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2008.07.28

プロ野球とJリーグ 変革の序章 ~新リーダーの就任に際して~

 今年の夏に、メジャースポーツ団体のトップに二人の新たな人材が就任した。一人は加藤良三氏(日本プロフェッショナル野球組織コミッショナー:以下コミッショナー)であり、もう一人は犬飼基昭氏(日本サッカー協会会長)である。コミッショナーはプロ野球を運営する社団法人日本野球機構の理事長及び会長を務め、また、社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)は日本サッカー協会(以下JFA)の下位組織にあたる。そのため、今回新たに就任した加藤・犬飼両氏は、実質的に日本のプロ野球・Jリーグの新たなリーダーだとも言える。

 プロ野球・Jリーグはともに人気を集める日本のプロスポーツ競技だが、ともに今、転換期を迎えている。 プロ野球は、全国区の人気を誇る球団=プロ野球と言えるほど、「人気球団の繁栄があればプロ野球が繁栄する」という前提が成り立つ時期が長い間続いていた。しかし近年の、地域アイデンティティの萌芽と確立、価値観の多様化など、様々な影響によりその前提が覆った。それは全国区の人気を誇っていた球団のテレビ視聴率の低下を見れば明らかであろう。また、その視聴率を性別・年代別に見てみると、50代以上の男性による視聴が大半を占めるなど、プロ野球の裾野は確実に狭まってきている。プロスポーツの観点でこの事象を捉えると、「プロ野球は新たな顧客層を開拓し、裾野の拡大をしなければならない時期に来ている」と言える。
 一方のJリーグは、設立当初から単一クラブの繁栄を是としてこなかったが、現状では一部のビッククラブと呼ばれる収益・実力で飛びぬけているクラブと、周辺を支える予算規模が不安定で実力も中位以下のクラブとの格差は大きくなっている。このような格差の存在は一概には悪いとは言えないが、全クラブが収益を適切に確保する仕組みが整備しきれていない現状では、富める者はますます富み、そうでないものはますます窮することになる。それではJリーグの存続自体が危ぶまれてしまう。このような格差の遠因としては、ビジネスとしてサッカーが成り立つほどJリーグに興味のある人口の裾野が広がっていないことがあげられる。小さなパイをJリーグ33クラブで奪い合うため、存続の危機に立たされるクラブが出てきてしまうのであり、現状のJリーグの市場の大きさは、33クラブでは多すぎるのかもしれない。プロ野球と同様に、新たな顧客層の開拓による裾野の拡大の必要に迫られている。
 新たなリーダーのもとで大きな変化を迎えるであろうプロ野球・Jリーグであるが、両者の特徴を整理し、今回はプロ野球に限定して将来の展望を述べたい。

①国内の競技団体構成と連携
◆プロ野球
 ・プロ・アマ間の連携が取れておらず、選手・指導者を含めて人的リソースが分散し、有効に活用できていない。
◆Jリーグ
 ・JFAを頂点とするピラミッド体制が構築されており、選手や指導者の育成が競技団体の垣根を越えて系統立てて行われている。

②プロスポーツチームの運営
◆プロ野球
 ・親会社の一事業部、一子会社として運営されてきた過去があり、球団としての自立性が養われてこなかった。
◆Jリーグ
 ・クラブはその地域の資産・公共財という理念のもとにクラブ運営を行っているが、資金や設備の確保に苦労するクラブが多く存在する。

③世界における競技の位置づけ
◆プロ野球(野球)
 ・2012年のロンドンオリンピックからの正式種目から外れるなど、人気は北中米・東アジアに偏り、世界への普及が上手くいっていない。
◆Jリーグ(サッカー)
 ・サッカー最大の国際大会であるFIFAワールドカップは大会ごとのテレビの総視聴者数ではオリンピックを上回っており、世界最大のスポーツイベントと言えるほど世界中で人気を得ている。

 このような状況の中で、新コミッショナーはどのような改革を断行し、野球の裾野を広げていくべきなのか?
 プロ野球は、第一に国内の体制・態勢を一つに集約することから始めるべきである。野球という同じスポーツを行っていながら各競技団体が連携を取らずに活動していたのでは、「野球」というコンテンツをアピールすることが非常に難しい。プロ野球には興味の無い高校野球ファン・大学野球ファンというものが多数存在しているのが現状である。まずは野球に興味がある人々をプロ野球に惹き込むことが即効性のある対応であり、そのためにはプロとアマの交流・一体化は欠かせない。ここは、プロ・アマの断絶の切掛けを作ってしまったプロ野球側のトップであるコミッショナーが尽力し、その垣根を取り払うために積極的な活動を起こすべきである。
 そして二つ目に、一刻も早く球団を親会社から独立させ、地域の公共財として成立させるべきである。親会社の広報機関としてプロ野球を位置付ける考えは、もはや市場から受け入れられていない。地方に本拠地を移し、そこで新たな市場・顧客を開拓した球団は、軒並み親会社色を薄くして地域色を打ち出し、ビジネスとしての成功を納めている。Jリーグが発信した「プロスポーツチームは地域の公共財」という考えが、プロ野球でも定着してきているのだ。そのためには、まず球団を親会社から独立させ、地域に根差した自立的な球団運営を行うことが必要になる。これは米国メジャーリーグの球団運営方法でもある。権力を持つ親会社の経営陣を説き伏せるのは相当のハードネゴシエーションに違いない。また現状のコミッショナーの権限では、このことをすぐに実現することは難しい。ただし、粘り強くこの考えを発信し続け、変革の機会を模索することがコミッショナーの当面の役割になる。
 そして最後は、海外市場に積極果敢に進出することである。日本のプロ野球のレベルは、2006年のWBC優勝でもわかるように、世界でもトップクラスであると言える。このことは、日本のプロ野球は「野球」というコンテンツでは世界でも有数の優良コンテンツであるということを意味している。仮に野球に興味を持ち、映像やグッズを求める人口が増えれば、それだけプロ野球が収益を上げる機会が増えることになり、結果として各球団の収益基盤が安定することに繋がる。現状、野球は北中米と東アジア以外ではそれほどメジャーなスポーツとは言えない。そのため、海外進出の足掛かりとして、すでに野球というスポーツが定着している東アジア地域を足掛かりとし、野球を普及させていくべきである。野球を普及することの障害には、多くの用具を必要とすることや、指導する人材不足があげられる。そのために、日本で利用した用具や、指導ノウハウを持った人材を派遣することで、少しずつであるが野球を浸透させることができるのではないか。すでに人材の派遣という点では、元プロ野球選手の江本孟紀氏がタイのナショナルチームの総監督を務めるなど、実績もある。あるいはサッカーの参考にできる考えを取り入れ、各国のリーグチャンピオン同士が戦うリーグを設けてもよいかもしれない。新コミッショナーは元外交官であり、外国との折衝のプロフェッショナルである。ぜひその知見・経験や、米国大統領と野球談議を交わせるほどの人脈を活かして海外にプロ野球の面白さを伝えてもらいたい。

 変革を実際に行うためには多くの困難を伴うが、加藤新コミッショナー、そして犬飼新会長の強烈なリーダーシップに期待し、注目したい。
 

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