2008.07.08
企業での自主的活動の成功の秘訣とは
6月1日より、トヨタ自動車は業務改善のために実施している「品質管理(QC)活動」に対して、これまで最大月に2時間分しか支払っていなかった残業代を全額支払うことになった。この背景には、昨年12月に名古屋地裁が、同社工場の従業員の急死を過労死と認定し、QC活動も「使用者の管理のもとに行われた業務」だと判断したことがある。QC活動は、1960年代に始まった現場力の基盤をなす活動で原則全員参加ではあったが、あくまで「個人の自主的活動」と位置付けられてきた。しかし、名ばかり管理職への残業代の不払いを始めサービス残業が社会問題化する中で、方向転換を迫られたということであろう。確かに、時間外労働に対する報酬の不払いは、違法行為であり、企業で原則義務化されていた活動が業務と認定されることに異論はない。だが、この事例を見ても、企業において成果を出した自主的な活動を、組織に展開・定着させていくことの難しさを痛感する。 そもそも企業の中で、「小集団活動」や「グループ活動」と呼ばれる類の活動は業務改善や業務の生産性向上に貢献するために、あくまで自主的に、高い問題意識のある人が取り組んできた。そこで成果をあげることで、達成感や他の従業員との一体感、企業への帰属意識が醸成されてきた。しかし、この自主的な活動の輪を組織に広げ、「やることが当たり前」の状態を作ろうとすると、途端に問題が発生する。ひとつには、業務の問題は「特別な活動」を行わずとも、通常の業務中に解決を図っている人はいる。そのような人にとっては、改めて「カイゼン」活動への参加要請をされると、違和感を持つだろう。かたや、業務改善に対する問題意識のない人に活動を義務化すると、やらされ感から活動自体が形骸化してしまう。 また一方で、若手社員の問題意識を発端に企業の現場で自主的な「勉強会」が行われている光景を目にすることもある。営業部での商談のロールプレイングや提案事例の研究、部門横断で若手が集まり生産性の高い組織連携の在り方を検討するといったものだ。これらには、業務外の時間を使うことを惜しまないモチベーションの高いメンバーが参加していると考えられる。しかし、多くの場合、勉強会は組織の中で活動が認知され、成果を出す前に自然消滅しているようだ。一度はその場で盛り上がっても、日常の業務との兼ね合いで優先順位が下がることはある。あるいは、何かしらのアイディアを出しても、周囲からクオリティの低さを指摘され、実現できない場合もある。いずれにしても、ただ集まっているだけでは「部活・サークル」的な位置づけを超えて成果を出すことは難しい。 このように、自主的な活動で成果を出し、それを組織に還元するにはいくつもの難所がある。しかし、現場の社員の自発的な問題意識に基づいた活動が、企業にとってはイノベーションのきっかけとなり、ひいては競争優位の源泉になる。また、社員の視点に立てば、業務で問題意識をもったテーマを深掘りする機会など、新たな仕事の意味付けを発見し、業務に対する関心が高まる。では、どのようにして、会社組織において自主的な活動を生み育てればよいのだろうか。もちろん会社の組織や風土に依存する部分はあるが、失敗しないためのチェックリストとして条件を考えてみたい。 まず、自主的な活動が現場の問題意識を元に芽吹く段階ではどのような取り組み方が必要になるのだろうか。第一には、活動の目的や取り組むテーマを明確にすることである。但し、これは、たとえば営業部において、「提案力を強化する」といった誰でも賛同するような抽象度の高いテーマよりも、個別具体的なテーマがよい。営業であれば、「商談で役立つ事例紹介の仕方」といったテーマが考えられる。そして、活動初期の段階では、そのテーマに本当に取り組みたい人だけを巻き込むことが必要だ。テーマに取り組みたい人が集まったら、その活動のゴールとして何を達成できたら成功とするか決定する。ゴールを明確にしておけば、何をやっているかを参加者が見失うこともなくなる。そして、最初に設定したゴールを達成したら、改めて次なる目的を設定し、活動を継続していく。この目的・ゴール設定から活動への取り組み、成果の確認、再度の目的設定のサイクルを回すことで、小さな成果を積み上げて最終的に大きな成果を生み出すことができる。業務の現場においては少々面倒と思われるかもしれないが、このサイクルが回っているかを検証することがその活動が成果実現に向けて機能しているかを確認する機会になるのだ。さらに、別の観点で言うと、現場での自主的な活動のテーマに関心をもってくれる上司や社内の専門家をアドバイザーに迎えることも、活動の方向性を確認することも自己満足の活動で終わらせないためのしかけの一つになる。 次に、そういった自主的な活動を支援するために、組織は自主的な活動をどう受け入れればよいのだろうか。自主的活動の初期段階においては、その活動を黙認しておくのがよい。間違っても、「そんな時間があったら業務をやれ」などとプレッシャーをかけてはいけない。そして、自主的な活動が成果の兆しを見せ始めたら、初めて介入の機会が訪れる。そこでは、上司や組織のキーマンが、その取り組みが会社にとってどのような意味見出す可能性があるのか、参加者に気づきを与え、導くことが期待される。また、その活動が危機や問題にぶつかったときは、その阻害要因を取り除くのを支援し、あくまでプロセス面での援助を行うことが大切だ。上司などがテーマに具体的に介入すると本人は意図せずとも答えを与えてしまい、参加者の発想を制限することになりかねない。さらに、活動の成果がみえないで停滞を迎えた場合には時にはクールダウンの機会として、活動のスピードを落とすことを勧めるのも成果創出に貢献する。このような活動の主体者と会社・組織側のサポーターの連携があれば、問題意識を解消する場が企業の中に創造される可能性は、今よりも高くなるのではないだろうか。 自主的な活動の生まれる場作りのために、サークル活動と銘打って会社が社員に参加を呼びかける場合もあれば、新規事業などの提案制度を導入する企業もある。あるいは、そういった自発的な行動の有無を人事考課で査定するケースもあるだろう。しかし、どんなに制度を充実させても「褒められる」「インセンティブがもらえる」という外発的な動機付けだけでは、自発的な取り組みを組織の中で生み育てるのは、難しい。日常的にどうやったら業務の生産性や効率性を上げることができるのか、社員同士はもちろん、現場と経営とが対話を繰り返し、問題意識を交換し合える組織風土作りを行うことが必要になる。 人は、自ら取り組みたいテーマに熱中しないかぎり充実感を味わうことは難しい。企業の現場において、自発的に問題意識をもつ人が増えること。そして、その問題意識を発展させ、組織の中で新たな価値を生み出すサイクルがまわせる企業が増えることを期待したい。 スパイラル