PMI Consulting Co.,ltd.
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2023.01.10

エンプロイージャーニー

 新年あけましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いいたします。

 

 年の変わり目というものは、慣習というのか文化というのか、なぜかはうまく説明できないものの、人生という長い旅における一つの節目のように感じられる。年末年始のタイミングでゆっくり自分を振り返って、新たな年の抱負を考えたりする方も多いのではないだろうか。

 

 旅という言葉にかけて、私はエンプロイージャーニーという言葉について考えてみた。CS=カスタマーサティスファクションという言葉に対応してES=エンプロイーサティスファクションという言葉があるように、マーケティング領域で有名なカスタマージャーニーという考え方に対応してエンプロイージャーニーという言葉も実際に存在する。人的資本経営の重要性が問われる昨今において、この概念は今後重要になってくるかもと、おせちを食べながらぼーっと思考を巡らせていたので、そのことを本稿に記しておきたいと筆をとった次第である。

 

 一般的に「エンプロイージャーニーとは、従業員一人ひとりが入社から退職までに経験する一連の体験のこと」とでてきて、エンプロイーエクスペリエンス(従業員体験価値:EX)をどのようにデザインしていくかの意味合いで使われることが多いようだ。新たなる分散時代(※補足後述)においては、組織の経営能力を高めるためには従業員一人一人の多様な価値観をうまく統合しながら社会への価値に転化していくことが求められ、そのような中でEXが重要視されてくるというのは当然の流れともいえ、エンプロイージャーニーというキーワードもHRMの文脈(採用、育成、配置転換等)で出てくることが多い。

 

 ところで、顧客に対して展開するマーケティング施策を振り返る際にカスタマージャーニーという考え方を取り入れるように、エンプロイージャーニーという考え方もまたHRMの文脈以外でも、従業員に対して全社で展開している社内施策を振り返る観点として有用ではないだろうか。

 

 では、カスタマージャーニーをデザインする上で重要な視点であり、エンプロイージャーニーにも応用できそうな視点は何だろうかを考えてみたい。

 “アフターデジタル”の著者として有名な藤井保文氏が新著“ジャーニーシフト”の中で、顧客への提供価値が、「モノや情報の提供」「瞬間的な道具としての価値」からありたい成功状態を実現し、行動を可能にさせる「行動支援」に変わっている、と述べており、それを実現するうえで「利便性」と「意味性」のバランスというのがカスタマージャーニーを創り出す上で重要な視点であると述べている。この「利便性」と「意味性」のバランスというのが、エンプロイージャーニーにも応用できるのではないかと考える。

 「利便性」というのは、不便をどれだけ便利にできるかで評価する考え方でありその指標も合理的で分かりやすく、競争になりやすい一方、「意味性」というのは、好みや自分らしさで評価する考え方であり、共通の指標はなく独自性が求められる視点である。例えば時計でいえば、時刻を正確に刻み続ける、壊れにくいといった誰もがわかる機能面での価値を求めるのが「利便性」の追求であり、デザインが気に入っている、むしろ壊れやすい方が愛着がわくといった個人の価値観による価値を求めるのが「意味性」の追求である。モノのたりない不便な時代は「利便性」の追求が一つの成長のベクトルであったが、徐々に社会が成熟するにつれて「利便性」から「意味性」の追求にシフトしていく。そして、今の時代はその両立が求められている、というのはマーケティング領域の専門家であればよく理解していることであるし、使い古された考え方であろう。それ自体は目新しいものではないが、同著の中で語られていた「利便性は共有され、意味性は所有される」という考え方はエンプロイージャーニーにも応用できる重要な考え方であると思う。どういうことかというと、同著の中では以下のように記述されている。(カッコ内は筆者補記)

 

 (利便性は)なるべくオープンで、なるべく多くの人を巻き込み、共有・協力・連携できることで価値をどんどん大きくしていきます。これに対し、意味性は真逆で、所有や優遇など特別感を抱く方向に進むことで価値をどんどん大きくしていく性質を持っています。

 

 上記を受けて、Web3.0の時代においては、サービスを提供するうえでこのオープンな利便性とクローズドな意味性を両立してデザインしていくことが大事、というのが同著で語られていることの一部だが、これはエンプロイージャーニーという文脈において、本社が全社展開している従業員向けの施策などを検証するときにもヒントになる観点ではないだろうか。

 

 具体的な事例で少し考えてみたい。例えば、本社部門が主体となって各支店各支社の現場の成功事例などを集約し、組織ナレッジとして活用してもらえるよう全社展開しているがなかなか現場で活用されない、ということがよくある。こういった場合、どこにいけば参照できるかわからない、参照しても自分のケースに落とし込めないなどが原因として挙げられ、どうしたら使いやすくできるかの「利便性」の視点で苦悩し模索している担当者も多いのではないかと思う。しかし、そもそも従業員が活用する/したいと思うマインドが醸成されていない、ということが根本原因にあるケースも多い。ここで、先に述べたエンプロイージャーニーという視点、「利便性」と「意味性」のバランスという視点で振り返ると、より良い施策の新たな方向性が見えてくる。つまり、従業員にとってのアクセスしやすさや使いやすさというのはあくまで「利便性」の観点であり、それも活用を進める上では大事だが、もう一つ「意味性」を助長する施策、もっといえば従業員一人ひとりが“所有する”感覚というのを加えていけると活用が進むのではないだろうか。

 

 例えば、ナレッジそのものは生み出した現場社員本人が“所有する”財産であると捉え、活用されたポイントが本人に蓄積され評価される仕組みを作り、活用する際は本人にWeb上などでアクセスしやすく直接コンタクトしやすい仕組みを作る(例:社内イントラの中で投稿されている内容からワンクリックでチャット的にメッセージが飛ばせ、直接本人に質問できる)などが考えられる。そうすれば、活用されればされるほど全社的にその財産価値の評価が高まり、自分の処遇や社内での存在価値を高めることになるし、いろいろな社員からコミュニケーションを求められる中で会社の成長に貢献する実感が従来より強く持てるようになる。また、ナレッジを生み出していない従業員もそうなりたいために自ら会社に残るナレッジを生み出そうとする方向にドライブがかかるかもしれない。ナレッジを生み出した従業員も活用した従業員もこれから生み出そうとする従業員も、この仕組みがあることで日々の業務活動がしっかりと蓄積されて、なおかつ意味づけされる機会が得られるようになり、すべてのエンプロイージャーニーが豊かになる、というデザインができればより良い施策になっていくのではないだろうか。

 

 振り返ると、企業が全社展開する施策について、エンプロイージャーニーを豊かにする観点で見直すことができるのではないか、その上では共有される「利便性」と所有される「意味性」のバランスをうまくデザインするとよいのではないか、ということを本稿のメッセージとしてここまで述べてきた。

最後にはなるが、所属する従業員はもちろん従業員の家族や周りの人間も含めて幸福にするような経営を実現する会社がこれから成長し生き残っていく会社になっていってほしいという期待を込めて筆をおくことにする。

 

※新たなる分散時代とは、高度経済成長期の変化の少ない安定成長時代は現場の力を強く機能を分散させた現場最適なボトムアップ経営(分散)が主流であったが、バブルが崩壊し劇的な改革が求められる中でトップダウン経営に統合されてきた(統合)。それが昨今はVUCA時代に入り変化に素早く対応できる組織経営が重要となってまた現場の力を最大化していくフラットな経営に移行しつつある(新たなる分散)ということを指す。

 

参考:藤井保文著 「ジャーニーシフト デジタル社会を生き抜く前提条件」

 

 

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