2017.10.27
流通の未来は、卸売りの中抜きではなく、小売り飛ばしかもしれない
とある未来の話
消費者は、商品の購買という行動をしなくなった。モノの購買は、消費者の健康や思考、生活、家計に基づく最適なサービスの一環となり、日々の行動の動線において、ストレスなくサービスを享受するようになった。
消費者への販売を担う小売業は過去のものとなった。しかし、ある時代において、小売業は栄華を極め、今ではインフラとなった「卸売業の不要論」が真しやかに語られていたようである。
ある時代、小売業は、大規模化し、多機能化し、流通全体を合理化し、製造業からチャネルリーダーの立場を譲り受けた。規模の経済性を駆使し、消費者に安くて良い品を提供し始めた頃、消費者は家と車を保有し、新しい小売業の優位性を受け入れた。
そして、小売業は飛躍的な規模にまで拡大を続けた。顧客の購買情報を管理し、物流を制し、製造業との直接取引を行なった。卸売業の中抜きによって売価を抑え、利幅を広げた。この小売業の大規模化し、製造業と小売業が直接的につながる現象が「卸売業の不要論」の正体であろう。
ある時代において、流通業の未来は、消費者からの圧倒的な支持を獲得し、大規模化した小売業が卸売業を駆逐し、流通を支配することが確定的に思える状況だった。
しかし、時を経て、大規模化した小売業は、業績の低迷が顕著になり、衰退してゆく。
単身世帯が増え、世帯収入は低下し、車を持たず、狭い家で暮らす消費者が増加した。世帯人数が減ると、家事にあてる時間が減り、時短と便利の価値が向上した。消費者は購買のための遠出をしなくなり、近所の小売店に購買の機会を求めた。
そして、小規模・小商圏化した小売業が栄え、細胞分裂かの如くコピーされた店舗を大量出店し、毛細血管の如く独自の物流網を構築した。日々の購買データから売れ筋商品を見極める術を磨き上げ、成長を続けた。この時代、今はなき消費者への販売を担う小売業が、流通を制していたことは驚嘆に値する。
この時代において、流通業の未来は、消費者からの圧倒的な支持を獲得し、張り巡らされた店舗・物流・情報網を備えた小売業が流通を支配することが確定的に思える状況だった。
しかし、時を経て、小規模・小商圏化した小売業は、業績の低迷が顕著になり、衰退してゆく。
小規模な小売業は、地域を支える食品系小売業の市場シェアを奪い、過度な増殖を続けた。更に様々な需要を取り込むべく小さな店舗のオペレーションは高度に複雑化していった。一方で、新たな業態店が台頭、競争は熾烈さを極めた。更に、人材不足が慢性化、フランチャイズ・オーナーの負担は臨界点をこえ、経営システムは機能不全を起こし始める。 フランチャイズ・オーナーの担い手は減少の一途をたどり、消費者への販売シェアの占有率は低下、小売りの業態を超えた戦いの中で、存在感を失っていった。
そんな最中、消費者に対する①モノの所有権の譲渡と、②カネの決済という小売業の専売特許が、高度な物流機能を有する卸売業と融合しはじめる。その変革の首謀者は、データ駆動の流通業であった。
データ駆動の流通業は、消費者の膨大なパーソナル・データを独占し、決済機能を完全にデジタル化していった。消費者のインカムとアウトカムを管理し、“支払い”という行為自体がなくなってゆく。更に、独自の物流網は消費者の行動範囲に浸潤していく。モノの所有権の譲渡(物理的な受け渡し)機能は、自宅や会社や通勤・通学ルートなど、生活者の行動範囲に最適化されていった。商圏に特化した店舗の品揃えは、個人に特化した手のひらに展開される品揃えには敵わなかった。小売業は専売特許を失った。
モノ・カネ・情報の流れは完全にリアルタイム化し、消費者のニーズ(ほしいモノを、ほしい時に、ほしい場所で、手間なく)に最適化された流通形態に変貌を遂げていった。製造・物流・店舗にモノをストックし、ストックされたモノを求め人が集まるという非合理で非効率な過去の流通は、消費者のリアルタイムな需要と行動に対応したフロー(流れる)状態を常態化した新たな流通に統合された。
流通の在り方は、大きく変わった。生産者・提供者の論理によって構築された流通は過去のものとなり、消費者を起点とする新たな流通が構築され、モノとカネの交換価値ではなく、交換後の使用価値や経験価値を重視する流通形態が生まれた。
過去の流通プレイヤーは、製造・卸売・小売であったが、新たな流通のプレイヤーは、①プラットフォーマ―(データ駆動の流通業)、②メーカー(製造業)、③トランスポーター(輸送業)に集約された。
生活に浸透するAIやロボットを介したモノやサービスは乱立したが、新たなテクノロジーの恩恵を消費者は十分に享受できなかった。そこで店舗に変わる④サポーター、⑤アドバイザー というサービス業が台頭、AIやロボット、そして医療・健康・エンターテイメントなどの専門性を駆使し、消費者の生活に浸透していった。
④サポーターとは、消費者の御用聞きであり、身の回りの世話役として普及し、新たな雇用を生み出した。⑤アドバイザーとは、高度な専門性とコミュニケーション能力を備え、AIを駆使して消費者の潜在的な需要を満たす新たなプロフェッショナルな職業として広く認知された。“店舗”という交換価値の現場はなくなり、店舗という概念自体が過去のものとなった。
現在では、卸売業や輸送業は「③トランスポーター」の役割として進化を遂げ 、消費者の行動に最適化した物流網を提供し続けている。一方、小売業は「①プラットフォーマ―」に吸収され、「④サポーター」と「⑤アドバイザー」というサービス業に代替えされていった。過去の繁栄した販売を担う小売業は消滅し、販売の先にある価値が重視される“小売り飛ばし“とも言える状況が、現在の流通の姿である。
さて、とある未来の風景から、2017年の現代の風景に目を向けてみよう。
現代において、「ネットとリアルの融合」、「オムニチャネル」といったキーワードが謳われ、消費者への販売機能、即ち交換価値の側面が強調されている。しかし、これは新たな流通への進化の極一部にすぎないことを知ることになるだろう。小売業の圧倒的な勢力と台頭が、チャネル=小売業かの如く、誤った見方を強調してはいないだろうか。チャネルとは生産者の論理であり、一方的な流れの在り方を示す概念である。その時点で、見方を誤ってはいないだろうか。
新たな流通への進化の本質は、いつの時代も消費者の顕在・潜在ニーズを如何に満たすかに尽きる。そして、現代は、消費者の“個人”に対する価値を生み出す者が勝ち残る時代である。消費者のあらゆるパーソナルなデータを収集・駆使し、消費者に最適化された視点から抜本的に在り方を変える者が勝ち残り、名乗りをあげることになるだろう。
現時点の勝者は、明日の敗者かもしれない。
流通業の未来は、卸売業の中抜きではなく、小売業(消費者への交換価値の提供業)を飛ばした姿なのかもしれない。
トンコツ