統計的事実により、些細な「ヒヤッとしこと」「ハッとしたこと」を忘れずに記録して大事故を未然に防止するシステムを「ヒヤリ・ハット」と名付けた。その後、航空業界から製造業にうつり「事故防止=予防保全」の管理手法として導入された。この手法をマーケッティングテクノロジーとして「クレーム発生予防」「クレーマー予防」に応用しようと言う訳である。要するに、商品や製品の販売にあたって、"大事にならなくてよかった"、"ホッとした"と言うようなことを最大洩らさず情報として「記録」する。ここで大事なことは記録することが目的ではない。分類し整理し、何故こんなこと(ヒヤッとした、ハッとした)が起ったのか、その原因を明確にして解決策をディスカッションすることで、「クレーマー」対策に活用する事ができるようになる。この「些細な事」の蓄積が、クレーマー対策の決め手になる。

 「となりのクレーマー」の強襲を受けて、社員は鍛えられることで、CSが向上し会社は存続する。「クレームとクレーマー」こそ、企業社員の「実地教育」のツールであることは間違いない。ただ、いくら教育し知識を与えても、それで「職務遂行」が出来るものではない。育成には実地経験が不可欠である。「失敗」を克服して成長は達成される。言い換えれば「顧客」=「クレーマー」に育てられるのである。彼らからの贈り物に感謝して、時間と頭脳の「授業料」を払おうではないか!

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