2007.11.19
ガソリン150円時代。ひと握りの超富裕層だけが太っていく仕組みをつぶせ
2007年11月、ついにレギュラーガソリンが140円を突破し、150円に迫ろうとしている。バブル期の水準を超え史上最高値だ。ニューヨークの原油先物も、バレルあたり$90の高値を超え、$100も目前になっている。この傾向はしばらく続き、最終的には$80あたりに落ち着くという見方が有力だ。しかし今回の原油高は、産油国の供給不足から発生しているのではないところが、話をややこしくしている。これまでの原油高の大きな要因は、中国やインドに代表される高度経済成長にある国の原油買い漁りによる需要増や、政情不安な中東に多くを依存していることなどが主だったところだが、今回の高騰はそれだけではなさそうだ。
原油高騰に無視できない大きな要因が、巨大なファンドマネーの存在である。彼らがついに原油先物にその触手を伸ばしはじめた。しかも原油だけでなく穀物や金などのレアメタルも同様に急騰している。いまやファンドマネーは、レバレッジをかけて1兆ドル(世界中のGDP合計をはるかにこえる!)という途方もない金額を動かすまでに成長し、さらに中国やロシア、そして産油国の国家ファンドまで加わり、より一層増強されつつあり、もはやそのマネーパワーには手をつけられない。
97年7月にはじまったアジア通貨危機は、それまでタイに積極的に投資されてきたマネーが一気に引き上げられ、タイバーツの大暴落がスタートだった。そのタイバーツ暴落を影で演出したのがジョージソロス率いるファンドであったことはあまりにも有名だ。その影響は韓国とマレーシアにも波及し、タイと韓国はIMFからの支援を仰がなくては生存できず、マレーシアは外貨に対する通貨規制と為替相場を固定相場制へ移行してやっと収束させた。マレーシアのマハティール首相(当時)がジョージソロスのファンドを名指しで批判したのは記憶に新しい。その時に動いたマネーは一説には2000億ドル以上とも言われているが、現在はその5倍以上もの巨大マネーが、すこしでも利回りの高い投資先を探して、世界中の金融マーケットを徘徊しているのである。サブプライムローンなどの要因で、株式市場の先行きが暗いことから、今は利回りの見込める原油や穀物の先物に飛びついている。いま世界経済はこのファンドマネーに翻弄されつつある。
供給元のOPECはというと、原油の値段があがっていくのは大歓迎だ。これまでのように供給の調整をしなくても、ファンドが勝手に値を煽って暴騰させてくれるのだから、黙っていてもいくらでもオイルマネーが転がり込んでくる。笑いが止まらないだろう。
この原油の高騰が日本にとって大きな問題なのは、燃料や暖房だけでなくその影響が食糧にまで波及し、徐々に値を上げ始めたことである。ガソリンや軽油価格の上昇につれ、物流コストも上昇し、最終的には物流によって運ばれる物資の価格に跳ね返ってくる。いずれ電気代も上がるだろう(新潟県中越沖地震の余波で、柏崎刈羽原発を停止せざるを得ない東京電力は、重油を燃やす火力発電に頼るしかない)。
景気は回復しているとはいえ、世帯平均所得や可処分所得はあまり上がっていないことを考えると、物価の上昇が家計を直撃し、消費が冷え込むのは目に見えている。レジャーなどでのマイカー使用のガソリンは、我慢すればすむことだが(マイカーに乗らなければガソリンを燃やすこともないわけで、二酸化炭素の排出抑止に貢献できる)、暖房用の灯油や食糧などの生活物資はそうはいかない。
この原油高による様々な物価上昇を防ぐために、政府に何を期待すべきだろうか?政府の打つべき施策のその方向は2つある。ひとつは、輸入する原油の調達価格そのものを下げること、もうひとつは国内に供給されるガソリンや軽油などの提供価格を下げることである。
原油の調達価格を下げる特効薬は円高に誘導することだ。円が高くなれば原油調達価格は相対的に下がるし、金利が上がってくれば、海外のファンドマネーが日本に流れ込むことも考えられる。今の日本の金利は世界でも最低なので、日本は投資される側ではなく、日本から低利で資金を調達する対象になってしまっている。ただし円高誘導となれば円安で空前の好決算を謳歌している製造業の反発は必至だろう。また金利を上げることで、住宅ローンなどを抱えている庶民や、バブルのつけから抜け出せていない企業には打撃だ。特効薬というよりは劇薬に近いかもしれない。
もうひとつは、ガソリンの提供価格を下げる方法である。いまのガソリンの提供価格は、ガソリンそのものの価格に加えて、ガソリン税(揮発油税)などがかかり、そのうえに消費税がかかる多重課税方式になっている。ガソリン税はリッターあたり53.8円上乗せされている。ちなみに軽油が安いのは軽油税が安いからで、リッターあたり32.1円である。
この揮発油税を原油の価格が落ち着くまでの時限立法で免除か棒引きにするのである。場合によっては緩和する対象を物流業者などに限ってもいい。ガソリンの実売価格を130円程度にできれば食糧輸送への影響はなくなる計算だ。揮発油税などの道路特定財源は、道路族と言われる議員の利権につながっているのは国民も知ってのことで、なかなか手がつけられないかもしれない。ただこういう時期こそ国民のために、賢い徴税の方法と税金の使途を考えてほしい。
また野放しになっているファンドの規制にも手をつけるべきだ。国際的な投機マネーの動きを規制することは難しいかもしれないが、今や実体経済の何倍にも巨大化してしまっている怪物を野放しにしていたのでは、人類の安定した生活にも関わってくる。原油の先物価格の調整ができない以上、まずは国内でできることを行って物価の高騰をできるだけ抑制し、そして時間をかけてファンドの規制を働き掛けていくしかない。洞爺湖サミットの主要議題とすべき問題であり、ホスト国の日本の提案力が求められる。投資ファンドが土地などの不動産や株式などの金融商品、金やダイヤなどの宝石などを、投機的に扱って利益をだすのは投資家へのコミットメントなのである意味仕方がないと思うが、ライフラインとなる食糧や水や原油、ウランなどには、ファンドマネーの進出を規制すべきである。それが食糧やエネルギーなどの生命に直結するものにまで及ぶのはたまったものではない。
彼らの投機行動は一部の投資家のみに利回りとして還元されるが、その原資は一般庶民から吸い上げられていることを忘れてはいけない。勝ち組負け組という言葉があるが、マネーは下から上へ流れていく特徴をもつ。"勝ち組"が吸い取るマネーの量は、それと同じだけマネーを吸い上げられる"負け組"が存在しているということだ。負け組によって支えられた勝ち組の反映など、いずれ破たんすることは目に見えている。