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2025.01.20

人はなぜ、人に教えることで成長するのか

 つい先日、2歳になる息子の成長を肌で感じた瞬間があった。走り回り、飛び跳ね、少しずつ会話もできるようになってきた息子は今、いたずら盛りである。TVは叩く、冷蔵庫は開ける、引き出しから洋服を引っ張り出すなど、何度注意をしても、親の反応を見て楽しむように繰り返す。それらのいたずらが成長の一環であることは分かりながらも、毎日のことだと、親としてもついついイラっとくることもある。

 それがここ最近、パタリと収まるようになった。妻がおさるのジョージの人形を友達に見立てて、息子に対してある質問をしてみたのだ。「TVは叩いていい?」「冷蔵庫は開けても大丈夫?」「引き出しから洋服を出しても平気?」と息子に問いかけると、「ノーノーノー(ダメ)てれび、だーん(壊れる)」「れいぞうこ、とうちゃん、ノーノーノー(お父さんに怒られるよ)」「ふく(洋服出したら)だーめ」とおさるのジョージに教え始めた。その日を境に、息子にとって“教える”という行為が一種の遊びになったようで、ことあるごとに私達から注意されていたいたずらを、おさるのジョージに「これはやってはだめだよ」と教えるようになった。そして、おさるのジョージに教えているいたずら行動を、息子自身がやらなくなったのだ。

 私自身が最近、仕事上で後輩に教えることで、曖昧だった知識が再整理され、点と点が線になる経験をしたばかりであったこともあり、この息子の姿に妙に感銘を受けた。今、この拙文を読んで頂いている皆さんも、いろいろな場面で“人に教える”ことが成長につながった、学びを得たという経験を持たれている方は多いではないだろうか。今回はそんな「人はなぜ、人に教えることで成長するのか」という問いについて考えてみたい。ご自身の経験とも照らし合わせて読み進めて頂ければ幸いである。

 

<人に教えることで人が成長する5つの要素>

➀言語化・体系化

 一般に「天才は教え下手」などとよく言われることがあるが、人に知識やスキルを伝える際に、“頭の中でなんとなく理解している”、“身体の感覚でできる”だけでは、他者に伝えることは難しい。自分自身がそれらを十分に理解していることが求められる。さらに、相手にわかりやすく説明するためには、言語化して論理的な構造を作ったり、具体例を挙げたりする必要がある。この過程で、自分の理解が曖昧な部分や欠けている部分に気づき、それを補完しようとする。このように、人に教えるという行為は、自分の知識を振り返り、整理するプロセスを自然と促す。

 

➁新しい発見

 教える場面では相手からの質問や反応を受けとることが多い。これらのやり取りが、教える側に新たな視点をもたらす。相手の疑問に答えようとする中で、自分では想定していなかった切り口に気づき、思考をさらに発展させることができる。特に、相手の視点が自身の視点と異なる場合や、教えようとしている内容に対する異なる解釈や疑問を投げかけられた際には、自分の考えを改めて見直し、新たな発見を得られる。このような相互作用は、1人で学ぶよりも、はるかに深い学びを可能にする。

 

➂記憶の定着

 先の「➀言語化・体系化」で述べたように、人に教えるという行為は情報を能動的に整理し、自分のものとして理解を促すものである。そのため、アウトプットを前提とした学習(教える・伝える)は、受動的なインプット(読む・聴く)に比べて記憶の保持において大きな差があると良く言われている。さらに、一度自身の中で言語化され、整理された知識・スキルは自身の中にマニュアルが出来上がっているようなものなので、繰り返し他の人に教えることが可能である。この「“教える”という行為の反復」が更なる記憶の定着を促す。

 

④自信の形成

 教えることは、自信の形成にもつながる。教える経験を通じて、「自分はこれを理解し、他者に伝えられる」という実感が得られると、それが自己肯定感を高める。この自己肯定感が、次の学びや挑戦に向かうモチベーションを高める原動力となる。さらに、教えた相手が実際に成果をあげること、教えた相手から感謝の言葉をかけてもらうこと、周囲からの賞賛を受けることは、教える側の達成感にもつながる。または、組織的・社会的貢献の実感を得られる機会にもなるだろう。こうしたポジティブなフィードバックループがさらに成長を加速させる。

 

⑤挑戦のきっかけ

 一方で、教えることには挑戦も伴う。教える対象や内容によっては、予期せぬ困難や課題が生じることもある。例えば、教える相手からの難しい質問に答えるために、新たな知識を探求したり、足らないスキルを補うために、新しい環境に飛び込んだりすることなどが挙げられる。また、「人に教えたからには自分もやらねばならぬ」といった、自分自身が模範となり行動を示す必要性や、教えた手前それをやり遂げなければならないというプライドが、これらの挑戦に立ち向かう原動力となることもある。先の息子の件は。この要素が強く働いているのかもしれない。この過程で困難を克服した経験が、強固な自信の形成にもつながる。

 

 以上が、自分の経験にも照らし合わせてまとめた<人に教えることで人が成長する5つの要素>である。近年、教育業界ではこの“人に教える”という行為を含む「アクティブラーニング」という学習方法が注目されている。アクティブラーニングとは、従来、日本の学校で行われてきた、“先生による一方向的な講義形式の学習”とは異なり、生徒が主体性を持って能動的に講義へ参加する教育手法を総じて言う。この領域において、アメリカ国立訓練研究所の研究結果である「ラーニングピラミッド」といわれる研究結果が興味深いものなので最後にご紹介したい。「ラーニングピラミッド」とは、以下の図のように学習方法ごとの知識の定着率を表したものである。

 

 先に示したような、生徒が受動的となる「講義」という学習方法は一番低い定着率(5%)であるのに対し、「他の人に教える」という学習方法は一番高い定着率(90%)を示している。この研究から示唆として受け取れるのは、他の人に教えようと能動的(≒積極的)に学習することは、学習の定着率をあげる可能性が高いということだ。“人に教える”という方法は、もちろん子供だけでなく全ての年齢層に有効である。老若男女問わず、その機会を自己成長のチャンスとして捉えることが重要だ。また、日頃、学習をする際には“人に教える”ことを前提に、学びを進めておくことが成長の大きな糧となるのだろう。 

 「育児は人生の学びなおし」と言われることがある。恥ずかしながら、息子に教えている自分がどれだけのことができているのであろうかと、ふと思うことがある。「出したものは片付けようね」「信号は守ろうね」「約束は守ろうね」。まさに“人に教えたからには自分もやらねばならぬ”だ。育児こそ人に教えるという絶好の学びの機会なのかもしれない。

 

おおたか

 

<参考文献>

1「他の学習者に教えることによる学習はなぜ効果的なのか? -5つの仮説とそれらの批判的検討-」静岡大学 小林敬一 著

2「The Learning  Pyrramid.」 アメリカ国立訓練研究所(National Training Laboratories)

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