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2025.08.04

転売=悪?

 マクドナルドで、子供向けの商品のハッピーセットについてくる人気キャラクター「ちいかわ」のおもちゃを高額転売するために、大人がハッピーセットを大量購入し食事は残して帰るというニュースがあった。高額転売の対象は、スニーカー、アーティストのライブチケット、限定フィギュア、家庭用ゲーム機、ブランド品など、多岐に渡っている。中には定価の10倍もの値段で取引されるものもある。

 そんな中、高額転売対策として販売時に厳しいルールを設ける企業も出てきた。直近だと2025年6月5日に発売された任天堂Switch2のルールが有名だろう。高額転売防止のための抽選応募ルールとして①25年2月末時点でのSwitchプレイ時間が50時間以上②有料のSwitchオンラインに加入しており、かつ累積1年以上加入実績あり、という内容で、誰でも抽選応募できるものではなく、これまでプレイしてきて本当にゲームをしたい人の元に渡るように売りたいという企業側の思いが見てとれた。このような出来事があると、転売ヤーは高額転売をして本当に欲しい人の邪魔をしているようにうつり、SNSなどでは転売ヤーが悪のように叩かれることが多いが、それでも高額転売がなくならないのはなぜか?そもそも転売ヤーは本当に悪なのか?高額転売が起こる構造と経済学と、高額転売を悪に感じる消費者心理の2つの観点から分析してみたい。

 

 まず、転売行為には2種類ある。1つは単純に仕入れたものを他者に売ることで小売店はどこでもしていることであり、悪意がある転売ではない。もう1つは、需要に対して供給が追いついていないものを買い占め、本当に欲しい消費者は入手困難となり高額で転売をされることである。本コラムでは後者を“高額転売”とし、分析する。

 なぜ高額転売が起こるのか?これは、シンプルに需要に対して供給が少ないからである。人気アーティストのライブチケットであれば、人気であればあるほど需要は高まるのに対し、会場のキャパシティは決まっているため、供給数にも限界がある。ゲームなどは生産の関係で工場のキャパシティがあるため、こちらも供給が追いつきにくい。販売数や販売期間に制限のある限定品やコラボ商品なども供給に対して需要が高まりやすいため高額転売が起こりやすい。

 ただ、定価に対して高い金額を転売ヤーが設定しても購入する消費者がいるということは、その価格帯が“正規より高い金額を払っても何が何でも手に入れたい層”の需要と、“高額転売ヤー”の供給が一致する均衡価格といえる。一見すると、高額転売により価格が一部高騰することは、需給バランスによって価格が調整されるという市場の自然な動きにも見える。経済学的には、「最も高い価値を感じる人(高い価格を支払う人)」に商品が渡るため、理論上問題ないように見え、そのため、経済学者の髙橋洋一氏は「転売は非難されることではない。」と明言している。実際、転売ヤーからの高額購入によってメリットを感じている人も一定数いるはずだ。例えば、人気商品の購入列に早朝から自分で並ばずに済んだり、ライブチケットの場合、通常は座席不明だったのが、座席が明らかになって良席とわかって購入できたり、中身が見えないタイプの商品だった場合、狙った商品かどうかが分かった状態で購入できたりする。高額でも良いから手に入れたいという消費者としては、それらの付加価値を購入していると考えることもできそうだ。

 しかし、実際には、企業が長期的な利益や製造コストなどから本当に必要な消費者たちに渡るように考え抜いた適正価格よりも大きく上昇した価格で高額転売され、本当に必要な消費者に届かなくなったり、企業にとってのブランド価値の低下や、長期的な利益機械の損失へのリスクも高額転売にはある。先ほど挙げたチケットの高額転売も防止のために法規制がなされたり、厳重な身分証明により転売チケットは入場不可になる場合も多い。このように情報の非対称性などにより必ずしも合理的な取引とは言えないケースも少なくはない。つまり、経済学的にみても、単純な需給の論理だけでは片づけられない「市場の歪み」が高額転売には存在する。

 

 では、経済学の構造的には理論上問題ない部分もあるとされるものの、高額転売をする転売ヤーは嫌われ、悪だと感じる人が多いのはなぜか?

