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2008.06.21

アテンションの罠にはまらない “V字型” アプローチ

 最近、書籍が散乱し、我が家のスペースを侵食しはじめていると、妻によく小言をいわれる。整理していると、この3ヶ月間で60冊以上も書籍が増えていることに気づいた。その多くは、アマゾン・ドット・コムで自分が調べたいキーワードを入力し、購入したものだ。それはわれわれが無意識のうちに当然としている情報収集のスタイルだが、その狭い網に引っかからない膨大な情報について考えたことがあるだろうか。情報洪水に溺れないために、自己のアテンション=注意・注目を効率良く管理すればするほど、取り入れる情報の領域はアテンションを注ぐ事柄に限定される。その結果、ある特定の見方を唯一・普遍的なものと見誤る可能性がある。日々、膨大な情報が発信されるなかで、自己のアテンションの罠にはまらないために何が必要なのかについて考察したい。

 情報発信量の激増は、情報を生み出す発信者に大きな影響を与えている。これは、数年前に話題になったアテンションエコノミーという概念から読み取れる。アテンションエコノミーとは、人々のアテンションが情報量に対して限られているため、その価値が上がり、交換財となりえる社会を定義した言葉だ。このような社会の中では、情報発信者は限られた人々のアテンションを如何に獲得するかという競争にしのぎを削る。情報の質や正確性ではなく、如何に人々のアテンションを引くことができるかが重要となる。アテンションを引きつけることができなければ、その情報ははじめから無かったものとして見過ごされてしまう。現代の情報発信者にとって第一に必要なのは、「アテンションを引くこと」であり、「内容」はその次の段階となる。

 一方、われわれ情報の受信者には、なにが問われているのだろうか。人が情報の存在を意識し、それをもとに行動するまでにはいくつかの段階がある。第一にその存在を知ること(=知覚)。第二に注意・注目すること(=アテンションを注ぐこと)。あふれる情報の中から、人の意識に残ることができた情報には、第三段階として意味づけや解釈が施される(=認識)。そして第四段階で、その認識をもとに特定の行動が喚起される。自己のアテンションの罠に陥らないために受信者が重視しなければいけないのは、第三段階の意味付けや解釈である。情報を広く取り入れ、多面的な視点から情報(ある特定の見方)を見極めることが重要であり、情報の「認識力」が問われているといえよう。

 認識力を高めるには、対象領域を広く捉え、中心となる特定分野に近いほど、深く掘り下げ、各情報を紡いでいくスタイル=V字型アプローチが有効だ。これによって、特定分野の情報を新たな視点で捉えることができるようになる。過去においては、一つの事柄を集中的に掘り下げるスタイル=I字型アプローチが有効だったかもしれない。しかし、現代においては、1つの事柄を掘り下げようにもあらゆる領域でボーダレス化が進んでおり、境界を明確に線引きして、ある領域を切り取る行為自体が無意味になってきている。物事の本質を見極めるためには、多面的な視点を持つ事が不可欠であり、V字型で情報を紡いでいく事が必要ではないだろうか。

 例えば、各企業で最近よく話題になる組織のコミュニケーション不全の問題を考えてみよう。書籍やインターネットでコミュニケーション問題を検索すれば、様々な見出しをつけた情報が何万件もヒットする。その多くは管理職のコミュニケーションスキルを問題視している。管理職は組織の連結ピン(組織のコミュニケーション上の基点)といわれることからも、管理職を組織のコミュニケーション不全の問題要因と考えることは理に適っている。しかし、彼らのスキルが問題としただけでは、問題の本質は見えてこない。コミュニケーションを阻害する要因として、組織を取り巻く変化を捉えれば、中途採用者や派遣・契約社員、外国人、高齢労働者の増加など、仕事や組織に対する動機や考え方の全く異なる人々が同じ組織に属するようになっている事がわかる。すなわち、暗黙知を前提とした、曖昧な表現で互いの言葉の意味を確認せずとも分かりあえた、過去の組織環境とは大きく変化し、コミュニケーションの難易度が高まっているとうことだ。さらに、コミュニケーションを阻害する要因を個人の観点から捉えれば、数十年間も毎日あらゆる場面で行ってきたコミュニケーションに、なぜ人は問題を抱えているのだろうかという疑問が湧いてくる。これは、車の運転などでもそうだが、人はある程度までスキル化されると無意識領域の行動が大半を占めるようになり、学習や成長に繋がる意識領域の行動が極端に少なくなるためである。つまり、個人にとって、コミュニケーション問題は、長年にわたって無意識層に追いやられている問題であるという見方ができる。こういったことを踏まえて組織のコミュニケーション不全の問題を考えると、管理職のスキルが低いという事ではなく、組織のコミュニケーションレベルをこれまでと同じレベルに維持するためだけでも、管理職には過去よりも高いコミュニケーションスキルが要求されていることがわかる。しかも、多くの人はコミュニケーション問題を無意識層に追いやってしまっているため、何も手を打たなければ、組織のコミュニケーション不全の問題はさらに進行していくものと考えられる。このように、中心となる「管理職のスキル問題」の周辺情報を捉える事によって、新たな視点が加わる。さらに、中心となる領域からは遠くなるが、広く個人を取り巻く社会の変化(ネット社会の進行やコミュニケーション媒体の多様化)などを捉えていくことによっても、新たな視点で問題を捉える事に繋がるだろう。

 V字型で情報を捉える事は、情報認識力を高め、ある特定の見方を唯一・普遍的なものと見誤る可能性を抑えることにつながる。V字型アプローチは、アテンションの無駄づかいで非効率に感じるかもしれないが、情報を見極める目を自分のなかに養うことにつながり、結局は近道になるのではないだろうか。

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