PMI Consulting Co.,ltd.
scroll down ▼

2009.07.24

幼稚園に学ぶ“関係性”の再構築

 

 現在、幼稚園業界では少子化や核家族化などの影響からサービス業化が進んでいる。少子化によって、親が子供の細かな点まで目が行き届くようになり、過保護・過干渉の傾向が強まっている。近くの児童公園などに行っても子供同士で遊ぶ姿はあまり見受けられず、親が付きっきりで子供と遊んでいる光景を見かけることが多いのもその表れの1つといえる。過去であれば、このような公園などで子供たちが勝手に遊んでいる間に親同士の繋がりが生まれていたものだが、最近では子供が幼稚園に入園するまで他の子供や親と触れあう機会を持たない親子も増えているという。さらに核家族化が進んだことで、親から子への子育ての知恵の伝承やサポートが少なくなっていることなどもあり、まさに子育ての孤立化が進んでいるといえる。このような中で、子育てにゆとりが持てず、子供の安全や将来を考えるあまり、親が子供の失敗を先取りして子供が自分の意志で自分のやりたいことに挑戦することを回避させてしまう傾向がある。こういった状況の中で、少ない子供を獲得するために多くの幼稚園では、親のニーズに応える形で知育教育や早期教育に力を入れ、サービスの改善に取り組んでいる。
 一見当然のように思えるが、このような幼稚園がサービスを提供する側、親が消費者という関係が根付いてきている現況に警鐘を鳴らしている幼稚園もある。そのような幼稚園では、親のニーズを満たす事を目的にするのではなく、幼児期の発達の特性や現代社会における家庭環境の実情から教育を考えなければならいとし、幼稚園が親の要望に応えるような関係を改善しようと取り組んでいる。
 

 我が家も今年から長男が幼稚園に通い始めたが、その幼稚園も親との関係を改善しようと取り組んでいる園の1つといえる。
 その理事長によれば、「保育がサービスになってしまう世の中の流れに歯止めをかけて、子どもと親が育ち合える場を作っていきたい。親は消費者ではなく、子育ての第一義的責任を負う主役でなければならない」という。これは「親のニーズに応えて子供の失敗を先取りするような教育は幼稚園の重要な役割ではない。子供が自分で自分の人生を生きていく力(他者への思いやり、自制心、体験から学ぶ力など)などのように幼児期に養うべきものがあり、その主たる教育の場はあくまでも家庭でなければならない。幼稚園は家庭では体験できない集団生活の場を通して体験的な学習を促進したり、家庭教育の不足を補うなど、家庭教育を前提として幼児期に必要な成長を支援する役割を担っている。しかし、現在多くの家庭では教育力が低下しており、家庭で本来行われるべき教育が不十分であることから、親が幼稚園の運営に参加し子育てについて真剣に考えることを通して、家庭の教育力を高める機会としてほしい」ということをメッセージされているのだろう。
   

 上記のような考え方から、この幼稚園では親が幼稚園運営に参画できる場を積極的に作り出している。
例えば、先日も“夕涼み会”と呼ばれる夏祭りが開催されたが、この会も幼稚園の先生と親が協力・連携して企画・運営されている。会では焼きそば、かき氷、ホットドック、お菓子などの模擬店や、和太鼓に合わせた盆踊り、本格的な打ち上げ花火など、子どもたちの思い出に残るようにと様々な催しが行われる。当日の園内は会を訪れた多くの人で溢れかえっていたが、お母さんたちが互いに声を掛け合うことで、混乱が起きることもなく、子どもたちが安心して楽しめる場が形成されていた。また模擬店では用意した食材が無駄にならないよう、お母さんたちがお互いに協力し合って園内を駆け回るなど、自分たちが担っている役割を果たそうと真剣に取り組んでいた。しかし、このように幼稚園運営に参画しているのはお母さんに限ったものではない。“おやじの会”と呼ばれるお父さんだけで構成される会も、各季節に合わせたイベント(夏のお泊まり会…など)から畑仕事(幼稚園で子供たちが食べるじゃがいもなどの栽培)、趣味を活かして子供たちに様々な音楽を聞かせるバンド活動など、幅広く活動している。その他にも、先生と親が話し合う毎月の父母会をはじめ、幼稚園のホームページのコンテンツを作成・更新する会、先生や子供たちにインタビューして定期的な広報誌を発行する会など、幼稚園運営のあらゆる場面で親の参画が確認される。
 穿った見方をすれば、単に幼稚園のコスト削減のために親を活用しているように受け取ることもできるが、そうではない。この幼稚園ではクラス担任以外にもフリーの先生(担任の補助・代理業務~突発的な事態への対処などを行う、フリーの先生がいることで子供もクラス担任にも余裕が生まれる)を多数配置することで、一人ひとりの子どもにきめ細かく関わったり、親と先生が十分に話し合える体制を構築しており、他の幼稚園と比較しても先生の数は多いくらいだ。幼稚園は無責任に自分たちの役割や仕事を親に押し付けているのではなく、幼稚園が大事にする価値観や考え方を親と共有することに時間を費やしている。その上で役割と責任を付与し、親が子どもたちに何ができるかを自ら考え、実現できる場を提供しているのである。
 幼稚園は、このような活動を通して園と親(家庭)の正しい関係を築こうとしており、次のような効果を期待していると考えられる。第一に、幼稚園運営の透明化(徹底した情報開示)によって、親の抱く漠然とした不安を解消すること。第二に、心理的に余裕のない親が、お互いに同じ悩みを抱く親同士のネットワークを持つことで、心にゆとりを持てるようにすること。そして、親の不安が解消され気持ちにゆとりが生まれた上で、幼稚園運営に対する参画意識が高まることによって、サービスの消費者から幼稚園運営の主体者へと親の認識が変わり、自身の子育てについて真剣に考えるようになることを期待しているのだろう。
 実際にこのような幼稚園の取り組みから、入園後3ケ月もすれば、当初は自分の子供のことしか意識になかった親たちが、自分の子どもを主語にした“myの精神”から幼稚園に関わる子どもたちを主語にした”ourの精神”で、当たり前のように互いに積極的に助け合うようになっている。
 

 上記のように、変わりゆく関係性に強い問題意識を持って、適切な関係性を築き直そうと真剣に取り組んでいる幼稚園もある。しかし、このように関係性が過去から変化しているのは、何も幼稚園と親に限ったことではない。
 例えば、企業と社員という関係もその1つである。10年以上前から企業経営においては社員の短期的な成果貢献や競争などが重視されるようになった反面、社員の企業に対するロイヤリティーや組織の一体感といった側面は軽視されるようになった。社員側も自身のキャリアにとってメリットがあるのかという観点で自社の価値を捉える傾向が強くなっている。企業と社員の関係は、短期的で、お互いに損得基準でしか評価し合えないものになってきているように感じてならない。しかし中にはこのような関係性に強い問題意識を持って、社員と中長期的な関係を築き直そうと取り組んでいる企業もある。ある企業では、社員(管理職は除く)に短期的な成果目標を持たせることを廃止し、経営者と社員がビジョンや価値観を共有し社員の中長期的な貢献を重視することで、10年以上に亘って増収増益を実現している。
 その他にも、自社と取引先、自社と仕入先、部門間、上司と部下など様々な関係性が存在するが、本当にお互いにとって望ましいものといえるのか、改めて企業活動に関わる“関係性”に着目して現状を問い直してみてはいかがだろうか。

モンブラン

Recruit

採用情報

お客様と共に成長し続ける新しい仲間を求めています

Contact

お問い合わせ