2008.08.04
グリーンITの次に来るもの
エコ活動が盛んだ。テレビを見ていても、環境対策に係る内容のコマーシャルの数が非常に増えていることに気づくだろう。社会的に環境対策の必要性、重要性が認識され、日常生活に溶け込みつつあることが分かる。 一つは、地球規模で温暖化影響の表面化している事実を日々のニュースで実感せざるを得なくなったことだ。ヨーロッパの熱波被害、寒波・大雪被害、アジアの干ばつ被害や大雨・洪水被害、北米のハリケーン被害など、異常気象のニュースを目にする機会がここ数年、非常に高まっている。 次に、環境技術の開発が進み、従来のような「昔の生活に戻らなければならないもの」ではなくなってきたことが挙げられる。ハイブリッッド自動車などがその典型だ。他にも、日常生活の便利さ・快適さを阻害しない省エネ活動を可能にする製品が幅広い業種で実現している。まだまだ価格面で課題のあるものも多いが、近い将来、それらの課題も克服されていくだろう。 三つ目に、原油・資源価格が上昇傾向にある中で、エコバッグ持参の優遇措置や省エネ活動で電力消費量を抑えることによる、家計への経済的効果を訴求する企業や自治体などのプロモーションが功を奏したといえる。 そして今、経済発展・技術発達の代名詞でもある情報技術の分野でも、省エネ対策、環境対策の必要性が謳われ、実際に技術的な対応が始まっている。日本においては、2007年10月に経済産業省がグリーンITの取り組みに本腰を入れることを宣言し、にわかに「グリーンIT」という言葉に注目が集まっている。 一方で、グリーンITの大きな課題として主に2つの課題が挙げられる。 一点目は、コストの問題だ。情報機器そのものの省エネ化を実現するために、メーカーは従来の製品を刷新していくことが必要となり、その開発費用の投資負担は重い。経済産業省では、こうした費用負担に対して、インセンティブ導入を検討するという。 もう一つ、重要な課題として考えられるのが、セキュリティ対策の問題だ。例えば、仮想化技術を用いたサーバー集積はデータセンターにおけるグリーンITの有効な方法論と目されている。しかし、サーバーを共有した場合、そのセキュリティ境界は独自のサーバーを立てる場合よりも他のシステムとの接点が多くなり、より高度なセキュリティ対策が必要となる。また、テレビ会議やITS、その他の情報技術を活用して日常生活や企業活動の省エネルギー化を図るということは、社会全体の情報技術依存を高めることにつながるため、その機能が損なわれたとき、企業や都市の経済活動がすべて機能停止してしまう危険性を孕んでいる。災害時の停電対策やウィルス対策、その他のさまざまな対策を講じて不慮の事態による経済活動の麻痺を回避するように組み立てなければならない。 従って、近い将来グリーンITは、その機能の中に高度なセキュリティ機能を組み込んでいく必要性に迫られるだろう。ITの環境技術と併せて、システムの利便性と環境への配慮を損なわないセキュリティ技術の発展を期待し、グリーンITとセキュリティが融合した、本当の意味でのグリーンITの実現を待ちわびる。 馥郁梅香
近年、経済発展・技術発達の代償として、地球規模での環境変化が表面化してきた。地球温暖化現象に係る影響だけでも、海面上昇による水害の多発、異常気象、農業・漁業の収穫量減少、ウィルスの活性化やウィルスを媒介する蚊などの害虫の発生による感染症の増加、熱中症の増加等の健康被害など、多くの影響事象が予測されており、またその予兆ともいえる現象が既に地球各地で起こっている。
その中で、当初、エコ活動は便利な生活、快適な生活を送ることの対局にあるイメージを強く持たれていた。経済発展・技術発達の行き過ぎを否定し、より自然に近い生活を送ることが「エコ」なのだという感覚が強く、エアコンディショナーや自動車のような交通手段が普及していなかった時代を引き合いに出し、「必要性は分かるけど、実際にやるのは非現実的」と考える人が大半であった。しかし、いくつかの要因により、近年その意識は大きく変化してきている。
上述のような要因を受けて、アメリカ、日本、ヨーロッパを中心に環境対策は日常生活レベルまで浸透しつつある。
グリーンITには大きく2つの考え方がある。”Green of IT”(情報機器そのものの省エネ化)、と”Green by IT”(情報機器、情報技術を利用した省エネ化)だ。
情報機器そのものの省エネ化の面では、サーバーやネットワーク機器などの情報機器の電力消費や発熱量を減らす、といった対応が挙げられる。発熱量の低減とは、データセンターなどにおける大規模な空調管理を通じた電力消費の低減を図るものである。情報機器・情報技術は、現代社会においてIT業界のみならず産業全体に広く普及した社会のインフラストラクチャーとしての地位を確立しており、その電力消費量は膨大な数字となる。これらの機器のグリーン化が広く図られれば、消費電力削減に対する影響は非常に大きいものとなるであろう。
また、情報機器・情報技術を利用した省エネ化については、情報機器そのものの省エネ化以上に高い期待が寄せられている。テレビ会議を行うことで地域間移動量を削減する、仮想化技術によってサーバーを集積し情報機器の数を削減する、ITS(高度道路交通システム)の促進による渋滞回避で自動車の排出ガスを削減する、など、情報技術の活用手段は多方面に及ぶ。
経済産業省の試算では、グリーンITの推進により、2025年時点でおよそ5900億kWhの削減が可能になり、削減量は日本の全エネルギー消費量の10%にあたるという。グリーンITは今後の地球温暖化対策の重要な担い手なのだ。
一方で、ユーザー企業や家庭においては、省エネ技術を装備した機器へ買い換え負担が生じる。それらの費用負担もまた、グリーンITの普及に向けた大きなボトルネックとなる。これについては、その対象範囲も情報機器の数も膨大になるので、国や企業が支援・費用負担することで機器の入替えを促進するのではなく、長期的なスパンでの情報機器の入替えによる緩やかな普及を図っていけば良い。
元々、情報セキュリティ対策は、エコ活動に似た性格を持っている。IDカード認証による入退室の管理、外部記憶媒体へのデータ出力の禁止、暗号化など、セキュリティ上の重要性は認識されているものの、ある程度、情報技術利用に伴う利便性を犠牲にすることで確立していくもの、という認識をされることが多い。セキュリティ関連の技術が発達し、利便性を損なわないセキュリティ機能を持つ製品も増えてきているが、まだまだ技術的発展の余地は大きいものであろう。
筆者自身は、高度なセキュリティ技術とは情報技術活用の利便性を損なうものではなく、むしろ高めるものであるべきと考えている。少なくとも安全性と利便性を両立できなければ、エコ活動のように社会全体への普及を実現する前に、実生活の壁に阻まれることになる。高度な情報セキュリティ技術を取り入れることで、システムそのものの利便性を損なうことなく、企業の経済活動をより安全に、永続的に支えるインフラストラクチャーとしての役割が今後求められるようになるはずだ。その意味において、セキュリティとエコロジーは同一のベクトルを持っていると言える。