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2008.09.02

多発する集中豪雨、うまく付き合うにはどうすれば?

 先週、東海・関東地域を中心に記録的な集中豪雨に見舞われ、浸水や土砂災害によって多くの被害が発生し、行方不明者・死亡者まで出る結果となった。今夏は、大雨による急激な増水による死亡事故が相次ぎ、7月下旬には神戸市灘区の小学生が川遊び中に、8月上旬には東京都豊島区の下水道工事現場の作業員が被害に遭うなど、痛ましい災害が続いている。

 さて、今回のような甚大な被害をもたらす集中豪雨だが、今夏になって急激に増えたものではなく、ここ10年くらいの間で徐々に増加してきている現象で、いわゆる異常気象と言ってもいいだろう。アメダスのデータによれば、1970~80年代には、1時間あたり50mm以上の降水量が発生した回数が年間300回を超えたのは1回しかなく、200回を下回った年もあったのが、1998年~2004年では全て200回を上回っており、400回を超えた年が2回も発生している。また、この集中豪雨でやっかいなのは、非常に短時間の間に局所的に発生しているため、予測が困難という点にある。というのも、現在気象庁で行っている数値予報は100km圏内の大気の動きを予測して算出しているのに対して、集中豪雨が発生する範囲は10km圏内と小さいのだ。もちろん、解析をする範囲を狭めることでより確かな数値予測を出せるのだが、それには計算に時間がかかり、とても天気予報としては使えなくなってしまうのだという。

 このような背景もあってか、気象庁では平成22年度を目標に「突風等短時間予測情報(仮称)」と題して新たな技術開発を推進し、竜巻等激しい突風や雷、短時間強雨などの、局地的な大雨に関する予測技術の高度化を推進している。これによって、より確度の高い予報が伝えられることが期待できるだろう。しかし、予報技術は、あくまで「いつどこでどのような天気となるか」を知るための「道具」である。この「道具」を使って得られた結果が、浸水・土砂災害などへの対策や人々の避難行動などに活かされなければ、全く意味がない。技術の進歩は目覚しく、かつては予測しえなかった自然現象も、今後予測できるようになるのは間違いない。あとは、それをいかにして我々の生活基盤に落とし込み、具体的な防災活動に連動させるかである。というのも、今でも気象庁では集中豪雨に関する情報を、HP上や各テレビ局の気象情報の速報を通じて発信しているが、インターネットやテレビが手元にない人や屋外にいる人には伝わらず、また情報だけ伝えられても、どうしていいかが分からない、という人も多いからだ。
 是非とも、政府・自治体・交通機関など社会インフラに携わる関係各署が主体となって、最新の「道具」によって得られる情報を活かして、災害を未然に防ぐための仕組みを構築することを期待したい。これは、最近運用が開始された地震速報とも共通の課題だろう。

 ところで、ここ10年の間で増加した集中豪雨だが、残念ながら増加したメカニズムの全ては、未だ解明されていない。しかし、近年、原因の一つとして取りざたされているものに、都市部におけるヒートアイランド現象がある。ヒートアイランド現象とは、都市部において舗装道路や建造物による蓄熱の増加や冷暖房機器の排熱の増加などによって、気温が上昇する現象である。そもそも、集中豪雨を発生させるのは、夏の風物詩でもある積乱雲(入道雲)なのだが、この積乱雲は、気温が上昇し大気中に含まれる水蒸気が増えてくると発達し、その結果として強い雨を降らせることとなる。つまり、ヒートアイランド現象によって上昇した気温が大気中の水蒸気を増やし、積乱雲を発達させてしまい、集中豪雨を発生させる一因となっているというのである。集中豪雨が増加した全ての原因が解明されていないとは言え、過去数十年の変化を省みれば、ヒートアイランド現象が少なからず影響を与えている事は否めない。ヒートアイランド現象も、社会問題化してから大分経ち、オフィスビルなどの冷暖房・OA機器の効率化や屋上の緑化、また緑地の造営など対策が講じられているが、まだ改善には至っていない。既にコンクリートジャングルと化してしまった日本の都市部においては、ヒートアイランド現象の緩和は非常に困難な課題となってしまっている。

 だが、解決策は必ずあるはずだ。実は、ヒートアイランド現象の対策の1つとして、是非とも政府や自治体に参考にしてほしい非常に興味深い事例がある。それは、韓国・ソウル市にある清渓川(チョンゲチョン)の復元である。清渓川は、もともとソウル中心部を流れていたのだが、高度成長に伴い暗渠化されてしまった川だったものを、当時の李明博ソウル特別市市長(現韓国大統領)が、景観復活を訴え復元させたものだ。ところが、この清渓川の復元は景観改善だけでなく、当時深刻化していた大気汚染やヒートアイランド現象の対策としても期待されることが分かってきた。そして、2003年に始まった、清渓川の上を走っていた高速道路を撤去し清渓川を地上に復元させるという大規模プロジェクトは、わずか2年数ヶ月の間に終了し、2005年10月に全長2kmの清渓川が復元された。そして、実際に大気汚染は減少し、清渓川周辺の気温は、それを取り囲む周囲の気温よりも3℃下がったという。実は2004年の冬、短期間であるがソウルに滞在していたことがある。その時、工事中の清渓川に通りがかった際、韓国の方が自慢げに、そして期待感の表れかワクワクした様子で、私に教えてくれたのをよく覚えている。正直に言うと、その時は新しい観光名所が出来るのか、くらいにしか思わなかったのだが、まさかこのような環境面での効果があるとは思わなかった。
 東京にも、清渓川のように暗渠化された川は多い。高速道路を撤去し、暗渠化した川を復元する、というのはあまりに困難で非現実的かもしれないが、自然現象と対峙するとき、我々が生活する「まち」を作る視点から見直す、というのは非常に重要な視点である。

 過去10年の間で集中豪雨による被害が増える中、政府や自治体も決して無策でいたわけではないと思うが、まだ効果的で十分とは言えない。今後の取り組みとして、政府・自治体・交通機関などによって、確度の高い天気予報を可能とする新技術とそれを活用した新たな防災の仕組み作りや、自然現象とうまく対峙できる「まち」作りが積極的に推進されることを、是非期待したい。
 とは言え、新たな防災の仕組み作りやまち作りには、まだまだ時間がかかる。今から、集中豪雨のような自然災害の被害を、少しでも軽減するためには、まずは我々一人ひとりが、自然災害が発生した場合、自分の生活にどのような影響があるのかをよく理解しておく必要がある。その上で、自分の生活を守るために、自分自身で十分な備えをすることが何より重要だ。昨日は防災の日ということで、全国各地で様々な防災訓練が実施されている。そういった訓練の模様などを参考にししながら、自分の身の回りで起きうるあらゆる自然災害に目をむけ、できる備えはしておくに越した事はない。まさに、「備えあれば憂いなし」である。

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