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2010.03.30

クロマグロの商業取引禁止提案否決! マグロを絶滅に追い込む「現代日本のマグロ食文化」の行方

 カタール・ドーハで開かれたワシントン条約締約国会議で、モナコによるクロマグロの国際商業取引を原則禁止とする提案が、参加国の圧倒的多数で否決された。もし可決されればマグロが食べられなくなるということで日本国内では大騒ぎになったが、否決の報をうけてマグロファンや寿司店などは胸をなでおろしたことだろう。 ワシントン条約の付属書改訂を議論する第1委員会では、提案国のモナコが「地中海のクロマグロは絶滅の危機に瀕しており、同条約を適用して国際商業取引を禁止するのが最後の手段」という趣旨を説明したが、最大輸入国である日本は「同条約の枠組みでの規制は適切ではない」と反対の立場を訴えた。同会議にはたまたまサメの国際商業取引の原則禁止提案も動議されており、フカヒレ目的でのサメの最大消費国の中国が猛反発するという、マグロと同じ構図が同時に展開されていたのである。珍しく日本と中国の利害が一致し、両国が連携して水面下でのロビー活動を行った結果、アフリカ諸国の支援を取り付けることに成功し、サメもクロマグロも禁輸という提案は否決されることになった。 日本のマグロ食文化にとって最悪の結果を回避することができたのである。しかしことはそう単純なことではない。絶滅の危機のあるクロマグロが引き続き商業取引されることで、今後の国際社会の中での日本のマグロ食文化のあり方が問われることとなった。

 日本人にとってマグロは人気の高い魚であり、世界のマグロの80%は日本で消費されているといわれており、それゆえにクロマグロの個体数激減の元凶は日本人のマグロ食にあるとされている。クロマグロの商業取引禁止提案が否決されたことで、これまでと変わらずにマグロが日本に続々と輸入されることになるが、今のようなマグロ消費を今後も変わらずに続けていれば、同提案の主旨でもあったクロマグロを絶滅の危機から救おうという目的は実現されず、絶滅の危機は去らないことになる。日本がなんらかの解決策を提示し実行しなければ、クロマグロの個体数は減り続け、やがて全面禁漁などの別の提案が動議されることになるだろう。 モナコの説明によればクロマグロが絶滅の危機にあることは間違いなく、クロマグロだけでなく、ミナミマグロなども個体数の減少が確認されており、いずれそれらのマグロも同様に絶滅の危機にさらされる可能性が高い。 同提案が否決されたことにより、国際的な条約の枠組みによる個体数減少抑制という歯止めをかけることに失敗したため、マグロ漁を行う国と獲れたマグロの最大消費国である日本の行動次第でマグロを絶滅させるか救えるかが決まることになったのである。 まさに、日本人の国際社会でのモラルが試されることとなり、今までのような爆裂的消費はもう許されないこととなった。これは 食文化そのものを変えなければならないかもしれない事態なのである。

 日本人が本格的にマグロを食べ始めたのは、江戸時代の中期になってからの話だ。太平洋沿岸の比較的近い場所で獲れるマグロを寿司などにして食することから始まり、しだいに日本の食文化として定着してきた。当時は冷凍技術がないために遠洋でマグロ漁を行われることはなく、主に沿岸でのマグロ漁に限られていた。比較的海岸から離れた海域を泳ぐマグロは、捕獲してから市場に並ぶまでに時間がかかるために、脂が多いトロ部位の傷みは早いために捨てられてしまい、主に赤身の部分が食べられていた。当時の江戸前寿司の中では、マグロはそれほど人気の高かったネタではなかったようである。日本人がトロを好んで食べるようになったのは冷凍技術の発展した戦後からであり、次第にマグロ人気トロ人気が高まってきた。そのころの「従来のマグロ食文化」は、うまいが高いマグロという食材を、最も美味しく食べる方法を吟味し大事に調理し大事にいただくというものだった。

 現在は円高の恩恵もあって比較的安価にマグロが手に入るようになり、消費者もマグロを好んで食べるようになった。それが世界中からマグロを買い漁ることにつながり、冷凍技術と日本人のマグロ好き、安価に手に入ることなどの要因が重なって、江戸時代には考えられなかった新しい「現代日本のマグロ食文化」を形成しはじめた。近年では飽食とも言っていい消費行動に至り、ついにマグロ食べ放題、100円マグロ握り、マグロ解体ショーにまで行きついてしまった。そういった飽食の果てがクロマグロの激減という副作用として顕在化したのである。食文化とは食材に敬意を表し、レシピ、調理法、盛り付け、食べるマナーまでをも含んだ意味であるべきだ。マグロへの冒涜ともいうべき飽食行為を含む「現代日本のマグロ食文化」を、食文化と呼ぶにはあまりにも不適切だといえるのではではないか?。

 今回の件を第二のクジラに見立て、他国の圧力からマグロという日本の食文化を守れという論調もあるが、飽食するような食文化であれば守る必要はない。食文化論で他国の圧力に対抗するのであれば、少なくとも海外から見ても恥ずかしくないマグロとの付き合い方である「従来のマグロ食文化」に戻すべきだろう。 結局のところ食文化を守るのは自国でしかなく、日本人のマグロに対する付き合い方を変えなくてはならない時に来ているのである。人類が管理(養殖などの個体数を維持管理できるような方法が可能な食物)できるものでない食材は、消費量を規制する施策を実施していくことで個体数管理につながり、結果として日本の食文化を守ることになるのである。消費量の規制は国内物の漁獲量と輸入量を規制すれば実現する。流通量が減れば価格のインフレにつながり、すくなくとも100円マグロなどの飽食の対象にはならないはずだ。今一度マグロを食べるという日本人のマグロ食文化とは何かを考え、マグロとの付き合い方を変えるべきだ。日本は個体数に影響がない範囲でのマグロ消費の方法を模索し世界に表明すべきである。

 今回のクロマグロの件は、限りある資源の浪費に関する警鐘とみるべきだ。地球には60億以上の人類が住んでおり、全員を満腹にさせるほどのポテンシャルを地球は持っていない。地球規模の食糧資源の問題解決は、まずは地球の住人ひとりひとりの取り組みから始めなくてはならない。日本人としてすべきことは、世界に誇れるマグロ食文化を確立できるように、消費者として限りあるマグロとともに共存していく道は何かを考えよう。いま自分たちにできることは、マグロを飽食する店やプレゼンテーションに安易に乗るのではなく、限りある資源に対する敬意と、それを食べなくては生きていけない人類の業への認識をもって、“上手”に食べさせていただくことに尽きる。消費者の意識が変われば、行き過ぎたプレゼンテーションを行う店はなくなり、マグロに敬意を表した従来のマグロ食文化に戻ることだろう。


 

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