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2009.06.15

不況を乗り切る、吉本経営に学べ!

 お笑いブームと言われ、はや何年が経つだろうか。もはやお笑いはブームではなく、日本の文化や日本人の価値観に対して深い影響を与えている様に感じる。その仕掛け役となっているのが、吉本興業(以降、吉本)である。最近のテレビ番組の出演者として、どれほど多くの吉本芸人が名を連ねている事だろうか。現在、多くの企業が苦しい経営を迫られている中で、快進撃を続ける吉本の経営に日本企業の活路を見出してみたい。
現在展開している「ビジネス」の側面と、それを下支えしている「組織運営」の側面から吉本の経営に迫ってみる。

 吉本というと「芸人やタレントのマネジメントをしている会社」というイメージがあるのではないだろうか。ところが、吉本は芸人・タレントマネジメント以外に、テレビ番組や吉本主催のイベントをDVD化したり、ケーブルテレビやネット、携帯電話で動画配信を通じて一度作ったソフトを二度、三度と利用する「コンテンツビジネス」を展開している。ここでは、芸人・タレントマネジメントビジネス、コンテンツビジネスの両者の視点より吉本のビジネスをみてみたい。
 まず、吉本の「芸人マネジメント」に対するビジネスの考え方は、「何でも金儲けの視点から考えろ!」という徹底した商人的視点と言える。年末の風物詩になっているM-1グランプリ(以降「M-1」)がある。これは「漫才の本当のチャンピオンを決める大会を行いたい」という島田紳助のアイディアを吉本が取り上げ、全社を挙げたイベントにしたものだ。「M-1」はただの人気番組というだけでなく、吉本の商人的視点を具現化している。「M-1」の参加者はノーギャラであり、ギャラが発生する出演者は、審査員、司会者、リポーターなど運営者側のみである。しかも参加者はギャラがもらえないばかりではなく、参加費2,000円を払うのだ。4,000組以上の参加者がいるので、参加費だけでも1,000万円近い収入になる。プロが参加する漫才のコンテストで参加費を払わなければならないものは、殆ど無い。アマチュアの大会でも参加費を取るということはあまり聞いたことが無い。
 また、最近では有名になったお笑い養成所NSCの授業料についても「M-1」と同様の事が言える。通常、タレントや芸能人の養成所は授業料をそれほど取らない。会社側が先行投資として、持ち出しで運営するものである。しかし吉本の場合は、希望者はほとんど入学を許す代わりに、専門学校並みの授業料を取ったのだ。
 一方、「コンテンツビジネス」の考え方は、「これまで積み重ねてきた「吉本のお笑い」を、時代にあった供給方法へ革新する」事である。ここで、簡単に当ビジネスについて補足しておく。ここで言うコンテンツとは、吉本が抱える芸人・タレント、または彼らの出演する作品(番組・映画・CM)を指す。放送局や映画会社には、過去に製作した膨大な番組や作品、つまりソフトコンテンツが存在する。だが著作権や肖像権をはじめとする権利意識が高まり是認されてきた今、出演者から原作者、監督、脚本家など、複雑化した利権関係をクリアしなければならない。この様な状況の中で、吉本は複雑化した利権関係にならない様に、自前でコンテンツ制作を行う取り組みを始めている。その一環として、2006年に「ヨシモト∞ホール」をオープンさせた。ここに完備されたカメラが映し出し、配信する映像自体はテレビを意識したものではない。2011年に地上波アナログ放送が廃止になる事で、「視聴者がどんな端末で映像を見るか」または「見たい時に見られるかどうか」が重要になってくる。「ヨシモト∞ホール」のオープンには、いずれインターネットや携帯電話が番組供給の中心に来た時、供給するコンテンツがどれだけ充実しているかで勝負が決まってしまうので、自社で魅力あるコンテンツを開発できる体制構築をしておきたい、という意図が明確に窺える。吉本の起源であるお笑いを効果的に配信する体制を、ユーザーの環境に合わせて虎視眈々と構築している。

