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2008.07.18

今こそ問われる、“政策プロフェッショナル”の存在意義

 今年の4月1日に、多くの国民にとって関心の高い二つの出来事があったことを覚えているだろうか?そう、「暫定税率期限切れによるガソリン税の値下げ」と「後期高齢者医療制度スタート」である。ここ数ヶ月間多くのメディアがこの二つのトピックを取り上げ、目にする機会が多かったことだろう。一度適用期限切れとなった暫定税率は5月に復活し、さらに昨今の世界的な石油価格高騰の煽りからガソリン価格上昇が続き、消費者の家計を苦しめている。また、後期高齢者医療制度については多くの批判を受け制度の改善が求められる一方で、野党合同で参議院に提出された「後期高齢者医療制度廃止法案」が先月可決された。法案は衆議院に送られたが、法案成立の目処は立っていないという状況である。

 現在、私は日常生活で自動車や石油ストーブなどを使用していないことからガソリン税を直接的に払っておらず、また75歳以上の親族はいるが私自身は後期高齢者医療制度の対象者ではないため、この二つのトピックに関して最初は傍観者として政局やメディアの報道を見ていた。しかし、この問題について考えているうちに強く関心を持つようになった。それは、自身がいつかその制度の対象者となることを想像したからではなく、国のあらゆる法制度や公共政策が同じようなプロセスを経て立案・執行されることに危機感を覚えたからである。その危機感とは、「ステークホルダー全体の受益を十分に検討することなく、一定の利害関係者の利益のみが考慮された結果、国民が望まない政策が立案・執行されてしまう」ことである。これを「政策形成過程における利害関係者の問題」として捉えてみたい。

 暫定税率問題はいわゆる「道路特定財源制度」に基づいた議論だが、制度自体は1953年に制定された。「ガソリン税」は正式には「揮発油税及び地方道路税」と呼ばれ、戦後間もない時代に道路インフラを早急に整備する必要があったことから、この二つの税に対して特別な税率が設定された背景がある。しかし、時代が変わり、未整備な地域は残存するものの日本全国的には整備されている状況と言えよう。しかし、道路のための特定財源は依然として増加傾向にあり、その必要性は十分に検討されているのだろうか?と疑問が生じる。一方、後期高齢者医療制度は2006年に小泉内閣の医療制度改革の一環として法案が提出され、同年に成立した。高齢社会の到来による財政負担の増加に対応するため、その対応策の一環として制定されたという背景がある。しかし、これもなぜ75歳以上に限定したのか?対象者の保険料負担のシミュレーションを十分に行ったか?現代の高齢者事情を十分に調査・分析したか?という疑問が湧いてくる。二つの制度に関して、確かに最初は十分に議論されたかもしれないが、政策を法案として作成していく過程で多くの人間に揉まれることによって結果的に玉虫色の法案として可決されてしまったと想定される。一部の利害関係者が享受できる利益のみを考慮するにとどまり、十分に検討された結果の政策論議とは思えない。では、なぜこのような中途半端な政策ばかりがつくられてしまうのだろうか。

 それは、政策形成過程の中で一定の利害関係者を中心として政策が立案され、執行されるからだと考える。日本の制度上、国の立法機関は国会であり国会を構成する国会議員が政策を法案として作成することになる。しかし現実的には官僚が政策形成の過程に積極的に関わっている。これは、官僚機構が「日本最大のシンクタンク」と呼ばれるほどその政策領域において最もナレッジを蓄積おり、優秀な人材も集まっているため、政治家が官僚に依存して政策立案を行ってきたからである。また、政策立案フェーズにはその政策に関連する利益集団が大きく関与することも理由として挙げられる。日本における利益集団は、私企業、経済団体、各産業の業界団体、労働団体、農業団体、専門職業団体などで、彼らはメンバー数や資金その他の資源の提供、団結力、社会的地位、政策形成に関する意思決定への関与度など、政策形成に対する様々な影響力の要素を持ち合わせている。さらに、本来の立法機能である国会やその中の与党は政策の最終決定権者として存在している。この「官僚」「利益集団」「国会・与党」の三者の関係は強い互恵関係で結ばれており、また他の二者が成功することを必要とした共生的関係でもある。実はこの三者が強力な関係を築いている状態では国の政府の政策選択機能が弱まり、政策領域ごとに細分化された政府の各部分の決定を是認するだけの機関になってしまう。各政策領域は独立したものとして統治され、合法性が広く国民全体が享受できる公共的利益のためではなく、個別的ないし集団的利益の増進のために利用されてしまうのである。道路特定財源保持のために、特定財源を全部使い切る規模の「道路整備計画案」を提出した国土交通省とそれに支持する建設業関連団体、そして法案として成立させるために国会内で暗躍する与党の道路族議員の三者の関係は、三角関係の最たる例である。

