2008.03.31
期間限定プロジェクト「就活」をミッションコンプリートした新入社員をどう迎える?
ここ2週間、街を歩いていると就職活動中と思しき学生を目にすることが多くなった。ビジネス街の地下鉄付近では、地図を片手に不安げに訪問先企業を探す学生を多くみかける。喫茶店では、緊張した面持ちで、志望企業先に勤める大学のOBの話を聞く学生もいた。就職活動風景もすっかり季節の風物詩の仲間入りを果たしたかといえるほど、「そういう時期」がやってきたのを感じるものだ。 来春2009年入社の新卒採用計画に関するアンケート結果によると、主要110社のうち08年春よりも採用数を増やすと回答した企業は37社と約34%を占め、全体の約8割の企業が前年並み以上の採用を計画している。大手の金融機関各社も1000人単位の大量採用計画を発表している。新卒採用予定数増加の背景には、業績回復を前提に、バブル崩壊後の業績不振で採用数を絞り込んだ結果、20代後半~30代前半の社員が圧倒的に不足しているため、社員の年代別構成比の是正を図りたい、団塊世代の大量退職期を迎え、技術やナレッジの継承者となる社員を確保したいという企業各社の意図がある。また、別の調査によると2008年の新入社者数が、計画を下回った企業が約4割超を占めているが、その理由には、「求める要件を満たす学生が集まらず、基準を下げなかった」「内定辞退者が予想より多かった」などが上位に挙がっている。ともかく昨年来、企業の採用意欲は引き続き高く、新卒採用においては圧倒的な学生の売り手市場。「余裕のシューカツ」といえる状況のようだ。 しかし、その実態はどうだろうか?。売り手市場にも関わらず、就職氷河期と全く変わらない、慌ただしく就職活動の流れの中に巻き込まれ、自分を見失いかけた学生の姿が見えてくる。3年生の夏休みから外資系企業をはじめとするインターンシップ体験が始まり、秋には就職情報イベントや、一般企業でも業界解説セミナーが開催される。「就職活動をするならとりあえず」登録した就職情報サイトで、大量に送られたメールの中から、なんとなくエントリーした企業の説明会に行って、進めれば面接に行く。大手企業は3月か4月には、内々定がでるらしいから、大学の単位は今回落としても、就職活動をする以上は流れに乗っていかなくてはならないのである。流れにのったつもりが、面接がうまく進まない学生は、志望動機の書き方や模擬面接を行ってくれるセミナーや就職活動サークルで対策をする。内定を獲得している大学4年生を相手に面接の練習をして、「1問1答マニュアル」や「なんでを繰り返して考える」という“貴重な”アドバイスをもらうのだ。それでも不安であれば、SNSの就職活動コミュニティに投稿された「昨日の面接で聞かれたこと一覧」を入手して準備する。一方、「就職活動は、楽勝だった」と豪語する早期に複数企業の内定を獲得できる学生もいる。こんな学生の言葉には、人よりも早く内定獲得という目標をクリアした優越感が透けて見える。就職活動の勝ち組、負け組どちらにしても、「自分の価値観、判断軸を見つけ、将来のありたい姿をじっくり考えよう」という姿勢は感じられない。売り手市場の本当に自分のやりたい仕事に就けるチャンスに恵まれているにも関わらず、とりあえず就職活動を早く終えることが目的になってしまうのだ。 もちろん、就職活動を通して、社会を知り、存在も知らなかった企業を見つけ、自分が本当に働きたいと思える会社に巡り合う学生は多数いる。ただ、「就職活動」と名付けられたゴールが明確な「期間限定のプロジェクト」に自ら埋没していってしまうような学生を見るにつけ、勝手ながら不安を覚えてしまうのだ。彼らが社会人としてスタートを切った1年後、2年後の「空気」に耐えていけるのだろうかと。景気循環に伴って、企業の採用計画数がアップダウンすれば、当然就職活動も売り手市場、買い手市場と状況が変化する。この景気変動に連動した採用マーケットのサイクルは繰り返されるものだが、ここ1、2年の売り手市場を経て入社した社員たちが実感するであろう入社前と入社後の「空気のギャップ」は、もしかしたらこれまでの世代が感じたことない大きさのギャップかもしれないのだ。日本経済が右肩上がりの時代は、就職活動の明るい空気のまま入社後も時間を過ごし、企業の成長をフォローウィンドに個人も社会人としての実績を積み上げていくことができた。しかし、今はどうだろう?。グローバルな競争に対峙し、差別化し自社の優位性を確立できなければ生き残れないという状況の中で、新卒入社社員もこれまでにないスピードで戦力となることを期待されるはずだ。とある企業の営業部隊ではここ数年以内に、メンバーの4割が新卒入社4年目以内を占める人員構成になると試算をされていた。もちろん、戦略的に組織営業の体制を整えバックアップを図る取り組みはなされるものの、若いメンバーたちも当然ハイスピードでの成長を求められることになる。マニュアルもなく、想定問題の答えを準備して臨む大学の試験とも就職活動とも全く別の世界観で、トライアルアンドエラーを繰り返し自分の力でPDCAサイクルを回し続ければならない。だからこそ、就職活動は、期間限定の勝ち抜けゲームではなく、「たとえ失敗しても簡単に投げ出さない覚悟を持ってやれることを探す」プロジェクトであるべきなのだ。 では、新入社員を受け入れる我々は、どんなプロジェクトとして迎え入れればよいのだろうか?。就職サービス関係者による、この4月に究極の売り手市場で入社する社員のキャラクタ分析が出されている。最初は上昇志向があるが、ぶつかると簡単に壊れてしまう「シャボン玉」タイプ。繊細で傷つきやすく自分でも立てるけど、助けがないと立てない「ハイジのクララちゃん」タイプなどだ。いずれも、意思はありそうだが、自立が期待できず、上司や先輩に「手間がかかる…」と言われてしまいそうなキャラばかりだ。しかし、この期に及んで年代による価値観やら常識やらのギャップを取り沙汰しても仕方がない。「こうあるべし」と迫ったところで、彼らから見ても「こちらの常識は、あちらの非常識」嘆いても事態は変わらないのである。 若い世代の人との付き合い方の処方箋やNGワードがあるわけではなく、人と人のコミュニケーションの基本に立ち返って、日々会話を重ねることでしかお互いの理解と信頼を築くことはできない。大切なことは、マニュアルやテクニックを教え込むことでも、価値観を押し付けるのでもなく、経験のある者が感じる空気を彼らに分かる文脈と言葉に翻訳していくことなのだろう。と同時に、彼らがもっている空気の変化を感じ取りチューニングしてあげることが必要なのだろう。空気の変化は、やはり普段から関心を持って、ある程度定点観測していないと気が付けない。しかも、こちらの価値観のメガネを通してみたところで、彼らの実態は見えてこないのである。ある種の忍耐力も要求されるが、基本にあるのは、若い人を活かしたいという信念であり、組織のポジションや経験値を逃げ道にせず相手を人として尊重することなのだ。とすると我々側は、「当たり前なこともあえて再評価し、現実を観察しながら、今に一番あった方法を見つける力を向上する」プロジェクトというところだろうか。そうやって彼らと接していけば、我々の人を見抜くスキルも上がってくるはずだ。ひょっとしたら一見KY(空気を読めない)な新入社員も、空気の読み方、作り方を教えてあげたら、ひと化けするかもしれないのだ。 スパイラル