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2012.08.10

2020年、東京での五輪開催を考える

 4年に一度のスポーツの祭典、30回目の夏季五輪がロンドンで開催されている。連日、テレビや新聞、インターネットを中心に日本代表選手の活躍が報道されており、睡眠不足の方もいらっしゃるだろう。メダルを獲得した選手は各放送局から引っ張りだことなり、各局の朝のニュース番組に出演して笑顔で受け答えをしている姿を見るのも五輪期間中の楽しみである。  この夏季五輪、次の31回大会は2016年にブラジルのリオデジャネイロで開催される。その次の32回の五輪開催地は2013年9月にアルゼンチンで行われるIOC(国際オリンピック委員会)総会で決定されるが、日本の東京が立候補していることを御存じの方は多いだろう。2012年、2016年に続き3期連続で立候補しているマドリード(スペイン)、イスラム圏初の五輪開催を目指すイスタンブール(トルコ)に東京を含めた3都市が、2012年5月に行われた1次選考を突破した。その1次選考の際に作成された、IOCのワーキンググループが作成した各都市の評価報告書では、東京は非常に高い評価を受けている。  この評価報告書は「競技会場・会場配置計画」「選手村」「国際放送センター(IBC)・メインプレスセンター(MPC)」等、14の項目で評価をされているが、全体的に評価が芳しくなく1次選考で漏れたバグー(アゼルバイジャン)とドーハ(カタール)をも含めた5都市の中でも、東京が最低点を記録した項目があった。それは「政府支援・世論の支持」であり、1次選考の総合評価でも東京の課題として「国民及び市民の低い支持率」と「原発事故によるピーク時の電力不足」の2点が挙げられている。IOCが行った世論調査でも、他の候補都市では五輪開催に「賛成」とする回答が70%代後半~90%、「反対」とする回答は数%、高くても10数%の数値である中、東京は賛成が47%、反対が23%となっている。  これを裏付けるようなデータは他の調査でも明らかになっている。直近の2012年6月に実施されたライフメディアのリサーチバンクによると、東京での五輪開催について「賛成:23.4%」「どちらかといえば賛成:28.4%」「どちらでもない:30.3%」「どちらかといえば反対:11.4%」「反対:6.4%」となっており、IOCの調査と似たような結果を示している。この「国民及び市民の低い支持率」は2016年の開催招致の際も課題に挙げられており、リオデジャネイロに敗れた理由の一つになっていた。  「国民及び市民の低い支持率」となっている理由は何だろうか。ライフメディアのリサーチバンクでは、「どちらかといえば反対」「反対」と回答した方にその理由を聞いているが、こちらのデータが参考になる。複数の理由が挙げられたが、多くの方が挙げた理由が2つあった。それは「①税金がもったいないから:64.0%」「②東京で開催することに意義を感じない:59.3%」である。他の理由は、多くても30%程度であったため、反対の理由の多くはこの2点であるとも言える。  「①税金がもったいないから」とあるが、五輪の誘致・運営にはどのくらいの金額が必要になるのか。招致費用は75億円(民間38億円・東京都37億円)と言われており、この金額は2016年度の前回の招致にかかる費用の半額といわれている。運営については、現在開催中のロンドン五輪では約2500億円がかかるといわれている。東京との類似性(既存の競技場を活用、交通インフラも整備済み、過去に五輪を開催した経験あり等)もあり、ほぼ同水準の金額になるだろう。また、東京での2016年の招致プランでも2500億円程度の費用を想定していたようだ。この運営費用は、主に競技場運営、選手村、警備員等に充当するが、実は税金を投入せずに賄うことができると考えられている。その収入源となるのはテレビ放映権料、企業からの広告費、そしてチケット代であり、単純に五輪を運営することのみを考えれば、税金が投入されるのは招致費用が大半だと言えなくもない。  しかし、本当にお金がかかるのは五輪の” 運営費用”ではない。五輪開催に伴って最も費用がかかるのが道路やインフラ整備にかかる費用と言われており、それらに費やす金額は兆を超えるとも言われている。仮にこれらの金額も五輪開催費用と捉えると、インフラの投資の大半は公共事業となるため、兆を超える税金が投入されることになる。  実際に、過去に五輪が開催された多くの都市では、多くのインフラへの投資が行われている。1964年に開催された東京五輪もそうであるし、2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪でも同様に多額の投資が行われている。このことは、経済成長途中の国の成長モデルが、「固定資産投資(公共投資・民間設備投資・民間住宅・不動産投資の計)主導モデル」であることに密接に関連している。