まず第一に思い浮かぶのは「不公平感」ではないだろうか。本来であれば、手に入るはずだったそれが、転売ヤーたちに金儲けの道具として購入され、本当に手に入れたい消費者は、本来手に入るはずだった金額より上乗せしないと手に入れるのが難しくなるという現象が起こる。「転売ヤーがいなければ定価で手に入ったのに」と思ってしまうのは仕方のないことかもしれない。この気持ちは最初、転売ヤーに向けられるが、その後は企業に向けられると考える。転売ヤーに好き勝手させている企業側はなぜ対策をしないんだ?なぜ本当に欲しいと思っている人に手に入るようにしないんだ?と。そうなると、そのブランドやアーティストやキャラクターのファンだった人が離れていってしまい、企業の長期的な利益や価値の毀損に繋がる。

 次に、「倫理的な違和感」もあるだろう。転売ヤーたちが買占め、高額転売をするという流れは、他人の欲求を利用して利益を得るという搾取の構図になり、道徳的に嫌悪されやすい。高額転売している転売ヤーに対し、消費者が支払う余剰分は、実際に販売している企業にはもちろん1円も入らないため高額転売ヤーが中抜きしていることになり、横取りの印象もあるため嫌悪感があるのだ。
 

 冒頭の任天堂switch2の抽選応募ルールにもあったように、高額転売対策を行う企業は増えている。高額転売対策をしないことは、消費者との信頼関係が崩れ、ブランド価値の毀損につながる。そのため、アニメ作品のグッズ購入列に並んだ際に、作品に興味のない転売ヤーでは言えないグッズの正式名称を言わせたり、なぜその作品が好きなのかを言わせたり、その場でパッケージを開けさせて新品として出品できないようにさせる対策もある。企業側も高額転売をさせないように、本当のファンとして愛してくれている人たちに届けたいという思いがこれらの対策から見て取れる。

 冒頭のマクドナルドの「ちいかわ」グッズは、定価では1つあたり510円であるのに対し、国内フリマアプリでは4種セットで3000円程度で出品され、単純計算で約5割増になっている。海外ではさらに高く、日本限定と記載し4種セットが30~70ドル台(約5000円~1万円)で出品されたようだ。このように日本の商品が海外でより高く転売されることはある。実際に、2020年にソニーが発売したPlayStation5では、海外転売が多かった。任天堂switch2も同様の海外転売が発生する懸念があるが、任天堂は「日本語・国内専用モデル」と「多言語対応モデル」の2種類を販売しており、これにより日本で購入して海外で転売されることを防ぐことができているのだろう。

 任天堂の初代switchのピーク時の転売率は3割で中国への流出が主だったが、今回のswitch2は転売対策を実施したことで、転売率は5%前後との予測となり、初代switchと比較し大幅に低下するとみられている。このように企業側の対策により、ある程度営利目的の高額転売を防ぎ適正な市場を守ることの1つの証明になったのではないだろうか。

 

 では、営利目的の高額転売は今後どうなっていくのか?私は、高額転売を取り締まる法律がない限り、たとえ定価より高額であっても購入する消費者がいるならば、高額転売はなくならないと考えている。「本当に欲しい人が適正な価格で手に入れられるように」という意識を持って、不正な高額転売商品には手を出さない選択をすることは、単なる自己防衛ではなく、健全な市場と文化を守るという消費者一人ひとりの小さな一歩だ。高額転売は、需要と供給のすき間に生まれる現象だが、そのすき間を埋めるのは、経済だけではなく、私たちの価値観や選択でもある。未来の消費をよりフェアで心地よいものにするために、私たち自身も「どう買うか」を問い直す必要があるのではないだろうか。 

雪うさぎ

参考文献

「チケット転売」は本当に悪か?経済学的にはどう考えてもOKです

https://gendai.media/articles/-/49569?imp=0

Switch2の転売率「5%前後」予測も 任天堂・量販店の対策に効果

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC19AIZ0Z10C25A5000000/

マック「ちいかわ」グッズに70ドル、アニメ人気で海外転売相次ぐ

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC233CC0T20C25A5000000/

「PS5」転売で海外へ 円安で割安感、差益狙う

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO64019890S2A900C2QM8000/

 

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