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2020.04.27

ネガティブな状況を受け止めるケイパビリティはありますか

 

 2020年に突如として出現した新型コロナウイルスによって、日々の生活は激変し毎日当たり前にように繰り返していた日常が一夜にして当たり前でなくなってしまいました。このような環境変化に対して強いストレスを感じている方も多いでしょう。さらに言うならば、このストレスを解消したくても、外出に制限が加わったことでストレスの原因を自らが動いて解決することもできず、またどうしたら解決できるのかの答えすら見つからない状態で八方塞がりになっているのではないでしょうか。仕方なく、国や自治体の方針に従って、日々の活動を自粛し、自宅に引きこもっているわけですが、それが本当に正しい行動なのかどうかも多くの方がよくわかっていません。

 

・在宅勤務が長く続き、外出していない、誰とも会っていないストレス

・自分の身勝手な行動が、自分だけでなく、周りの方々にまで感染を広げてしまうというプレッシャーに対するストレス

・レジャーや飲み会など、楽しいと思えることを取り上げられ、いつになったら復活できるのかわからないことのストレス

・テレビをつければ、今日の感染者数を伝えるニュースや自粛を促す情報ばかりでうんざりするストレス

・SNSでは、政治判断や人の行動を批判する内容の投稿ばかりで、気分が滅入ってくることのストレス

・マスクは効果がないという一方でマスクなしで外出するなというような、真偽不明の情報が錯綜し、何が正しいのかわからないストレス。

・緊急事態宣言によって営業停止となった業態では、日々のコスト負担に会社が耐えられるのか?日々の生活を維持する収入は確保できるのか?などの不安へのストレス

・この厳しくもむなしい非日常は、いったいいつまで続くのだろうかと思いを馳せるが全く答えが出せないストレス

・・・

 

 コロナウイルスとの戦いは、現在のところいつまで続くかわからず、コロナを根絶するのか、共存していくのかもよくわかりません。このような状態の中で、自分自身の振る舞い方を示唆する概念として、「ネガティブ・ケイパビリティ」というものがあります。ケイパビリティとは、「能力」「才能」「可能性」などと訳され、一般的には保有していて得になる能力のようにポジティブな表現として使われますが、それとは真逆の「ネガティブ」を付加した、「ネガティブなケイパビリティ」とはどのようなものなのでしょうか

 「ネガティブ・ケイパビリティ」は、19世紀初頭のイギリス詩人、ジョン・キーツ(1795~1821)の言葉で、イギリスの精神科医ビオンがその概念を、「判りやすく現実を安易に“理解”してしまうのではなく、“不可思議さ、神秘、疑念をそのまま持ち続け、性急な事実や理由を求めないという態度”」としたものです。そしてこれが、対象の本質に深く迫る方法であり、例えばその対象が人間であれば、相手を本当に思いやり共感に至る手立てだと、結論づけています。

 詩人ジョン・キーツが弟たちに残した手紙の中に書かれていた言葉。彼は、若くして父親を落馬事故で亡くし、母を結核で亡くし、さらに自身も25歳と言う若さで死を迎えました。そのような苦しい人生を送っていたからこそ、苦しい日常に耐える能力の存在に気付いたのだろと言われています。

 

 いま世のなかで重要だとされているのは、ポジティブなケイパビリティであり、それは人間の本能といってもいいものです。問題解決や物事の処理能力の高さで、まさに現代の学校教育において追求されている能力です。「速さ」「正確さ」「確実さ」は小学生から常に求められ、それはビジネスの世界でも同様です。しかし、ネガティブ・ケイパビリティはその本能とは逆の概念です。人間の脳はわからないものや不確実なものに耐え難く、あらゆるものに仮の答えを見つけたいという欲望をもっています。しかし、問題をせっかちに特定しない、生半可な意味付けや知識でもって解を見いださない、宙ぶらりんの状態をもちこたえることはとても苦手です。人間は、答えの出ないテーマに対して、極めて正解に近い答えを求める性質があり、それがないと不安になります。

