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2009.05.20

エコポイント制度に見る目的と手段(政策)の不整合

 5月15日から、エコポイント制度が開始された。先週末は、TVなどの報道はもちろん、新聞の折り込み広告で入ってくる家電量販店の広告でも、このキーワードを目にした機会が多かったことだろう。

 このエコポイント制度だが、正しくは「エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業」といい、「地球温暖化防止」、「経済の活性化」、「地上デジタル双方対応のテレビの普及」の3つを目的に、日本政府が実施した制度である。具体的には、省エネ効果が高い機能のエアコン、冷蔵庫、テレビ(但し、地上デジタル放送対応機種のみ)を購入した際に購入者にポイントが付与される、というものだ。ここまで聞くと、よくある家電量販店のように購入した際の数%がポイントとして貯まり、次回の買い物の時に、現金と同様に使えるものと同じものかと思ってしまうが、実はそうではない。

 このエコポイント制度は、5月15日からスタートはしたものの、ポイントの具体的な使用方法は、まだ決まっていないのである。今決まっているのは、先ほどの3つの家電の中で、どの機種を購入したらいくらのポイントが付与されるのか、ということと、平成21年5月15日~平成22年3月末までに対象製品を購入した場合のみ、ポイントが付与される、ということだけである。しかも、ポイントが決まったのは5月12日というスタート直前で、ポイントをどのように貯めておくのかの手段、つまりシステムのようなものはない(よくある、「***ポイントカード」のようなものは存在しない)。今は、購入した際に発行される領収書と家電の保証書を大事に取っておかなければならず、この時点でいざポイントを使用する時になって、人の手による確認が必要になるなど混乱が生じる事が容易に想像できる。そして、肝心のエコポイントが、何に使用できるか、という点だが、これはまだ決まっていない。(決まっているのは、一応、「省エネ・環境配慮に優れた商品」、「全国で使える商品券・プリペイドカード(環境配慮型のもの)」、「地域振興に資するもの」のいずれかに該当するものと交換できるようにする、ということまでで、具体的なことは決まっていない)
 そもそも、このエコポイント制度は、平成21年度の補正予算案の中で財源が確保されているものだが、この補正予算自体が5月15日時点で成立していない。5月13日の衆議院本会議で可決されただけで、参議院での審議はこれから。ご存じの通り、今の「ねじれ国会」の状況化では、最終的に補正予算が成立するのは、もう暫く先のこととなるのは間違いない。これだけ決まっていなければならないものが、決まらないまま運用が開始されるのだから見切り発車もいいところだ。もともと当初の予定では、開始は7月以降であり、その予定通りであれば、ポイントのシステム化など運用面を除けば、今決まっていないことも決めてからスタートできたことだろう。

 では、これだけ決まってない事だらけで、なぜこのような見切り発車をしたのか。その理由の一つには、消費者の購買促進を目的の1つとしていたものの、エコポイント制度が発表されたことで、逆に「エコポイント制度」がスタートするまで、消費者が買い控えることを懸念して、約二カ月もの前倒しスタートとなったようである。これには、この不況下で苦しむ電機業界、家電量販店などからの強い要望があったこことも想像される。当初より、目的の1つに経済効果を掲げている以上、前倒しでスタートする事を選ぶことには反対はしないが、未決定事項の決定も前倒しするといったこともなく、ただスタートだけを前倒しするのは、随分と乱暴で稚拙なやり方と言える。
次に考えられるもう一つ理由だが、結局は選挙対策だったのではないか、ということだ。というのも、エコポイント制度のスタートが5月15日と発表されたのは、4月10日に政府が出した経済危機対策の中でのことであり、まだ「衆議院解散はいつか」と、報道で騒がれていた頃でもある。それらを考えると、次期衆議院選挙を見据え政権継続への布石として投じられた、「定額給付金」や「高速道路1000円定額」に続く、第三のばらまき政策だと言える。

 最近の政府の経済対策は、選挙が近いせいもあってか、国民に対して直接的に利益を与えるものが多く、このような「ばらまき」的なパフォーマンスが優先されているように思えてならない。もちろん、国民に対して直接的に利益を与える政策が、直ちに手段として悪いとも、経済効果がないとも言わない。しかし、見る限り対症療法的なその場しのぎの政策ばかりで、あまり浅慮なものに見える。例えば、「定額給付金」も規模が異なるとは言え、過去の「地域振興券」と同様にこの不況下では大半が貯蓄に回って期待されるほどの効果はないのではないか、と考えられるし、「高速道路1000円定額」にしても、平成23年3月末までの期限付きの政策であり、利用者を増やす為にとりあえず実施してみた、という感が否めない。また、適用先を自家用者に限定したことで、商用ドライバーからは、全く恩恵がない上に土日は渋滞に巻き込まれる羽目になる、といった不評の声も一部では上がっている。そして、ここにきて準備不足で見切り発車のエコポイント制度である。このエコポイント制度も、地上デジタルテレビの普及が目的の一つである為か、2010年3月末までの期限付きの政策であり、そこから先の「地球温暖化防止」、「経済の活性化」は、どうなってしまうのか?と言いたくなる内容である。
 確かに、この不況下で、国民の消費行動を促すような政策が必要であることは十分理解できるが、大金(税金)を使った一時しのぎばかりが必要な政策ではない。例えば、本当に必要なの政策として考えられるものに、仮にこの不況がこのまま続くことになった場合、また将来同じような経済状況に陥った場合に、今起きている雇用問題などへの対策を講じる事が挙げられるだろう。また、そもそも政策は目的達成のための手段であり、目的が明確で手段が適切でなければならない。それにも関らず、エコポイント制度は見切り発車でスタートしている上に、目的の1つである「地球温暖化防止」に対しては、期限付きの一時的な施策で終わってしまうものになるなど不十分だといえる。本当に「エコ」を目的とした取り組みを行うならば、継続的な仕組みとして残るポイント制度とするか、そもそも省エネ製品の購買(使う)を促進するだけでなく、本当の意味での省エネ(無駄に使わないこと)を促進する為の施策を考えるはずである。

 いずれにしても、遅くとも今秋には任期満了となり、衆議院選挙が行われる。野党第一党の民主党も、不祥事がきっかけとはいえ、5月16日に新党首が誕生し(新鮮さは感じないが)、挙党体制で政権交代を狙うという。選挙が近付けば、各党からマニフェストが公開されることになるだろう。実は、これまでは報道を通して、一部の内容を見聞きするしかなかったのが、今回は各党のマニフェストを真剣に読んでみようかと思っている。その中で、本当に将来の日本を憂い、きちんと形として残る政策を考えているか、何を目的としてどのような政策(手段)を考えているのか、政策(手段)の対象が適切で、時期や予算もちゃんと考えられたものになっているか、などを判断しながら、自らの一票を投じたいと考えている。皆さんも、次の選挙ではマニフェストを読み込むまではしなくとも、将来の日本を考えて今をどうするかを考える政党・政治家がどこにいるか、改めて見極めてはいかがだろうか。


 

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