 次に「ビジネス」を下支えする「組織運営」について見ていきたい。特質すべき点は、徹底した権限委譲を通じて醸成される「商人根性」と「吉本社員共通のマインド」である。
 吉本では若手社員が大きな仕事を任せられることが多い。入社数年目の社員が、イベントの興行主になることも度々ある。例えば「吉本興業女子マネージャー奮戦記」(大谷由里子著)では、入社2年目の著者が大助花子の結婚一周年記念のイベントを任されるくだりが出てくる。このイベントではなんば花月で行われ、桂三枝や西川きよしなども出演する大がかりなもので恐らく数千万円の費用が掛かったはずだ。それをわずか2年目の社員に任せてしまう。また同じ様な例だが、若手芸人の登竜門的劇場の「baseよしもと」は20代の若手社員が中心になって運営されている。この様に吉本は社員がかなり自由に動く事ができ、思った事ができる環境にあると言える。
「思った事はなんでもやれ、ただし損はするな」
故林正之助元会長は、よくこういう事を言っていたという。社員としては、やりたいと思った事は何でもできるのである。その代わり損得勘定にはうるさく、きっちりしている。この前提には、「金を使っていいもの作るのはアホでもできる」という故林会長の考えがある。つまり、出演料のかからない役者を育てたり金のかからない劇で客を呼べるものを作れ、という事である。しかし、安いものは普通安くしか売れないのでそれを補うために知恵を使え、という事でもある。芸人マネジメントを運営するための「商人根性」は、徹底した権限委譲を通じて醸成されていると言える。
 続いて「吉本社員共通のマインド」について見てみよう。先に触れた「コンテンツビジネス」を取り仕切っている社員の中には、吉本のキャリアパスである芸人のマネジメント経験がゼロの中途社員もいる。多くの現場からの叩き上げ社員は彼らに対して異質な感覚を持っているようだが、「吉本社員共通のマインド」である「お笑い大好き、漫才大好き、吉本大好き」は彼らにも共通なのである。世の中の多くの企業が学歴やビジネススキルの有無を重視する傾向にある中、吉本では同社の社風やポリシーに共鳴できるかどうか、を重視している。また、社員の多くが関西出身者で構成されている事も、「吉本社員共通のマインド」を有するインフラになっているようだ。
 吉本は90年代に入って本格的に東京進出を果たし、全国区の人気を誇る芸人やタレントを抱えるようになって状況は変わってきた。そのため、変容を遂げようとする吉本の今日的解釈を行える人材が必要になり、積極的に中途採用を行ってきた。中には吉本の強烈な考え方に合わず去る者もいたが、一方で「吉本社員共通のマインド」に共鳴し、将来の柱と目される事業展開の中で重責を担っている者もいる。吉本の快進撃のベースには、現場叩き上げの社員と、芸人マネジメントをした事がない様な中途社員がおり、そんな彼らを一つ屋根の下につなぎとめている要素として「吉本社員共通のマインド」があると言えるだろう。

 我々は仕事に就く前提として、自らが対峙するビジネスへの興味を少なからず持っているはずだ。自身が持つビジネスへの興味が日々の組織運営や業務運営の中で増長され、従事するビジネスへの想い入れやマインドへと昇華する。この想い入れやマインドこそが、企業が様々なビジネスを展開する上で原動力になる。吉本のビジネスは「芸人マネジメント」の領域における「商人根性」を前面に出した側面と、一見泥臭い企業イメージからは想像し難い様な緻密なビジネス展開をしている側面がある。この前提には、「お笑い大好き、漫才大好き、吉本大好き」という全社共通するマインドがあり、それらが吉本のビジネスの2つの側面を確実に繋ぎ合せる接着剤になっている。企業活動におけるビジネスの側面は、環境変化にデジタルに反応し展開していく傾向が強いが、そこに従事する社員のマインドを強化するのは容易ではない。吉本は、日々の組織運営の中で過去から大切にしてきたマインドを社員の毛穴から染み込む様に伝え続ける一方で、新卒・中途社員採用の最重要事項としてきた。つまり、「芸人マネジメント」の領域を超越し、今までに無いビジネスを展開する一方、その原動力となる社員の想い入れやマインドを、外部の人材を取り込みながらも強化する事を忘れてはいなかった。昨今の急激な環境変化の中で、各企業はデジタルにビジネスを展開していく事と同時に、その原動力となる社員のマインドを強化する事の「2つのバランス」を如何にとって行くかが重要になってくるのだ。
 今後の自社経営に活路を見出す上でも、今一度自社における「2つのバランス」の現状について、振り返ってみてはいかがだろうか。


 

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