 では、どうすれば公共的利益のための政策が実現できるのか。それは「政策形成過程に、いかなる利益も享受しない“”政策プロフェッショナル“を参画させること」であると私は考える。この”政策プロフェッショナル“とは、ある政策領域における外部の専門家であり、国民にとって望ましい政策を立案し、実現し、評価するところまでをコミットする立場である。政策の立案主体が「政治家」であり執行主体が「官僚」であることに変わりはないが、ある特定の利害に絡む立場ではなく、政策の立案から執行、評価まで終始中立的な立場で政策の在り方を問い続けるのである。

 もちろん、これまでも“政策プロフェッショナル”に近い立場の外部の専門家が政策形成に携わるケースはあった。シンクタンクやコンサルティングファーム、大学・大学院などの教育機関などがそれである。しかし、その主たる役割は政策の「研究と立案の助言、及び評価」であって、その参画レベルは低いと言える。これらの専門家集団は政策に対して何の利害関係を持たない立場だからこそ、外部の中立的な専門家として政策形成に深く関わっていくことが望まれる。だからといって先述の三者の存在を否定するわけではない。政策立案に関わるステークホルダーとして欠かせない存在であることには間違いない。しかし、問題は自己の利益に誘導されたまま政策立案主体として関わり続けてしまうことにある。個別的な政策形成に向かいがちな状況を打破するために、政策を網羅的に分析できる“政策プロフェッショナル”が必要である。

 ただし、“政策プロフェッショナル”を実現させるために、いくつかの条件が必要と考える。一つは、“政策プロフェッショナル”自身が政策の実現にコミットし、政策の立案と執行に深く関与する機能を持つことである。この場合、先の外部専門機関に政策の「研究・助言・評価」という機能に「立案と執行」機能が付加される。「政策の執行」については、実際の執行主体は官僚機構であるが「執行サポート」という位置づけで立案時の理念や作成ルールにズレが生じないように確認し、必要に応じて改善提案をしていく。二つ目は、あらゆるステークホルダーと良好な関係を築きつつ、より良い政策の実現に向けて意見と利害を調整する機能を持つことである。三つ目は、国民の視点を持つことである。受益者である国民に政策による利益が享受されているか政策の理念・目的に常に立ち返り、より良い政策の在り方を政策執行時も模索し続けるのである。

 ところが、“政策プロフェッショナル”が政策形成過程への参画に関していくつかの問題が存在する。それは、政策プロフェッショナルの受け入れ体制や参画による実現効果、政策プロフェッショナル自身の活動や組織化した場合の組織運営の持続性、などである。これらの問題の解決方法については現状模索中であるが、一例として「NPO法人による運営」がある。例えば、「構想日本」というNPO法人は、大学教授や企業経営者、研究員などの有志が集まり、クライアントである官公庁からのフィーではなく、出資金を公募して運営している政策シンクタンクである。彼らは、政策を提言するだけでなく実際の政策立案にも参画している。代表的な政策への参画事例として、「事業仕分け」という自治体行政のスリム化・効率化政策を実施してきた。現在、次フェーズとして中央省庁の事業仕分けを議論し始めている。構想日本は、政策の実現に向けた「理念追求型」の政策プロフェッショナル集団であり、政策形成過程への参画事例として参考になるだろう。

 元来のプロフェッショナル集団である官僚機構と利益集団が公共的利益を意識して政策形成へ関与することや、政治家が高度な知識を身につけ、役人主導の政治から政治家主導の政治に変わっていくことも期待するが、理性的で民主的な政策形成を実行するために“政策プロフェッショナル”を政策形成の一つの機能として盛り込むことが有効な手段の一つであると考える。

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