 学校での勉強はそのよい例です。学問を学んで積み上げていくことはとても時間がかかり、すぐに結果がでないばかりか、いつ終わるかわからない果てしない探求です。特に幼少から大人になっていくための長い学習期間の中で、特に子供は常に近視眼的な利益(楽しい遊び)に目を奪われるので、勉強の時間そのものが強いストレスになります。

 また、自己改革は自己に対する問題意識や課題感に対する自己を変えていくための様々な行動を伴うものですが、実施している端緒は結果が伴わないため、本当に正しい道なのか?という疑心暗鬼に駆られます。この不安感や疑念感に負けてしまうと、もっと簡単で結果の出る方法にシフトしたり、途中でやめてしまったりということになり、肝心の自己改革にはつながりません。まさに得体のしれない宙ぶらりん感に押しつぶされます。ここで必要なのは、不安に勝つような強い信念を持とうというのではなく、不安を許容しようということなのです。

 

 現代のビジネスは、すぐに問題は何か?課題は何か?解決方法は何か?を求めたがります。ここで、複雑なものをそのまま受け入れられず、一般化、単純化、マニュアル化し、答えがないものや、マニュアル化できないものは排除していきます。これによって、理解がごく小さな次元にとどまってしまい高い次元まで発展しませんが、一応の結論めいたものはでてくるので、自己効力感は得られます。そして、このようなことを繰り返すことで、問題解決ができている気になった自分自身が形成されていくのです。

 相手がコロナウイルスでは、そもそも戦っている相手の正体が掴めず、その影響は未知で未曽有の課題に対峙している今だからこそ、早急に答えを求めず、状況に耐えていくことが必要なのです。答えを求めないことが、より深い(正解に近い)答えに行き着く道程であるとは、PDCAサイクルの考え方には逆行する考えですが、耐えることのその先には、これまで以上の深い本質に至り、こまでとは違った結論と自分自身を見つけることにつながるということなのです。今は「ネガティブ・ケイパビリティ」に基づいて、嵐が通り過ぎるのをじっと待つことが必要なのかもしれません。

 

 なお、ネガティブ・ケイパビリティは事象に対して「仕方がないから諦める」という考えではありません。いまは変えられないとしても、その不確実な「状態」に努力して耐え、希望を見いだしていく態度です。例えば予測も想定もできないような状態に直面した場合、短期的な思考で答えをだし続けて状況に臨機応変に対応していくか、長期的な思考で事象の趨勢に寄り添いながら、すこしずつ前に進んでいくことしかないのです。ちなみに短期的な答えを求め続ける脳は、高い頻度で刺激を求めたがるギャンブル化した脳とも言われています。

 

 今の時代に「ネガティブ・ケイパビリティ」が求められるのはなぜなのでしょうか。今後、アフターコロナの世界は、ますます予測が難しい不確実性が高まる世界になっていくでしょう。そのような世界では、過去の知識に基づく「ポジティブ・ケイパビリティ」の威力はどんどん低下していきます。一方、拙速に敵味方、善悪、損得を判断、選別、結論に結び付けることをせず、様々な考えや意見を仔細に検討し、熟議し共通点を見つけて歩み寄っていくことは、求める真理に近づいていくことにつながります。しかし、そのプロセスでは結論が出るまでに多くの時間がかかり、宙ぶらりんの状態が続きます。この宙ぶらりん状態を許容できる能力こそが「ネガティブ・ケイパビリティ」であり、深い理解に至った後の解決策を導き出す方法なのです。混迷を極める世界では「ポジティブ・ケイパビリティ―」と共に身に着けるべき能力だといえるのです。

 

 では、どうすればこの概念を身に着け実践できるのでしょうか?この問いに対してネガティブ・ケイパビリティは実に見事な解を持っています。この概念を実践することのHOWを求めること、それ自体がマニュアルに毒された考え方であるということなのです。必要なのは、事象に対して正面から向き合うようなポジティブな捉え方と対極の概念があることを知り、頭のなかに入れて耐え続ける態度をもつだけで充分であるということなのです。これのことからも、すぐに答えや結果を求めるビジネスマンの思考の対極にあると言わざるを得ません。

 先がわからない未曽有の危機だからこそ、どっしり構えてネガティブを受容することを楽しむ環境に自分を置き、アフターコロナに出現する変容した世界の行方に思いを馳せたいと思います。

 

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