したがって、高度成長期にある国にとって、五輪とは固定資産投資主導の経済モデルに自らを当てはめる格好の場とも言えるのである。  1964年の東京五輪の際には、地下鉄・高速道路・東海道新幹線といった、今でも日本・東京の大動脈となるインフラへの投資が盛んに行われ、この年のGDP成長率は11.2%に達した。中国も、2008年の五輪開催後にリーマンショックに見舞われたものの、GDP成長率は9.0%を記録した。  しかしながら、この固定資産投資主導モデルには大きな欠点がある。過剰で非効率な設備や建設投資を招くことである。2004年のアテネ五輪のギリシャでは高速道路や橋ばかり建設し、結果として政府債務を膨張させる事態に至り、世界中を騒がすユーロ危機の原因になってしまったことは記憶に新しい。この欠点を指して、「①税金がもったいないから」という理由を挙げている方が多いのだろう。また、「②東京で開催することに意義を感じない」という理由も、既にインフラが整っている東京で五輪を開催する(新たに固定資産投資を行う)必要性がないから、さらには日本は先進国であり新たな固定資産投資は不要、という考えも背景にあるのだろう。 (参考までに、ライフメディアのリサーチバンクで、オリンピック招致に「賛成」「どちらかと言えば賛成」と答えた人のなかで最も多数を占めた理由は「経済効果が期待できるから:75.1%」であり、「東日本大震災の復興の手助けになる:39.5%」「オリンピックが好きだから:33.9%」「日本や東京のイメージが良くなる:31.9%」「トップアスリートを近くで見られるから20.8%」といった感情的な理由、また「インフラ整備などが期待できる:23.4%」といったインフラ整備自体への期待はそれほど多くはなかった。)  このような状況を整理すると、東京五輪開催の賛成者比率を増やし、IOCから指摘された課題を克服することは難しいように見える。ただし、その結論を出す前に、「五輪開催に伴う固定資産投資は税金のもったいない使い方」なのかを再度考慮する必要がある。つまり、先進国となった今の東京・日本に固定資産投資が必要かどうか、ということである。そして必要であれば、既存の固定資産を活用するなどして、投資額を必要最小限にして五輪を開催できないかということである。  まず、「今の東京・日本に固定資産投資が必要か」という観点である。前回の五輪を契機に整備された地下鉄・高速道路・東海道新幹線は、既に建設から40年以上経っており、大規模な修繕が必要な時期になっている。特に東京都心を走る首都高速道路は老朽化が著しく、1兆円規模の改修が検討されている。また、東海道新幹線も2018年~2027年の間に大規模改修を予定している。この実情を鑑みると、今の東京・日本には、新規ではなく、改修という観点で固定資産投資の必要性があると言える。  次に「既存の固定資産を活用して投資額を必要最小限にして五輪を開催できないか」という観点である。東京には既に多くのスポーツ・文化施設が存在する。もちろん、IOCの要求する水準を満たすために新規で建設しなければならない施設もあるだろう。ただ、そのためには、既存の施設をそのまま活用できなかったり、改修で対応できる施設が存在しないためであることの証左が必要になってくる。現在公開されている招致プランでは、このあたりの情報はまだまだ不足していると言えるだろう。  そう考えれば、東京で五輪を開催することは、日本・東京の老朽化したインフラを一新するとともに、新たな時代に対応した先進的なインフラ・都市に生まれ変わる貴重なチャンスだと考えられる。単純にインフラ整備だけであれば五輪の開催に関係なく行えばいいが、せっかくであれば1兆円を超えるといわれる経済効果(東京都発表/固定資産投資を含まない)が期待でき、熱狂や感動を得られる五輪開催とセットで行った方が国・都だけでなく市民にも大きなメリットがある。もちろん、兆を超える投資を行うのであれば、数十年先を見据えた国や都市のビジョンが必要になるとともに、合理的かつち密な投資計画が求められる。ビジョンや投資計画と合わせて、今ある資産は活用し、新規の投資額を最小限に抑えていると多くの方が理解できるもの証左を、分りやすい形で提示することで、賛成が増えてこない市民の意識を変えることもできるだろう。  ロンドンでの盛り上がりを見ると、このようなイベントを是非とも東京で、という思いが強くなる。ただ、安易な開催は国の破たんを招きかねない。開催については、感情的な理由だけでなく、合理的な裏付けが必須となる。東京で開催できるかはまだ分からないが、少なくともち密な計画を立て、市民の理解を得たうえでIOC総会に臨んでもらいたい。  ロンドン五輪も既に終盤。最後まであきらめない選手を、テレビやPCの前から応援したいと思う。頑張れニッポン!!

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