2026.09.07
AI時代のコンサルタントの価値
生成AIの台頭とともに、「コンサルは不要」という言葉を目にする機会が増えた。
YouTubeやSNSのコメント欄を眺めていると、「コンサルに何か恨みでもあるのだろうか」と思うほど、「AIがあればコンサルはいらない」という意見が並んでいる。その主張には一理ある。なぜなら、コンサルタントが多くの時間を費やしてきた情報収集、論点整理、仮説構築、資料作成は、生成AIによって急速に効率化されているからだ。公開情報を調べる。文章を要約する。データの傾向を捉える。論点を整理する。仮説をつくる。資料のたたき台をつくる。
かつて何時間もかけていた作業を、AIは短時間で支援できるようになった。
「情報を集め、整理し、一定水準のアウトプットをつくる」ことの希少性は、確実に下がっていく。それでも、コンサルティングという仕事がなくなるとは思わない。
AI時代のコンサルタントの価値とは。この問いを考えるために、まず本稿でいうコンサルティングを整理しておきたい。コンサルティングとは、企業が抱える問題を定義し、解決策を示し、実行を支える仕事である。この3つのうち、AI時代に人の価値がより問われるのは、「問題を定義すること」と「実行を支えること」だと私は考えている。では、「問題を定義する」とは、そもそもどういうことなのか。
目の前に起きている現象をそのまま問題と捉えるのではなく、その背景にある事情を踏まえ、本当に解くべき問題を見極めること。そして、その出発点になるのが、「まだ情報になっていない文脈を捉えること」だと私は考えている。AIが扱える情報の範囲は、文章だけでなく音声や映像にまで広がっている。しかし、企業が抱える問題の背景にある文脈は、最初からすべてが取得され、AIがアクセスできる情報になっているとは限らない。まだ情報になっていない文脈が、現場にはある。ここに、人が現場に入る意味がある。
まだ情報になっていない文脈
ヒアリングの場に同席していて、気づくことがある。
ある部門の施策が、現場でなかなか進んでいなかった。現場へのヒアリングでは、誰もが「必要だ」と答える。しかし、実際に使われるかは別だった。「必要です」という言葉は、賛成と実行を意味しない。発言をそのまま記録すれば、「現場も必要性を認識している」と整理できてしまう。別の場面では、複数の部門で足並みを揃える必要があった。総論として反対する人はいない。しかし、各論になると進まない。こうしたとき、答えを引き出そうとするより、答えていないときを見ているほうが分かることがある。
ある部門の名前が出た瞬間に、それまで饒舌だった人が言葉を選び始める。特定の発言に、別の人がわずかに表情を変える。上司が同席する回としない回とで、語られる内容が変わる。会議室に流れる空気の重さ、声のトーン、微妙な間、視線や表情の変化。こうしたものは、通常の議事録には残らない。しかし、その場にいる人間は五感を通してそれらを受け取っている。もちろん、それだけで何かを断定するわけではない。あくまで違和感の入口である。
その場にいたからこそ
「今の間は何だったのか」
「なぜこの話題だけ空気が変わったのか」
と問いを持つことができる。
これは、AIに間や表情、声のトーンを読み取る能力がないという話ではない。録音・録画された情報であれば、AIもそれらを分析できる。今後、精度はさらに上がっていくだろう。
重要なのは、間や表情そのものではない。その違和感を起点に問いを立て、その場でもう一歩踏み込めるかどうかである。そして、何が語られ、何が表に出るかは、その場に誰がいるかによって変わる。上司が同席する回としない回とで語られる内容が変わるように、聞き手との関係そのものによって、得られる情報が変わることがある。
会議にAIが同席し、やり取りを記録することは、すでに珍しくない。AIが同じ相手に問いを重ねることもできるだろう。ただ、人と人との対話では、問いを重ねる過程で、聞き手と相手の関係そのものも変わっていく。一度目に聞けなかったことを、二度目に聞く。二度目の答えと食い違う話を、三度目に確かめる。そのあいだに、相手の側にも「この人は何を聞きたいのか」という理解が積み上がっていく。一度目のヒアリングでは出なかった言葉が、三度目に出ることがある。会議中には言えなかったことが、その後の何気ない会話でこぼれることもあるだろう。問いを重ねることで情報が増えるだけではない。関係が変わることで、初めて語られることがある。人との関係性の中にいるからこそ、語られる文脈がある。コンサルタントは、こうした現場でのやり取りを重ねながら、違和感を問いに変え、複数の人の話を突き合わせ、個人の言葉を組織の課題へ翻訳していく。AIに渡すべき文脈は、最初からデータとして存在しているとは限らないのである。
見えている問題と、本当に解くべき問題は同じとは限らない
そして、こうした文脈を捉えることが重要なのは、それが単なる補足情報ではないからだ。どのような文脈を踏まえるかによって、「何が問題なのか」という捉え方そのものも変わる。同じ現象が起きていても、その背景が違えば、原因の捉え方も、取るべき解決策も変わる。
この違いを考える上で、参考になる考え方がある。宇田川元一氏の『他者と働く』では、「技術的問題」と「適応課題」という考え方が紹介されている。「技術的問題」とは原因を特定し、既存の知識や手法を用いることで対処できる問題である。一方、「適応課題」は人々の関係性や、それぞれが持つ前提の違いなどから生じ、正しい答えを提示するだけでは解決できない問題である。たとえば、新製品がなかなか売れないとする。開発部から見れば、新製品が売れないのは営業部の商品理解が不足しているからだと見えるかもしれない。であれば、より詳しい資料をつくり、説明の機会を増やせばよい。問題が情報不足なのであれば、合理的な対処である。しかし、営業部には営業部なりの事情がある。既存製品のほうが売上の見込みを立てやすい。一方、新製品を売るには新たな説明や顧客開拓が必要になる。日々数字を求められる営業部からすれば、新製品に時間を使うこと自体がリスクになる。だとすれば、問題は単なる商品知識の不足ではない。開発部と営業部では、同じ新製品を見ていても、見えている景色が違うのである。「施策が現場で使われていない」という現象も同じだ。マニュアルが分かりにくいだけなら、マニュアルを改善すればよい。しかし、背景に部門間の利害や過去から続く相互不信があるのであれば、マニュアルを何度直しても問題は解決しない。表面に現れる現象は同じでも、問題の性質が違えば取るべき打ち手はまったく変わる。だからこそ
「これは本当に情報不足なのか」
「なぜこの人たちは動かないのか」
「表面に出ている問題の奥に、別の問題がないか」
と問い直す必要がある。十分な文脈を与えれば、AIも「これは単なる情報不足ではなく、部門間の利害の問題ではないか」といった仮説を提示できるだろう。問題は、AIに分析する力があるかどうかではない。その一歩手前にある。AIに渡すべき文脈を、誰が見つけるのか。本人の中でもまだ整理されていないものを、どうやって情報として立ち上げるのか。『他者と働く』が挙げるのは、対話である。ここでいう対話は、話し合いの技法ではない。自分に見えている景色をいったん脇に置き、相手には何が見えているのかをつかみ、その隔たりに橋を架けていくことを指す。開発部が営業部の事情を知り、営業部が開発部の意図を知る。その橋がかからないまま資料だけを増やしても、問題は動かない。AIが既に存在する情報を処理する力を高める中で、その前段階にある「何を情報として捉えるのか」の重要性は高まっていく。
実行して初めて見えるもの
ここまで扱ってきたのは、すでに現場に存在しているが、まだ情報になっていない文脈だった。しかし、実行することで初めて見えてくるものもある。
課題が分かり、解決策も分かった。それでも会議では合意していたのに、現場では動かない。施策を始めてみると、想定していなかった抵抗が生まれる。進めてみて初めて、別の部門との利害が表面化することもある。実行する前には見えていなかった問題が、実行することで初めて見えてくる。だから、コンサルタントは答えを出して終わりではない。
実行の中で起きていることを見ながら「なぜ動かないのか」を考える。そして必要であれば、最初に置いた問題そのものを捉え直していく。
問題を捉える。解決策を考える。実行する。そこで新たに見えたものを踏まえて、また問題を捉え直す。この繰り返しによって、本当に解くべき問題に近づいていく。また、実行の場面では、人が関わること自体が意味を持つこともある。AIからどれほど腑に落ちるアドバイスをもらっても、それを実行するかどうかは別の問題だからだ。
「次回までにここまで進めます」と人間に対して伝えることによって、実行への緊張感やコミットメントが生まれる。人との関係が、行動を後押しすることもある。
価値の重心が移る
AIによって、コンサルタントの価値がなくなるのではない。価値の重心が変わるのだと思う。冒頭に置いた3つに戻りたい。問題を定義する。解決策を示す。実行を支える。この3つの仕事そのものがなくなるわけではない。ただ、その中でコンサルタントが価値を発揮する場所は変わっていく。すでにある情報を集め、整理し、答えの形にすることは、AIによって急速に効率化されていく。その一方で、まだ情報になっていない文脈を捉え、「何を解くべき問題と定めるのか」を考えること。そして、実行して初めて見えたものを拾い直し、問題を捉え直すことの重要性は高まっていく。つまり、価値の重心が移るとは、「すでにある情報から答えをつくること」から、「まだ情報になっていない文脈を捉え、何を問題と定めるか。そして実行の中で何を拾い直すか」へ、コンサルタントが力を置く場所が変わるということである。
三度目に出た言葉も、橋を架けて初めて見えた相手の事情も、動かしてみて表面化した利害も、誰かがそこに関わらなければ、情報にならないままだった。人が関わることで、それまで見えていなかったものが、情報として立ち上がる。ここにAI時代におけるコンサルタントの価値があると考えている。
私自身、現場に身を置き、違和感を問いに変えながら、まだ情報になっていない文脈を捉えられるコンサルタントでありたい。そして、理解して終わるのではなく、自分が関わることで「この人となら進められそうだ」と思ってもらえる存在でありたい。
AIに渡すべき文脈を見つけ、AIの力も借りながら、それを人と組織の変化につなげていく。願わくば、自分という存在そのものが、人と組織が動き出す最初の揺らぎになれたらと思う。
hs_ymd
参考:宇田川元一『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』